第33回 JAMCOオンライン国際シンポジウム
2025年2月~
デジタル時代の東南アジアのテレビ局のメディア戦略
デジタル時代のタイのテレビ局のメディア戦略
はじめに
このシンポジウムへの前回の寄稿で、著者はタイのテレビ局で進行している運営上の課題について検討した (Bilmanoch, 2014)。ここでは、過去 10 年間のタイのマスメディアの加速的な変化―政府規制の進化、産業環境の変化、完全なデジタル化移行に伴う技術の進歩に関連する変化ーについてまとめる。テレビ局が役割を果たし、存続のために採用した適応戦略について議論し、近い将来の業界の見通しについて概説する。
上述の広く認識されている変化や、COVID-19パンデミックによる稀有なプレッシャーにもかかわらず(Bilmanoch, 2022)テレビはタイのあらゆる年齢の人々にとって主要な情報源であり続けている(Common, 2018; Tortermvasana, 2023)。現在の総人口は約7,200万人(Worldometer, 2024)で、以前の調査では、タイの世帯の98%以上がテレビを所有しており(Common, 2018)、そのうち、地上デジタルテレビ(DTT)の導入率は人口の95%に到達していると報告された(Sportcal, 2019)。2018年には、テレビ視聴者の88.6%が地上波テレビを視聴し、11.4%がケーブルテレビと衛星放送を視聴していた(Sportcal, 2019)。タイで視聴可能なテレビの種類の概要については、図1を参照のこと。
特定の組織の現状や先行きについて説明する前に、背景を理解頂くため、過去 10 年間の一般的な影響、主な出来事、変化について概要を以下に述べる。
2010年から2014年にかけて、タイの国家放送通信委員会(NBTC)は、デジタルシステムへの移行とアナログテレビ信号の段階的廃止に関する計画とスケジュールを策定し、ガイドラインを発表した。全体的なプロセスは4つのフェーズで構成された。すなわち、1.地上デジタルテレビ放送(DTTB)ポリシーの策定、2.ライセンスポリシーと規制、3.オークションと入札の組織化、4.デジタル移行(DSO)の通信と監視(ITU, 2015)である。中でもDSOプロセスは、業界全体の再編を伴う破壊的なもの(Common, 2018)と言われた。デジタルシステムの主な利点は、モバイルブロードバンドプロバイダーが、カバレッジ(可能範囲サービスエリア)を拡大できることである(GSMA, 2017)。これは、主要都市部以外でのインターネットアクセスが限られているタイでは重要な考慮すべき点である(Bilmanoch, 2014)。
2014年以前は、6つの主要な地上波テレビ局が存在した(詳細はBilmanoch, 2014を参照)。法律と規制の変更に伴い(Lin and Oranop, 2016, NBTC, 2020)、2014年1月に24のデジタルテレビライセンスの落札者が発表された。このうち3つの局は子供向け、7つの局はニュースに重点を置き、残りはバラエティ番組をSD(標準規格)とHD(高度規格)で放送した(Common, 2018)。これらの新しい局のいくつかは、2014年4月に開局した。ケーブル、衛星、IPTVに加えて、3つの公共放送チャンネルとあわせて、合計27のチャンネルが利用可能になった。現在のチャンネル数や企業数、プロバイダー数はさまざまだが(変動があるが)、約100のチャンネルが放送されており、複雑で競争の激しい状況で多くの企業が直接または間接的に関わっていることは明らかである。
競争の激しい国内市場で地上波チャンネルが劇的に増加し、テレビ広告収入や個人消費の減少も伴い、さらに視聴者の変化とモバイルデバイスの使用増加も影響して、やがて7つの放送局が閉鎖されることになった(Tortermvasana, 2019, S&P Global, 2020)。残った放送局は、新しい収入源を生み出し、分散する視聴者に対応するために様々な方法を採用してきた。
第一にテレビ局は収入源を多様化し、新たな収入源に投資した。例えば、人気ドラマシリーズの制作・販売をしたり、パートナーと協力して世界市場向け映画を新作したり、さらには主なスポーツイベントの放映権取得などである(Sportcal, 2019)。
第二に、視聴者の多様化、分散化に対しては、若年層に焦点を絞った番組を導入し、様々なオンライン視聴用プラットフォームへのアクセスを改善した。第三に、既存の視聴者を維持し、新しい視聴者を引き付けるために、人気番組のプレゼンテーションの改善に投資し、番組の定期的な再評価に多くのリソースを割り当てて、番組の継続的な品質、魅力、(社会的)適合性を確保してきた(Nation Thailand, 2024)。表1を参照。
COVID-19パンデミックは、テレビ放送局にも新たなプレッシャーを与えた。感染や伝染を減らすことを優先し、直接の対面交流ではなく、視聴覚コミュニケーションの利用が促進され、自宅で情報や娯楽にアクセスできるソースへの必要性が高まった。
この分析では、タイのテレビマスメディアセクターの主要プレーヤーの例として、大手商業テレビ局(チャンネル3)とタイ公共放送サービス(タイPBS)に焦点を当てる。本論文の主な目的は以下の通りである。
(a) 現在のチャンネル3経営者の主要な優先事項と、近い将来に特定の市場(identified market)を拡大するための戦略について議論する。
(b) 公共放送局(タイPBS)が教育コンテンツへの需要の高まりと視聴者の多様化にどのように対応してきたかを検討する。
(c) タイにおける放送の現状と将来の展望を評価する。
チャンネル3(商業放送) – 戦略と課題
商業放送は、主に広告に支えられた、時事問題へのアクセス可能な情報サービスであり、視聴については任意である。重点は多くの消費者にとっての魅力と適合性に置かれる。このチャンネルは最初に開設されたアナログテレビチャンネルの1つであり(1970年設立)、以前は全国の地上デジタルテレビ視聴率の約33%を占めていた(UTI, 2015)。2023年後半の経営陣の議論では、タイの主要なビジネスコンテンツ放送局になるための取り組みが明らかになったが、そこにはいくつかの優先事項と関連する戦略と課題があった。これらは図2にまとめており、以下で簡単に説明する。
チャンネル3は、デジタルテレビ事業開始から3年間は赤字に陥っていた。これはチャンネル数の増加、技術の混乱、視聴者行動の変化など、いくつかの要因によるものであった。生き残るためにチャンネル3は「コンテンツ制作の巨人」になることで成長し、100億バーツの収入と50億バーツの利益を上げることを目標とした。事業計画には、ローカルコンテンツを海外市場に販売することが含まれていた。このため、チャンネル3はアジアテレビフォーラム&マーケット(AFT)にドラマコンテンツを出し、売買するパートナーにテレビドラマを紹介することを計画した(Rinwong, 2022)。
これらの決定以来、チャンネル 3 の幹部は戦略を再考、拡大し、チャンネルが再び利益を上げるように努めた。チャンネル 3 HD は現在、主要な事業目標を再定義し、中核となるテレビ事業に加えて収益を生み出す関連事業に投資する総合エンターテイメント企業になることを目指している。関連事業の 5 つのカテゴリーについては、以下に述べる (MGR Online, 2022)。
