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JAMCO オンライン国際シンポジウム

第33回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2025年2月~

デジタル時代の東南アジアのテレビ局のメディア戦略

デジタル時代を迎えたカンボジア放送業界の現状

山崎幸恵
カンボジア情報サービス代表

▼カンボジア放送業界の概況

 1966年、カンボジア初のテレビ局であるカンボジア国営テレビ(TVK)が誕生。しかしポル・ポト時代に全ての機能が破壊されてしまう。1979年、ヘン・サムリン政権の誕生とともにTVKは再開するも、当時は1日4時間しか番組を放送できなかった。

 1996年になると、日本の全面的な支援を受けてTVKが再建される。放送施設や機材・設備を日本が供与し、1998年に正式に番組放送が再開した。放送環境の向上により、1日の放送時間は4時間から14時間に延長され、衛星放送により126カ国のテレビ番組も見られるようになった。一方、1986年頃までカンボジアにはTVKのほかにベトナムの生番組を放送するテレビ局やフランスのテレビ局、地方のテレビ局など含めて合計15のテレビ局が存在していた。

 長引いた内戦が終息すると、カンボジアの電気通信分野は次第に成長を見せ始めた。特に2012年頃からテレビ業界の競争が激しくなり、新たに民営のテレビ局が開設され、各局はこの競争の波に乗るべく新しい番組制作に力を注ぐようになっていく。政府は2023年までにアナログ放送からデジタル放送に移行することを決定し、カンボジアナショナルデジタルTVプラットフォームを管理する官民パートナーシップ(PPP)会社「Cambodia TV Alliance Co Ltd」を設立する契約が、大手テレビ会社3社(Bayon Media High System Group, Hang Meas Group, Cambodian Broadcasting Service Co Ltd (CBS))の間で2021年の8月に締結した。以来、カンボジアのテレビ業界はデジタル放送の競争が激化している。

▼デジタル化の中核を担う主な放送局

CBS(Cambodian Broadcasting Service)

 カンボジア放送サービスCBS社は2003年の創設以来、カンボジアのテレビ業界において、いろいろな革新の取り組みをしてきた。ニュースとエンターテインメント、教育関係のコンテンツ制作に力を入れており、視聴者に感動を与えるというモットーを掲げている国内一流の民間テレビ放送である。報道によりカンボジア人の視聴者の生活を向上する目的で、CTNやMyTV、CNC、CBSスポーツ、CBSデジタルなどのテレビ放送及びデジタルのプラットフォームを利用し、現在は約1,500万人の視聴者数がおり、国民的に最も人気のあるテレビ会社である。

 CBSは、ONE TV (デジタルTV)、EZECOM (ISP)、CELLCARD (携帯電話事業者) の親会社でもある The Royal Group によって運営されている。CBSのモットーは、娯楽、教育、インスピレーションを与えるトップクラスのテレビを提供することで、すべてのカンボジア人の生活を豊かにすることを目指している。

〇CTNのコンテンツ調達戦略

 CBSは、2003 年に最初のチャンネルであるCambodian Television Network(CTN) を立ち上げた。カンボジアで最も人気のあるテレビ局で、視聴者の30%をカバーしている。特に若いカンボジア人(15~20歳)に人気がある。プノンペンから放送される無料の地上波テレビチャンネルで、有料サブスクリプションで衛星放送も視聴できる。

 CTNは、カンボジアのRoyal Groupとスウェーデンに拠点を置くヨーロッパのデジタルエンターテイメント企業MTGとの合弁事業として最初に設立された。2004年には、CTN International として米国、オーストラリア、カナダで配信を開始。CTN の目標は、カンボジアの視聴者の70%にリーチすることであり、そのためにスウェーデン、米国、英国のさまざまなエンターテイメントおよび教育プログラム形式を導入したほか、国内制作のドキュメンタリーや、ドラマ、スポーツ、コンサートなどの人気番組も放送している。番組は娯楽に重点を置いているが、朝と夕方の時間帯は毎日カンボジアと国際ニュースに充てられている。

視聴者シェア     30%
カバー地域      全国
コンテンツタイプ   無料放送 (VHF)
親会社        Cambodian Broadcasting Service (CBS)Co., Ltd.

〇若者向けコンテンツを多くそろえたMyTV  2008年1月、CTNの最初の姉妹会社としてカンボジア初の若者向けチャンネルであるMyTVが開局。地上波の無料テレビチャンネルで、有料のサブスクリプションで衛星放送も視聴できる。「携帯電話世代」(25 歳未満) をターゲットにしており、カンボジアの若者の間で最も人気のあるテレビチャンネルの1つである。Universal、Sony、EMI、その他の主要な地域の音楽レーベルとの戦略的パートナーシップを通じて、この国で初めて正規のミュージックビデオを導入した。2017年、MyTVの市場シェアは全国第2位となった。2021年以降は、人気司会者が出演するトークショー、バラエティ番組、スポーツ関連番組を導入しているほか、国内外のドラマなど、トップクラスのエンターテイメントを提供し続けている。最も人気のある番組は「like it or not」で、候補者のパフォーマンスがカンボジアのアーティストの審査員によって審査される。MyTVのファン層は、若者(13〜29歳)が60%、中年層(30〜45歳)が40%である。

視聴者シェア     16%
カバー地域      全国
コンテンツタイプ   無料放送 (VHF)
親会社        Cambodian Broadcasting Service (CBS)Co., Ltd.