これらの投資により、チャンネル3は2026年の収益を80億バーツ以上と見込み、うち50%はテレビメディアから、残りの50%は新規関連事業からもたらされると予想している。これにより、チャンネル3はデジタルテレビ事業におけるリーダーへと前進するだろう。
上記の、広範で長期的な企業グループ戦略に加えて、チャンネル 3 の活動に重点を置いた 3 つの優先事項がある。次にこれらについて説明する。
ニュース番組の強化
この優先事項は次の理由から認識され、実施された。(a) ほとんどのタイの視聴者は、他のどの種類の番組よりも、国内(local)および世界のニュースを日常的に視聴していることが確認されたため (ニールセン, 2022, スタティスタ, 2024)、(b) COVID-19 の影響でタイ人の視聴行動が変化したためである。視聴者の期待に応え有用なニュースを迅速に提供するために、ニュース番組を改善、強化することは、視聴率を最大化する理にかなった選択である。
チャンネル 3 HD は、番組の制作とプレゼンテーション方法を改善し、番組スケジュールを調整した。プレゼンテーションについては、視聴者に人気のプレゼンター(Sorayuth Suthassanachinda、Kanchai、Kitti Singhapatなど)をニュース番組の司会者として起用し、視聴者の関心をひいて視聴を促進した。その結果ニュース番組は全て高い視聴率を維持し、広告収入が大幅に増加した。
番組編成も拡大された。ニュース番組は朝から深夜まで様々な時間枠で放送されている。朝は「Ruang Lao Chao Nee」、昼は「Hone Krasae」、夕方は「Ruang Den Yen Nee」、深夜には「Khao 3 Mitti」などの番組がある。特に人気があるのは、「Ruang Lao Chao Nee」(月曜~金曜、6:00~8:20 a.m.)と「Ruang Lao Sao-Athit」(土曜~日曜、10:30~12:15 p.m.)である。この2つの番組は、広告時間を40~50%増しで販売することができる。この広告収入の増加により、チャンネル3はニュース番組の放送時間を延長した。例えば、早朝ニュースは1日あたり25~30分延長され(広告料金は1分あたり12万バーツ)、土曜・日曜の番組は1日あたり15分延長された(広告料金は1分あたり29万バーツ)。
チャンネル3は、正午のニュース番組(月曜~金曜の11:20~12:35)など、人気のあるニュース番組も追加した。この番組は昼間の視聴率を維持し、さらに広告収入をもたらしている。COVID-19の発生以来、チャンネル3のニュース番組は継続的に人気を博している(Orawan Marketeer, 2022)。
Netflixでのドラマ配信 ― 国際戦略
チャンネル3 HDは、タイのコンテンツリーダーを目指して、エンターテインメント事業に「シングルコンテンツ – マルチプラットフォーム」戦略を採用している。Netflixにドラマを販売することから始まり、3年以上にわたり、チャンネル3は(Netflixと連携して)東南アジアのすべての国で新作ドラマを同日放送してきた。
Netflixとの取り決めに加え、チャンネル3は様々な海外市場とも協力し、放送済みから放送予定のものまで、ドラマを海外のストリーミングプラットフォームで継続的に配信している。2023年には、チャンネル 3とBECスタジオは、ドラマコンテンツライセンスの配信業者契約をI.E. エンターテインメント社と締結した。
I.E. エンターテインメントは当初、4つのドラマを海外市場に輸出した。「Love Destiny」(台湾でPTSプラットフォーム経由で放映)、「Krong Kam」、「Trab Fah Mee Tawan」、および「Rati Luang」で、これらはアフリカの20か国以上でStar Timesビデオストリーミングプラットフォームを通じて放映された。この成功の後、I.E.エンターテインメントは新たに制作したドラマの権利を販売した。「Prom Likhit」、「Matarada」、「Sib Lab Mor Rabad」、「(Game Rak Torayot」などが含まれ、これによりアジア市場にさらに拡大した。
グローバルコンテンツのライセンスには3つのカテゴリーがある。同時放送のライセンス、ストリーミングプラットフォームのライセンス(チャンネル3の放送後2時間以内に再放送を視聴可)、そして、終了したドラマのライセンス(シリーズをより長い期間にわたって再放送できる)である。チャンネル3は現在、タイのドラマのライセンスを世界に向けて拡大している。例えば、メガドラマ「Mor Luang」は10か国以上に販売されている。世界各地で質の高いエンターテインメントが求められていることは明白であり、チャンネル3は、制作するほとんどのドラマを海外販売する計画である。この市場は長期的に成長が見込めると判断しているからだ(Brand Buffet, 2023)。
2023年9月までに、チャンネル3のドラマ、6,200時間以上が販売され、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの様々なプラットフォームで放送された。この業績とタイドラマの海外での人気の高まりから、チャンネル3はさらに収益を得るために視聴者基盤を海外に拡大する計画である(TV Digital Watch, 2023)。
将来の放送とインターネットのための事業スキームと戦略の構築
チャンネル3は、今後5年間の事業運営に関する戦略計画を立てている。総収益の当初の目標は、テレビ広告が70%、デジタルメディアと海外市場へのコンテンツ販売が25%、その他のソースが5%である。この計画により、コンテンツ制作の外注(hiring content production)、共同制作、イベントの企画、製品販売など、ビジネスの他の側面が拡大した。さらにビジネスパートナーや他のプラットフォームと契約を結び、多くの海外市場に進出している(Nicharee, 2023)。
チャンネル 3 は今後のテレビ事業で「総合エンターテインメント企業」として、コンテンツ制作のリーダーになることを計画している。そのため「単一コンテンツ複数プラットフォーム」というアイデアを活用しているが、この戦略では、コンテンツ制作に単一の投資を行い、複数のプラットフォームやチャンネル、その他のソースから収益を生み出すことができる。
ドラマ制作では、「統合マーケティング コミュニケーション (IMC) モデル」に基づいてコンテンツが企画されている。これはマーケティングコミュニケーション戦略であり、プロダクトオーナーら(product owners)を招いてドラマの全エピソードを通じて製品広告を計画することにより、プロジェクトの開始時から収益を生むことができる。
例えば、「Doctor Foster(ドクター・フォスター)」は多くの国で人気があり高い視聴率を誇っている。多くのメーカーがこの番組を利用して自社製品を宣伝したいと考えている。そこで、チャンネル 3 は、「ブランドコンテンツ」をデザインに取り入れ、さまざまな製品をエピソードのふさわしいシーンに登場させている。車、家庭用品、衣類、食品、飲料、様々な場所など、シリーズの登場人物の生活に簡単に結び付けることができる。
このマーケティング戦略は、チャンネル3ドラマ制作の新たな方向性である。さらに、このモデルは、音楽ビジネス、アーティストマネジメント、レーベル所属アーティストの製品プレゼンターの採用など、他の分野での収益拡大にも役立つ(Onjira, 2023)。新たな収益については、スポーツに関連したものもある。タイのテレビ局によるインターネットの活用は10年以上続いているが(Bilmanoch, 2014)、この数年でスポーツイベントの放映権を取得することで商業的利益が十分に認識されるようになった(Sportcal, 2019)。
タイ公共放送サービス – 戦略と課題
公共放送について長い歴史を持つところもあるが、タイでは2008年にようやくオフィシャルな公共放送が始まった(Mendel, 2010)。タイ公共放送サービス(タイPBS)は、「公共放送サービス法」(2008年)に基づいて設立された。タイ初の非営利公共メディア組織として、タイPBSは公共の利益となる正確で包括的なニュースと、教育サービスを提供する責任をもつ。PBSはラジオ局を運営し、地上デジタルテレビ視聴者の約4%を占めている(ITU, 2015)。タイの公共放送の進歩は、他のアジア諸国と比較して良いとされている点は強調すべきだろう。それらの国々では政治的支援の欠如や既存メディアの利害関係者の反対により公共放送サービスの実施や成長が妨げられている(Mendel, 2010)。タイPBSの発展と変化への対応については、図3を参照のこと。

公共放送の基本的な役割は、メンデル(2010)が挙げているように、社会問題の解決に向けた議論の提供、国民への重要な実用情報の配信、娯楽の提供などがある。商業放送局とは異なる役割であり、PBS が直面している優先事項や課題が反映される(下記参照)。ただし、これらの役割は、社会状況の変化、視聴者の期待、その他の要因によっても変わることがある。
例えば、最近タイで発生した深刻な洪水(Bangkok Post, 2024, CNA Live News, 2024)では、浸水地域、個人の安全、道路封鎖、食料、燃料、電力供給、緊急・避難サービスなどの日常的な実用情報の提供が重要だった。しかし数か月後には、地域情報の重点は取水制限、大気汚染、山火事などに移るかもしれない。
教育コンテンツとユニバーサルサービスの需要拡大
教育用素材やサービスへの需要が増大することが予想される。コミュニティーの教育レベルは向上し、教育方法や生涯学習の重要性に対する考え方も変化し、子供のための教育インフォテインメント(情報娯楽番組)に親は期待し、スキル向上へのコミュニティーのニーズ、技術的タスクを遂行するためのリテラシーの向上などが求められているからだ。
近年の通信技術の急速な進歩があらゆる人間の活動に影響を及ぼす中、学習プロセスや教育方法、さらに様々な環境で目に見える成果を達成するためのマネジメントについても、抜本的な見直しが行われている (Hansopha et al., 2020)。テレビのようなメディアが教育や情報を伝える中心的な役割をはたしていることは、数年前から認識されている (Bandura, 2002)。すべてのタイの子どもたちのため、NBTC は各世帯を公共通信ネットワークに接続し、タイの公共テレビチャンネルを通じて教育番組に普遍的にアクセス可能にする政策を実施している (NBTC, 2010)。
現状では、プレゼンテーションを改善したより新しい番組、特定の年齢層にフォーカスした番組を多く制作する必要がある。公共放送にとって視聴者のポジティブな反応が重要である。社会のあらゆる層(年齢、社会的地位)のために有用な情報源として、総合的、教育的役割を果たしていることを示す必要がある。
ALTVの展望
COVID-19の危機はタイの教育システムのすべての分野に影響を与え、学校や教育機関が閉鎖され、若者の教育に多くの悪影響を及ぼした。NBTCはパンデミック中の学生の学習を支援するという責任を認識し、2020年にPBSに新しい特別教育テレビチャンネル(ALTV)の立ち上げを許可した(NBTC Office, 2020, Public Media Alliance, 2022)。
これは地上デジタルテレビチャンネルで、タイPBSの補助的なテレビ局とみなされチャンネル4で放送されている。ALTVは学習を促進し、家庭と学校の間での教育と学習を統合することを目指している。この目標のために、ALTVは、チュラロンコン大学の教育学部やコミュニケーションアート学部、保護者ネットワーク、子供番組制作者ネットワークなど、様々な教育ネットワークと協力して、青少年教育のための質の高いコンテンツを共同で制作している。ALTVは、科目グループと子供の能力開発を組み合わせたコンテンツと番組スケジュールを設計することで、教育テレビチャンネルグループを強化している。コンテンツは、対象グループごとに決められ、子供と若者(43%)、教師(34%)、保護者(23%)に分かれている。プログラムの種類は、知識コンテンツ、教育強化(40%)、教師のデモンストレーション(36%)、家族向けコンテンツ、時事問題、その他(24%)に分かれている。毎日のプログラムは、対象グループの年齢に応じて編成されている。午前中は幼児から小学生、高校生、ティーンエイジャーまでを対象とし、夕方には放送終了前に保護者向けの番組を放送する。午後(月曜~金曜)は教師のための時間が割り当てられ、授業のデモンストレーションや経験をシェアする番組が放送される(タイ公共放送PBS, 2022)。
多様な学習形式の需要やあらゆる状況に対応するために次の6つのタイプのプログラムが作成された。
つまり、ALTV は、子ども、教師、保護者、コミュニティーが協力して学ぶことに重点を置くテレビ チャンネルである。これは、新しい学習方法を広範囲の新しい場で進める公共システムの重要な部分であり、現在と、これから予測されるニーズにも見合うため、継続的に重要なことは明らかである。
視聴者の多様化への対応
テレビ視聴者の行動に影響を与える多くの要因と、それらと文化との関係は、何十年にもわたって記録されてきた (Morley, 2003)。タイでは特に、興味やニーズ、視聴者反響の多様性が重要になってきており、近年では視聴者の大幅な多様化が記録されている (Common, 2018)。特に若年層の間でテレビ視聴者の分散が著しい。彼らはテレビから離れつつあり、Z 世代を例にとると、あらゆるコンテンツを多様なオンラインプラットフォームで視聴している。
チャンネル3や他のテレビ局と同様に、タイPBSはオンラインプラットフォームで視聴者を維持し、新たな視聴者を引き付けるための戦略を立てた。このプロモーション策には、利用しやすい視聴サービス機能の開発が含まれる。タイPBSのウェブサイトは、「Thai PBS NOW, Click Every Day, Catch Up with Every Event(毎日クリックして、すべてのイベントをキャッチアップ)」というタイトルのもとで再構築され、あらゆる視聴者グループに便利なテクノロジーと機能を備えている。このウェブサイトは、タイPBSネットワークの10のウエブサイトからのコンテンツを一つの場所にリンクし統合することで、ポートフォリオ全体のひとつのゲートウェイとして機能するように設計されている(タイPBS, 2023)。
さらにタイPBS は、ビデオストリーミングプラットフォームVIPA を通じたビデオオンデマンド (VOD) でオンラインサービスも提供している。VIPAでは過去 11 年間に タイPBS TV で放送されたアーカイブ番組やVIPA用に制作された新しい番組を放送している。VIPA はUSER GENERATED(ユーザー生成型)カテゴリーの番組を提供するプラットフォームとしても機能している。これは新世代の番組制作者のためのパブリックスペースであり、参加者は タイPBS TV の番組制作チームからアドバイスや支援を受けることができる (VIPA.me, 2024)。