〇ニュース番組に注力したCNC

 2012年、CBSはカンボジア国内外で起きている最新のニュースをクメールの家庭に届けることに特化した、カンボジア初の24時間年中無休の全国ニュースチャンネルCNCを立ち上げた。地上波の無料テレビ チャンネルで、有料のサブスクリプションで衛星放送も視聴できる。最も人気のある番組は夕方のゴールデンタイムのニュース。カンボジアのほとんどの州をカバーしている。

視聴者シェア     1%
カバー地域      全国
コンテンツタイプ   無料放送 (VHF)
親会社        Cambodian Broadcasting Service (CBS)Co., Ltd.

 2023年を目途にCBS社は放送や制作、マーケティング、配信能力を完全に変革するという目標を掲げてデジタル変革に着手し始めた。このような報道近代化の取り組みは、クラウド・サービスや最先端のAIツール、革新的なオンライン戦略を組み合わせたものであり、運用効率化及び革新的な開発、視聴者とのエンゲージメントを大幅に向上させた。その結果、2024年5月30日にシンガポールで開催された2024 Asia-Pacific Broadcasting + Awardsでデジタルのトランスフォーメーション賞を受賞。CBS社は、従来の放送から主要なコンテンツのプロデューサー、デジタルのプラットフォームへと移行したことで、わずか9か月で200~300万人の潜在視聴者数が1,500万人以上に拡大した。

Bayon TV

 1998年に開局したBayon TVは、他のローカルネットワークと比較して、制作価値の高いオリジナル番組を多数制作している。現オーナーであるフン・セン元首相の長女フン・マナが母親から局を引き継いでから、資金を投入して近代化を図り、国内外のニュースや教育番組、コンサート、クメールボクシングなど番組の種類を拡大している。最も人気のある番組はコンサートとボクシングショーである。現在は、多くの若者層の支持を得ようとエンタメ番組の制作に注力している。現在、デジタル化放送の波に乗っ取ってスマホで見られるようにオンラインのコンテンツ制作に精力を注いでいる。BTV、ETVというテレビ局も同局を運営するBayon Media Hight System Co., Ltd.に属している。

Bayon TVのFacebookページのフォロワー数:2.6M

視聴者シェア     4%
カバー地域      全国
コンテンツタイプ   無料放送 (VHF)
親会社        Bayon Media Hight System Co., Ltd.

Hang Meas HDTV

 Hang Meas Video Company Co., Ltd.は、1994 年にビデオおよびオーディオ制作会社として設立された。香港とシンガポールからドラマ独占配信権を取得し、さらに国内制作のドラマやカラオケビデオ、娯楽ビデオを配信。2009年5月には、親会社が独占的に制作した曲を特集するHang Meas FM(104.5MHz)ラジオ局を開設。その後、Reasmey Hang Meas FM (95.7MHz)が開設された。2012 年には、主にエンターテイメントに重点を置いたHang Meas HDTVを開設。その後、同社は拡大し、Hang Meas HDTVと同様のコンテンツを提供するReasmey Hang Meas HDTV を設立。娯楽番組に強いテレビ局として国内で最も注目され、高い評価を得ている。さらに、コンサートのイベントも開催し、エンタメ企業としてカンボジアのリーディングカンパニーとなっている。現在は携帯での視聴を確保するためにFacebookにより制作したコンテンツ配信の取り組みをしている。テレビ局とラジオ局に加えて、同社はニュースウェブサイト(hangmeasdaily.com)も開設した。ここでは最新のニュースが定期的に更新され、テレビとラジオの両方の番組を視聴できる。

同社は全体として、以下の会社を運営している
     
  • Hang Meas HDTV および Reasmey Hang Meas HDTV
  •  
  • Hang Meas FM および Reasmey Hang Meas FM
  •  
  • Reasmey Hang Meas 映画制作
  •  
  • Phleng Records
  •  
  • WE Production (2015年に開始)


Hang Meas HDTVのFacebookページのフォロワー数:3.5M
Rasmey Hang Meas HDTVのFacebookページのフォロワー数:673K

Hang Meas HDTV
視聴者シェア     23%
カバー地域      全国
コンテンツタイプ   無料放送 (VHF)
親会社        Hang Meas Video Company Co., LTD

PNN

 PNN の正式名称は「People National Network」。ホスピタリティ、農業、不動産、インフラ、エンターテインメント、メディア (2015 年開始) など、多くの分野に大規模な投資を行っているリー・ヨン・パットグループ(L.Y.P Group Co.,Ltd)による約4,000万ドルの投資で、10ヘクタールというカンボジアで最大の敷地を持つテレビ局として知られている。PNNは2015年7月に放送を開始し、ニュース番組や大衆娯楽番組、子ども向けの番組、特にドラマ制作に多額の投資を行っている。また香港やタイのドラマを放送するテレビ局としても注目されている。現在は、PNN PLUS APPの導入などスマートフォンで視聴者数の拡大の努力をしている。