タイPBSTVは、オンラインプラットフォームで過去や現在の番組にアクセスすることを常に改善し視聴者にアピールしている。彼らは携帯電話やタブレットなどの様々な通信デバイスを通じてコンテンツを快適に視聴している。これにより様々な興味やニーズを持つ若い視聴者の関心を引き、将来の視聴者拡大への投資となる。専門的な参加型番組などの他では対応していない需要にもこたえ、あらゆる年齢層、特定の興味を持つ層の長期の視聴を促進している。
公共放送の役割・重要性の再評価
タイPBSの公共放送としての社会的、教育的、コミュニティーの福祉に向けての目的は変わらない(Mendel, 2010, Linkedin Thailand, 2021)。しかし、公共放送局が視聴者とどのように関わるか、そのストラテジーと技術の一部は前述のように変化している。公共放送は、教育と技術的知識の必要性が高い発展途上国ではより重要である(UNESCO, 2005)。タイでは、一度に比較的少数の視聴者にサービスを提供しているが、公共放送の必要性は高まっており、その主な理由は以下である。
(a)人口増加と技術・情報ベースの経済への移行に伴い、専門的な教育教材の必要性が高まっている。
(b) 公共放送は革新的な教育技術開発のロジカルな中心となり、新しい技術や既存のアクセス可能な技術をうまく組み合わせることで、様々な場で学びを促進することができる。
(c) 公共放送局は、政治的干渉や商業的偏見のない正確な情報を発信し、商業メディアでは得られない社会的コメントや文化的サービスを提供する。
要約すると、積極的、革新的なPBSに対して適切に継続して財政やリソース支援をすることは、タイの将来の発展にとって不可欠な投資である。
まとめ
今日のタイにおける放送
複雑で競争が激しく、ダイナミックなメディア環境において、ソーシャルメディアやストリーミングプラットフォームによる変革(disruption)にもかかわらず、デジタルテレビが依然としてその地位を維持していることは注目すべきである (CISION, 2024)。これは、都市部と非都市部の間に認められた違いによるところが大きく、非都市部では多くの人が依然としてテレビを主な情報源、娯楽源として毎日視聴している (Tortermvasana, 2023)。したがって、将来の存続には、積極的で適切なマネジメントが不可欠であり、主要な役割の再評価と、提供される番組(products)やサービスの質の向上が必要である。
現在、テレビ放送業界は基本的な営利的プレッシャーが続くなか、いくつかの一般的な課題にも向き合っている。ニュースや時事番組の改善、教育素材のアウトプット(生産)の増加、質の高い国際番組への継続的なアクセス、視聴者の多様化/分散化およびインターネットアクセスの普及に対する戦略の精査、そして管理上の問題を支援する AI の活用などの課題だ。
タイの人口の88%(約6,200万人)がインターネットユーザーとの報告がある(BBCニュース, 2023) この文脈では、視聴者の分散についてさらにコメントすることは関連性がある。このプロセスは、消費者が異なるメディアチャネルに分散することによるものであり、コメンテーターたちは、ソーシャルメディアが視聴者の行動に大きな影響を与えていると一致して認め、異なるプラットフォームが、異なる活動を強調していると述べている。(例:YouTubeは収入を生み出すため、TikTokはショッピングとニュースの更新のため)。インフルエンサー市場は「ファンダムマーケティング」の概念が依然として人気があるため拡大を続けている(CISION, 2024年)。
将来の展望
複雑なタイのメディアセクターでは、創造的、芸術的、文化的価値を維持しながら営利的現実に向き合うなど、いくつかの課題が常にある (Common, 2018)。しかし効率的な経営を前提として、過去 10 年間の技術の多様化、デジタル化への転換、目まぐるしい社会経済的変化にまつわる多くの破壊的影響にもかかわらず、近い将来のタイの放送の見通しは明るい。楽観的な見方をするのは次の理由からだ。信頼あるニュースとローカル(国内)時事問題の質の高い分析が常に求められるため。質の高い海外コンテンツとのローカル(国内)ドラマシリーズが常に求められるため。公共放送の社会的役割への認識が高まってきたため。教育コンテンツへの需要が増加しているため。そして都市部以外の、地方における家族/コミュニティーのインフォテインメント(情報エンターテイメント)として、テレビが中心的な役割を担い続けているためである。
しかし、特にAIや視聴者の分散に関する問題については、継続的な計画の重要性を強調しすぎることはない。また、既存のデジタルテレビライセンスはすべて2029年に終了となるため、将来のライセンスについては行政上(administrative)の不確定要素と言える(Tortermvasana, 2023)。
このシンポジウムへの前回の寄稿で、著者はタイのテレビ局で進行している運営上の課題について検討した (Bilmanoch, 2014)。ここでは、過去 10 年間のタイのマスメディアの加速的な変化―政府規制の進化、産業環境の変化、完全なデジタル化移行に伴う技術の進歩に関連する変化ーについてまとめる。テレビ局が役割を果たし、存続のために採用した適応戦略について議論し、近い将来の業界の見通しについて概説する。
上述の広く認識されている変化や、COVID-19パンデミックによる稀有なプレッシャーにもかかわらず(Bilmanoch, 2022)テレビはタイのあらゆる年齢の人々にとって主要な情報源であり続けている(Common, 2018; Tortermvasana, 2023)。現在の総人口は約7,200万人(Worldometer, 2024)で、以前の調査では、タイの世帯の98%以上がテレビを所有しており(Common, 2018)、そのうち、地上デジタルテレビ(DTT)の導入率は人口の95%に到達していると報告された(Sportcal, 2019)。2018年には、テレビ視聴者の88.6%が地上波テレビを視聴し、11.4%がケーブルテレビと衛星放送を視聴していた(Sportcal, 2019)。タイで視聴可能なテレビの種類の概要については、図1を参照のこと。

2010年から2014年にかけて、タイの国家放送通信委員会(NBTC)は、デジタルシステムへの移行とアナログテレビ信号の段階的廃止に関する計画とスケジュールを策定し、ガイドラインを発表した。全体的なプロセスは4つのフェーズで構成された。すなわち、1.地上デジタルテレビ放送(DTTB)ポリシーの策定、2.ライセンスポリシーと規制、3.オークションと入札の組織化、4.デジタル移行(DSO)の通信と監視(ITU, 2015)である。中でもDSOプロセスは、業界全体の再編を伴う破壊的なもの(Common, 2018)と言われた。デジタルシステムの主な利点は、モバイルブロードバンドプロバイダーが、カバレッジ(可能範囲サービスエリア)を拡大できることである(GSMA, 2017)。これは、主要都市部以外でのインターネットアクセスが限られているタイでは重要な考慮すべき点である(Bilmanoch, 2014)。
2014年以前は、6つの主要な地上波テレビ局が存在した(詳細はBilmanoch, 2014を参照)。法律と規制の変更に伴い(Lin and Oranop, 2016, NBTC, 2020)、2014年1月に24のデジタルテレビライセンスの落札者が発表された。このうち3つの局は子供向け、7つの局はニュースに重点を置き、残りはバラエティ番組をSD(標準規格)とHD(高度規格)で放送した(Common, 2018)。これらの新しい局のいくつかは、2014年4月に開局した。ケーブル、衛星、IPTVに加えて、3つの公共放送チャンネルとあわせて、合計27のチャンネルが利用可能になった。現在のチャンネル数や企業数、プロバイダー数はさまざまだが(変動があるが)、約100のチャンネルが放送されており、複雑で競争の激しい状況で多くの企業が直接または間接的に関わっていることは明らかである。
競争の激しい国内市場で地上波チャンネルが劇的に増加し、テレビ広告収入や個人消費の減少も伴い、さらに視聴者の変化とモバイルデバイスの使用増加も影響して、やがて7つの放送局が閉鎖されることになった(Tortermvasana, 2019, S&P Global, 2020)。残った放送局は、新しい収入源を生み出し、分散する視聴者に対応するために様々な方法を採用してきた。
第一にテレビ局は収入源を多様化し、新たな収入源に投資した。例えば、人気ドラマシリーズの制作・販売をしたり、パートナーと協力して世界市場向け映画を新作したり、さらには主なスポーツイベントの放映権取得などである(Sportcal, 2019)。
第二に、視聴者の多様化、分散化に対しては、若年層に焦点を絞った番組を導入し、様々なオンライン視聴用プラットフォームへのアクセスを改善した。第三に、既存の視聴者を維持し、新しい視聴者を引き付けるために、人気番組のプレゼンテーションの改善に投資し、番組の定期的な再評価に多くのリソースを割り当てて、番組の継続的な品質、魅力、(社会的)適合性を確保してきた(Nation Thailand, 2024)。表1を参照。

この分析では、タイのテレビマスメディアセクターの主要プレーヤーの例として、大手商業テレビ局(チャンネル3)とタイ公共放送サービス(タイPBS)に焦点を当てる。本論文の主な目的は以下の通りである。
(a) 現在のチャンネル3経営者の主要な優先事項と、近い将来に特定の市場(identified market)を拡大するための戦略について議論する。
(b) 公共放送局(タイPBS)が教育コンテンツへの需要の高まりと視聴者の多様化にどのように対応してきたかを検討する。
(c) タイにおける放送の現状と将来の展望を評価する。
チャンネル3(商業放送) – 戦略と課題
商業放送は、主に広告に支えられた、時事問題へのアクセス可能な情報サービスであり、視聴については任意である。重点は多くの消費者にとっての魅力と適合性に置かれる。このチャンネルは最初に開設されたアナログテレビチャンネルの1つであり(1970年設立)、以前は全国の地上デジタルテレビ視聴率の約33%を占めていた(UTI, 2015)。2023年後半の経営陣の議論では、タイの主要なビジネスコンテンツ放送局になるための取り組みが明らかになったが、そこにはいくつかの優先事項と関連する戦略と課題があった。これらは図2にまとめており、以下で簡単に説明する。

これらの決定以来、チャンネル 3 の幹部は戦略を再考、拡大し、チャンネルが再び利益を上げるように努めた。チャンネル 3 HD は現在、主要な事業目標を再定義し、中核となるテレビ事業に加えて収益を生み出す関連事業に投資する総合エンターテイメント企業になることを目指している。関連事業の 5 つのカテゴリーについては、以下に述べる (MGR Online, 2022)。
- スタジオと制作施設: チャンネル 3 は主な活動の 1 つを「ドラマ」コンテンツの制作としており、さまざまなターゲットにアピールするストーリー (ドラマ) を年間約 30 本制作するために 20 億バーツの予算を設定した。BEC スタジオが主な撮影場所として使用されているが、チャンネル 3 はすべてのシーンを屋内で撮影できる「バーチャルスタジオ」を新たに建設した。これにより、悪天候による撮影の遅れが減り、海外での撮影の必要性も減ることになる。またチャンネル 3 HD は4 億バーツを超える予算を投入してサウンドステージスタジオも設立し、国内外のオンラインプラットフォームで放送する高品質のテレビドラマシリーズを制作している。
- アーティストの管理: 前述の新しいドラマのターゲットにより、チャンネル3 HD は常に新しい作品に出演する新しい俳優を選定しており、管理する俳優の数は増えている。これらのアーティストが外部コンテンツを制作する組織と協力することを許可することで、チャンネル 3 は俳優、女優といった資産をより有効に活用することができる。一例として、Yaya (Urassaya Sperbund) がシリーズ「Tham Luang: Mission of Hope」(タイの洞窟救出) に出演したことが挙げられる。これにより大幅な追加収益が得られた。
- 音楽とサウンドトラックの制作: チャンネル 3 の子会社である Chandelier Music は、制作したドラマのサウンドトラックを作成している。これらのサウンドトラックはチャンネル 3 の著作物であり、それ自体で収益を生み出すことができる。さらに収益増加のために、チャンネル 3 は歌やダンスの才能のある俳優を選び、彼らを総合的なエンターテイナーとして育成することを決定した。すでに Taew (Nathaphon Tameeruks) と Bow (Melda Susri) を歌手としてプロモートしており、今後も他の俳優を宣伝する計画がある。
- 4. 映画制作および映画館:チャンネル3は2022年から映画事業に参入し、Mピクチャーズ エンターテインメントと協力して「Big Movies Big Project 2022」で映画を共同制作している。Anne Thongprasomとチャンネル3の主演俳優Kanawut Traipipattanapongが主演する「Buaphan Fun Yab」から始まり、その後、映画制作を行い、複数の映画館を所有するMスタジオ社との協力へと続いた。2023年には、Nadech Kugimiya主演の映画「ティーヨッド(Tee Yod)死の囁き」が制作され、国内外の映画館で公開された。この映画は成功をおさめ約5億バーツの収益を上げた。2024年には、チャンネル3とMスタジオが共同で「ティーヨッド2(Tee Yod 2)」と「マナマン(Manaman)」を制作した。さらに5本の映画が計画されており、世界の映画市場への進出も計画されている(CH3Plus、2024)。
- CH3アプリケーションと(視聴者)参加:CH3 Plusは、2020年にリリースされたCH3アプリケーションの改良版である。CH3 Plusは、ニュース、ドラマ、映画など、様々な1,000以上のコンテンツがあり、ニーズに応じて視聴することができる。「3 Plus、Any where Any time Any Device(どこでも、いつでも、どのデバイスでも)」のコンセプトの下、視聴者は「無料視聴」または月額79バーツからの「サブスクリプション」サービスを選択できる。加入者には様々な特典がある。例えば、放送日の深夜からのシリーズ再放送の視聴と、タイ語吹き替えの海外シリーズ番組の視聴、俳優の個人クリップへのアクセス、ファンミーティング情報へのアクセス、月間スター投票への参加などである(Marketing Oops!, 2022)。このアプリケーションは、視聴者のエンゲージメントを促し、長期的にチャンネル3に収益をもたらす参加型商品である。