PNN-Tv CambodiaのFacebook ページのフォロワー数:2.3M

▼国営TVKの戦略~教育コンテンツ充実を図る動きなど

 民間の放送局が活発な事業展開をする中、国営のテレビ局もその存在意義を示すためにさまざまな模索をしている。

 フン・マネット内閣が掲げたカンボジア政府のデジタル化政策・2022~2035年と、国家戦略開発計画・2024年~2028年の実施をサポートするために、情報省は情報と視聴覚分野の発展を目的に戦略計画2024-2028を発表したが、デジタル化の導入・進めるに当たっては民間部門からの協力とパートナーが不可欠だという。

 1966年に開設されたカンボジア初のテレビ局であるカンボジア国営テレビ(TVK)は、内戦時に全面的に破壊を受けたが1990年代より日本の全面的な支援を受けて再建された。国営テレビ(情報省管轄)という立ち位置から、国家戦略に基づいて番組作りをしている。新型コロナウイルス感染症が世界中に広まる中、カンボジアでも全国的に学校の閉鎖が相次ぎ、就学児童の学力低下が危惧された。2020年4月に教育・青少年・スポーツ省と情報省の協力により、TVKがいち早くeラーニングに特化した新テレビ局「TVK2(別名TVK Education)」を発足した。幼稚園から高校まで、すべてのレベルの生徒を対象に、主要科目の遠隔学習プログラムを24時間提供。TVK2のほかにも、学生は衛星DTV(チャンネル22)、情報省のアプリ、すべての州および市のケーブルテレビを通じて遠隔学習プログラムにアクセスできることとなった。

▼海外の放送番組に対するカンボジアの人の関心

 カンボジア国民が海外の文化やコンテンツを受ける媒体は、YouTubeやSNSが一般的だ。テレビ放送ではタイや香港、中国などのドラマが昔から放送されているが、日本の最近のアニメなどの情報はテレビではなく上記媒体が主な情報入手手段である。日本のコンテンツでいえば、「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」が10年ほど前に地上波で放送されたことで人気が高まったが、それ以来、若者を中心に日本アニメの人気は広がっている。2022年1月22日にはプノンペン都内のフレンズインターナショナルというストリートチルドレン救済のために創設された地元NGOのプロジェクトの一環として、プノンペン初のアニメフェスティバルが行われた。10代の若者の間で日本のアニメの人気が高まっていることを受け開催されたこのフェスティバルには、漫画やアニメ好きの若者、アニメグッズ販売店、創作漫画の作家などが参加した。

▼放送とインターネット活用の現状

 2013年に入るとカンボジアではインターネットの利用者が急増し、その傾向はテレビ業界にも影響を及ぼしていく。2010年のインターネットユーザー数は32万人強だったが、2013年になると約270万人に膨れ上がった。2020年は1,600万人以上のカンボジア人がインターネットを使用し、そのうち約1,090万人がFacebookユーザーだという。他方、カンボジア政府のデジタル政策2022年~2035年(Digital Government Policy 2022-2035)の報告書によると、2021年には、カンボジアでのインターネットの利用者数は約 1,765 万人だった。携帯電話利用の登録者数が2,053万人おり、総人口の122.84%となったのに対し、携帯電話でインターネットを接続する利用者数は 1,735 万人おり、総人口の105.60%だった。そして、若者の約37%がデジタル化したメディアにアクセスして使用できる状態にある。また、通信部門からの国益に関しては、2020年度で約 1,100ミリオン米ドルで、国内の総生産の約4.2%を占めており、発展途上国の中で高かったと見られている。

 カンボジアの通信会社のWiFiサービス料金が1週間15GBプランで1.5米ドルということもあり、国民のほとんどがスマートフォンでWiFiにアクセスし、特にFacebookを中心としたSNSのアカウントを持ち、様々な情報を得られるようになっている。このため、テレビ番組は主にボクシングやコンサート、サッカー中継などを見るためのもの、日々のニュースや最新情報はSNSで得る、といった傾向が強くなっている。

山崎幸恵

カンボジア情報サービス代表

カンボジア在住30年。1994年に青年海外協力隊の日本語教師隊員としてカンボジアの観光省に赴任。1996年、王立プノンペン大学社会人文学部クメール文学専攻の学生として私費留学をし、2000年に卒業。大学在学中からフリーの日本語・クメール語の通訳・翻訳者としての経験を積み、現地新聞を翻訳してまとめたニュース配信を10年間にわたって行った。2003年にCambodia Joho Service inc.を起業。同年から2023年まで現地の生活情報誌「ニョニュム(NyoNyum)」を発行。会社経営の傍ら、通訳者・翻訳者として多岐にわたる分野の通訳・翻訳の経験と実績を有する。

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