これらの投資により、チャンネル3は2026年の収益を80億バーツ以上と見込み、うち50%はテレビメディアから、残りの50%は新規関連事業からもたらされると予想している。これにより、チャンネル3はデジタルテレビ事業におけるリーダーへと前進するだろう。
上記の、広範で長期的な企業グループ戦略に加えて、チャンネル 3 の活動に重点を置いた 3 つの優先事項がある。次にこれらについて説明する。
ニュース番組の強化
この優先事項は次の理由から認識され、実施された。(a) ほとんどのタイの視聴者は、他のどの種類の番組よりも、国内(local)および世界のニュースを日常的に視聴していることが確認されたため (ニールセン, 2022, スタティスタ, 2024)、(b) COVID-19 の影響でタイ人の視聴行動が変化したためである。視聴者の期待に応え有用なニュースを迅速に提供するために、ニュース番組を改善、強化することは、視聴率を最大化する理にかなった選択である。
チャンネル 3 HD は、番組の制作とプレゼンテーション方法を改善し、番組スケジュールを調整した。プレゼンテーションについては、視聴者に人気のプレゼンター(Sorayuth Suthassanachinda、Kanchai、Kitti Singhapatなど)をニュース番組の司会者として起用し、視聴者の関心をひいて視聴を促進した。その結果ニュース番組は全て高い視聴率を維持し、広告収入が大幅に増加した。
番組編成も拡大された。ニュース番組は朝から深夜まで様々な時間枠で放送されている。朝は「Ruang Lao Chao Nee」、昼は「Hone Krasae」、夕方は「Ruang Den Yen Nee」、深夜には「Khao 3 Mitti」などの番組がある。特に人気があるのは、「Ruang Lao Chao Nee」(月曜~金曜、6:00~8:20 a.m.)と「Ruang Lao Sao-Athit」(土曜~日曜、10:30~12:15 p.m.)である。この2つの番組は、広告時間を40~50%増しで販売することができる。この広告収入の増加により、チャンネル3はニュース番組の放送時間を延長した。例えば、早朝ニュースは1日あたり25~30分延長され(広告料金は1分あたり12万バーツ)、土曜・日曜の番組は1日あたり15分延長された(広告料金は1分あたり29万バーツ)。
チャンネル3は、正午のニュース番組(月曜~金曜の11:20~12:35)など、人気のあるニュース番組も追加した。この番組は昼間の視聴率を維持し、さらに広告収入をもたらしている。COVID-19の発生以来、チャンネル3のニュース番組は継続的に人気を博している(Orawan Marketeer, 2022)。
Netflixでのドラマ配信 ― 国際戦略
チャンネル3 HDは、タイのコンテンツリーダーを目指して、エンターテインメント事業に「シングルコンテンツ – マルチプラットフォーム」戦略を採用している。Netflixにドラマを販売することから始まり、3年以上にわたり、チャンネル3は(Netflixと連携して)東南アジアのすべての国で新作ドラマを同日放送してきた。
Netflixとの取り決めに加え、チャンネル3は様々な海外市場とも協力し、放送済みから放送予定のものまで、ドラマを海外のストリーミングプラットフォームで継続的に配信している。2023年には、チャンネル 3とBECスタジオは、ドラマコンテンツライセンスの配信業者契約をI.E. エンターテインメント社と締結した。
I.E. エンターテインメントは当初、4つのドラマを海外市場に輸出した。「Love Destiny」(台湾でPTSプラットフォーム経由で放映)、「Krong Kam」、「Trab Fah Mee Tawan」、および「Rati Luang」で、これらはアフリカの20か国以上でStar Timesビデオストリーミングプラットフォームを通じて放映された。この成功の後、I.E.エンターテインメントは新たに制作したドラマの権利を販売した。「Prom Likhit」、「Matarada」、「Sib Lab Mor Rabad」、「(Game Rak Torayot」などが含まれ、これによりアジア市場にさらに拡大した。
グローバルコンテンツのライセンスには3つのカテゴリーがある。同時放送のライセンス、ストリーミングプラットフォームのライセンス(チャンネル3の放送後2時間以内に再放送を視聴可)、そして、終了したドラマのライセンス(シリーズをより長い期間にわたって再放送できる)である。チャンネル3は現在、タイのドラマのライセンスを世界に向けて拡大している。例えば、メガドラマ「Mor Luang」は10か国以上に販売されている。世界各地で質の高いエンターテインメントが求められていることは明白であり、チャンネル3は、制作するほとんどのドラマを海外販売する計画である。この市場は長期的に成長が見込めると判断しているからだ(Brand Buffet, 2023)。
2023年9月までに、チャンネル3のドラマ、6,200時間以上が販売され、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの様々なプラットフォームで放送された。この業績とタイドラマの海外での人気の高まりから、チャンネル3はさらに収益を得るために視聴者基盤を海外に拡大する計画である(TV Digital Watch, 2023)。
将来の放送とインターネットのための事業スキームと戦略の構築
チャンネル3は、今後5年間の事業運営に関する戦略計画を立てている。総収益の当初の目標は、テレビ広告が70%、デジタルメディアと海外市場へのコンテンツ販売が25%、その他のソースが5%である。この計画により、コンテンツ制作の外注(hiring content production)、共同制作、イベントの企画、製品販売など、ビジネスの他の側面が拡大した。さらにビジネスパートナーや他のプラットフォームと契約を結び、多くの海外市場に進出している(Nicharee, 2023)。
チャンネル 3 は今後のテレビ事業で「総合エンターテインメント企業」として、コンテンツ制作のリーダーになることを計画している。そのため「単一コンテンツ複数プラットフォーム」というアイデアを活用しているが、この戦略では、コンテンツ制作に単一の投資を行い、複数のプラットフォームやチャンネル、その他のソースから収益を生み出すことができる。
ドラマ制作では、「統合マーケティング コミュニケーション (IMC) モデル」に基づいてコンテンツが企画されている。これはマーケティングコミュニケーション戦略であり、プロダクトオーナーら(product owners)を招いてドラマの全エピソードを通じて製品広告を計画することにより、プロジェクトの開始時から収益を生むことができる。
例えば、「Doctor Foster(ドクター・フォスター)」は多くの国で人気があり高い視聴率を誇っている。多くのメーカーがこの番組を利用して自社製品を宣伝したいと考えている。そこで、チャンネル 3 は、「ブランドコンテンツ」をデザインに取り入れ、さまざまな製品をエピソードのふさわしいシーンに登場させている。車、家庭用品、衣類、食品、飲料、様々な場所など、シリーズの登場人物の生活に簡単に結び付けることができる。
このマーケティング戦略は、チャンネル3ドラマ制作の新たな方向性である。さらに、このモデルは、音楽ビジネス、アーティストマネジメント、レーベル所属アーティストの製品プレゼンターの採用など、他の分野での収益拡大にも役立つ(Onjira, 2023)。新たな収益については、スポーツに関連したものもある。タイのテレビ局によるインターネットの活用は10年以上続いているが(Bilmanoch, 2014)、この数年でスポーツイベントの放映権を取得することで商業的利益が十分に認識されるようになった(Sportcal, 2019)。
タイ公共放送サービス – 戦略と課題
公共放送について長い歴史を持つところもあるが、タイでは2008年にようやくオフィシャルな公共放送が始まった(Mendel, 2010)。タイ公共放送サービス(タイPBS)は、「公共放送サービス法」(2008年)に基づいて設立された。タイ初の非営利公共メディア組織として、タイPBSは公共の利益となる正確で包括的なニュースと、教育サービスを提供する責任をもつ。PBSはラジオ局を運営し、地上デジタルテレビ視聴者の約4%を占めている(ITU, 2015)。タイの公共放送の進歩は、他のアジア諸国と比較して良いとされている点は強調すべきだろう。それらの国々では政治的支援の欠如や既存メディアの利害関係者の反対により公共放送サービスの実施や成長が妨げられている(Mendel, 2010)。タイPBSの発展と変化への対応については、図3を参照のこと。

公共放送の基本的な役割は、メンデル(2010)が挙げているように、社会問題の解決に向けた議論の提供、国民への重要な実用情報の配信、娯楽の提供などがある。商業放送局とは異なる役割であり、PBS が直面している優先事項や課題が反映される(下記参照)。ただし、これらの役割は、社会状況の変化、視聴者の期待、その他の要因によっても変わることがある。
例えば、最近タイで発生した深刻な洪水(Bangkok Post, 2024, CNA Live News, 2024)では、浸水地域、個人の安全、道路封鎖、食料、燃料、電力供給、緊急・避難サービスなどの日常的な実用情報の提供が重要だった。しかし数か月後には、地域情報の重点は取水制限、大気汚染、山火事などに移るかもしれない。
教育コンテンツとユニバーサルサービスの需要拡大
教育用素材やサービスへの需要が増大することが予想される。コミュニティーの教育レベルは向上し、教育方法や生涯学習の重要性に対する考え方も変化し、子供のための教育インフォテインメント(情報娯楽番組)に親は期待し、スキル向上へのコミュニティーのニーズ、技術的タスクを遂行するためのリテラシーの向上などが求められているからだ。
近年の通信技術の急速な進歩があらゆる人間の活動に影響を及ぼす中、学習プロセスや教育方法、さらに様々な環境で目に見える成果を達成するためのマネジメントについても、抜本的な見直しが行われている (Hansopha et al., 2020)。テレビのようなメディアが教育や情報を伝える中心的な役割をはたしていることは、数年前から認識されている (Bandura, 2002)。すべてのタイの子どもたちのため、NBTC は各世帯を公共通信ネットワークに接続し、タイの公共テレビチャンネルを通じて教育番組に普遍的にアクセス可能にする政策を実施している (NBTC, 2010)。
現状では、プレゼンテーションを改善したより新しい番組、特定の年齢層にフォーカスした番組を多く制作する必要がある。公共放送にとって視聴者のポジティブな反応が重要である。社会のあらゆる層(年齢、社会的地位)のために有用な情報源として、総合的、教育的役割を果たしていることを示す必要がある。
ALTVの展望
COVID-19の危機はタイの教育システムのすべての分野に影響を与え、学校や教育機関が閉鎖され、若者の教育に多くの悪影響を及ぼした。NBTCはパンデミック中の学生の学習を支援するという責任を認識し、2020年にPBSに新しい特別教育テレビチャンネル(ALTV)の立ち上げを許可した(NBTC Office, 2020, Public Media Alliance, 2022)。
これは地上デジタルテレビチャンネルで、タイPBSの補助的なテレビ局とみなされチャンネル4で放送されている。ALTVは学習を促進し、家庭と学校の間での教育と学習を統合することを目指している。この目標のために、ALTVは、チュラロンコン大学の教育学部やコミュニケーションアート学部、保護者ネットワーク、子供番組制作者ネットワークなど、様々な教育ネットワークと協力して、青少年教育のための質の高いコンテンツを共同で制作している。ALTVは、科目グループと子供の能力開発を組み合わせたコンテンツと番組スケジュールを設計することで、教育テレビチャンネルグループを強化している。コンテンツは、対象グループごとに決められ、子供と若者(43%)、教師(34%)、保護者(23%)に分かれている。プログラムの種類は、知識コンテンツ、教育強化(40%)、教師のデモンストレーション(36%)、家族向けコンテンツ、時事問題、その他(24%)に分かれている。毎日のプログラムは、対象グループの年齢に応じて編成されている。午前中は幼児から小学生、高校生、ティーンエイジャーまでを対象とし、夕方には放送終了前に保護者向けの番組を放送する。午後(月曜~金曜)は教師のための時間が割り当てられ、授業のデモンストレーションや経験をシェアする番組が放送される(タイ公共放送PBS, 2022)。
多様な学習形式の需要やあらゆる状況に対応するために次の6つのタイプのプログラムが作成された。
- アクティブラーニングニュース – 学習や日常生活に応用できるコンテンツ、ニュースを紹介。
- ホームルームホームラン – 生活や教育の指導(ガイダンス)を紹介し、教育ガイドラインの提案、それぞれの生活を振り返る。
- スマートクラスルーム – 新しい、専門的なスキルの促進、スキルを素早く理解して習得できるように、インタラクティブなコミュニケーションを重視する。
- ナレッジファーム – 多様な場での活動を通じて学習コンテンツを提供し、視聴者が異なる状況から学んだ知識を家庭、学校、地域社会で効果的にいかせるようにする。
- チューター ハブ – すべてのグループが、興味ある科目を教えたり、学んだりできるように、コンテンツとイノベーションを提供する。
- ナレッジ プール – 様々な分野の知識リポジトリ(保管場所/データベース)としてコンテンツを紹介する。視聴者はそこでお互いの知識をやり取りし共有することで人生経験(life experiences)を得る。
つまり、ALTV は、子ども、教師、保護者、コミュニティーが協力して学ぶことに重点を置くテレビ チャンネルである。これは、新しい学習方法を広範囲の新しい場で進める公共システムの重要な部分であり、現在と、これから予測されるニーズにも見合うため、継続的に重要なことは明らかである。
視聴者の多様化への対応
テレビ視聴者の行動に影響を与える多くの要因と、それらと文化との関係は、何十年にもわたって記録されてきた (Morley, 2003)。タイでは特に、興味やニーズ、視聴者反響の多様性が重要になってきており、近年では視聴者の大幅な多様化が記録されている (Common, 2018)。特に若年層の間でテレビ視聴者の分散が著しい。彼らはテレビから離れつつあり、Z 世代を例にとると、あらゆるコンテンツを多様なオンラインプラットフォームで視聴している。
チャンネル3や他のテレビ局と同様に、タイPBSはオンラインプラットフォームで視聴者を維持し、新たな視聴者を引き付けるための戦略を立てた。このプロモーション策には、利用しやすい視聴サービス機能の開発が含まれる。タイPBSのウェブサイトは、「Thai PBS NOW, Click Every Day, Catch Up with Every Event(毎日クリックして、すべてのイベントをキャッチアップ)」というタイトルのもとで再構築され、あらゆる視聴者グループに便利なテクノロジーと機能を備えている。このウェブサイトは、タイPBSネットワークの10のウエブサイトからのコンテンツを一つの場所にリンクし統合することで、ポートフォリオ全体のひとつのゲートウェイとして機能するように設計されている(タイPBS, 2023)。
さらにタイPBS は、ビデオストリーミングプラットフォームVIPA を通じたビデオオンデマンド (VOD) でオンラインサービスも提供している。VIPAでは過去 11 年間に タイPBS TV で放送されたアーカイブ番組やVIPA用に制作された新しい番組を放送している。VIPA はUSER GENERATED(ユーザー生成型)カテゴリーの番組を提供するプラットフォームとしても機能している。これは新世代の番組制作者のためのパブリックスペースであり、参加者は タイPBS TV の番組制作チームからアドバイスや支援を受けることができる (VIPA.me, 2024)。
タイPBSTVは、オンラインプラットフォームで過去や現在の番組にアクセスすることを常に改善し視聴者にアピールしている。彼らは携帯電話やタブレットなどの様々な通信デバイスを通じてコンテンツを快適に視聴している。これにより様々な興味やニーズを持つ若い視聴者の関心を引き、将来の視聴者拡大への投資となる。専門的な参加型番組などの他では対応していない需要にもこたえ、あらゆる年齢層、特定の興味を持つ層の長期の視聴を促進している。
公共放送の役割・重要性の再評価
タイPBSの公共放送としての社会的、教育的、コミュニティーの福祉に向けての目的は変わらない(Mendel, 2010, Linkedin Thailand, 2021)。しかし、公共放送局が視聴者とどのように関わるか、そのストラテジーと技術の一部は前述のように変化している。公共放送は、教育と技術的知識の必要性が高い発展途上国ではより重要である(UNESCO, 2005)。タイでは、一度に比較的少数の視聴者にサービスを提供しているが、公共放送の必要性は高まっており、その主な理由は以下である。
(a)人口増加と技術・情報ベースの経済への移行に伴い、専門的な教育教材の必要性が高まっている。
(b) 公共放送は革新的な教育技術開発のロジカルな中心となり、新しい技術や既存のアクセス可能な技術をうまく組み合わせることで、様々な場で学びを促進することができる。
(c) 公共放送局は、政治的干渉や商業的偏見のない正確な情報を発信し、商業メディアでは得られない社会的コメントや文化的サービスを提供する。
要約すると、積極的、革新的なPBSに対して適切に継続して財政やリソース支援をすることは、タイの将来の発展にとって不可欠な投資である。
まとめ
今日のタイにおける放送
複雑で競争が激しく、ダイナミックなメディア環境において、ソーシャルメディアやストリーミングプラットフォームによる変革(disruption)にもかかわらず、デジタルテレビが依然としてその地位を維持していることは注目すべきである (CISION, 2024)。これは、都市部と非都市部の間に認められた違いによるところが大きく、非都市部では多くの人が依然としてテレビを主な情報源、娯楽源として毎日視聴している (Tortermvasana, 2023)。したがって、将来の存続には、積極的で適切なマネジメントが不可欠であり、主要な役割の再評価と、提供される番組(products)やサービスの質の向上が必要である。
現在、テレビ放送業界は基本的な営利的プレッシャーが続くなか、いくつかの一般的な課題にも向き合っている。ニュースや時事番組の改善、教育素材のアウトプット(生産)の増加、質の高い国際番組への継続的なアクセス、視聴者の多様化/分散化およびインターネットアクセスの普及に対する戦略の精査、そして管理上の問題を支援する AI の活用などの課題だ。
タイの人口の88%(約6,200万人)がインターネットユーザーとの報告がある(BBCニュース, 2023) この文脈では、視聴者の分散についてさらにコメントすることは関連性がある。このプロセスは、消費者が異なるメディアチャネルに分散することによるものであり、コメンテーターたちは、ソーシャルメディアが視聴者の行動に大きな影響を与えていると一致して認め、異なるプラットフォームが、異なる活動を強調していると述べている。(例:YouTubeは収入を生み出すため、TikTokはショッピングとニュースの更新のため)。インフルエンサー市場は「ファンダムマーケティング」の概念が依然として人気があるため拡大を続けている(CISION, 2024年)。
将来の展望
複雑なタイのメディアセクターでは、創造的、芸術的、文化的価値を維持しながら営利的現実に向き合うなど、いくつかの課題が常にある (Common, 2018)。しかし効率的な経営を前提として、過去 10 年間の技術の多様化、デジタル化への転換、目まぐるしい社会経済的変化にまつわる多くの破壊的影響にもかかわらず、近い将来のタイの放送の見通しは明るい。楽観的な見方をするのは次の理由からだ。信頼あるニュースとローカル(国内)時事問題の質の高い分析が常に求められるため。質の高い海外コンテンツとのローカル(国内)ドラマシリーズが常に求められるため。公共放送の社会的役割への認識が高まってきたため。教育コンテンツへの需要が増加しているため。そして都市部以外の、地方における家族/コミュニティーのインフォテインメント(情報エンターテイメント)として、テレビが中心的な役割を担い続けているためである。
しかし、特にAIや視聴者の分散に関する問題については、継続的な計画の重要性を強調しすぎることはない。また、既存のデジタルテレビライセンスはすべて2029年に終了となるため、将来のライセンスについては行政上(administrative)の不確定要素と言える(Tortermvasana, 2023)。
Sasiphan Bilmanoch
カセムバンディット大学 コミュニケーション・アート学部 助教授
マッコーリー大学(オーストラリア・シドニー)で国際コミュニケーション学博士号(PhD)を取得。タイのバンコクにあるカセムバンディット大学コミュニケーション・アート学部イノベーティブコミュニケーション・アドミニストレーション(Innovative Communication Administration )学科教員として、異文化コミュニケーション、メディア政策に対する住民参加とその姿勢、さらにさまざまな種類のデジタル技術が及ぼす影響、テレビ番組品質向上のためのアセスメントなど、幅広い分野で研究に取り組んできた。現在、より力を注いでいるのは、増大する高齢の視聴者など、聴覚や視覚に障害を抱える人々のメディアおよびテクノロジーのニーズに焦点を当てた研究である。