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五城目での8年間の取り組み

JAMCO オンライン国際シンポジウム

第30回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2022年2月~2022年3月

持続可能な世界を目指して~コロナ危機の中の挑戦~

学びを軸にしたまちづくり
五城目での8年間の取り組み

柳澤龍
一般社団法人ドチャベンジャーズ代表理事

概要

 秋田県五城目町では「世界で一番こどもが育つ町」を目指し、民間主導で産官学が連携して取り組みを続けてきました。小学校建て替えを市民とともに考えるワークショップの開催、教育留学を後押しする受け入れ体制の構築、オンラインで学士を取得できる大学との連携など活動が続いています。筆者は東京から五城目町に地域おこし協力隊として移住して8年目に入り、まちづくり社団を運営しています。町に暮らす1人の視点から、ビジョンを軸に地域が変わるプロセスと、学びの構造変化にアプローチしている五城目の取り組みとその展望をお伝えします。

1. 町との出会い

  • 町の概要

     五城目町は秋田市の北方30キロメートル、能代市の南方30キロメートル、干拓による大潟村の東方に位置し、県都秋田市まで約40分の距離にあります。 急峻な山岳地帯から肥沃な水田地帯まで変化に富んだ農業と林業の農山村であるとともに、中心部には約500年の伝統を誇る露天朝市が栄え、製材、家具、建具、打刃物、醸造業と商店街が発達し、湖東部における商工業都市を形成してきました。1960年に人口は2万人をピークに、2020年には9000人を下回るほど減少しました。
     町役場では30年以上にわたり、人口減少に歯止めをかけるための施策として大規模企業誘致に取り組んできました。企業誘致に向けた調査を続けた結果として、交通機関のアクセスが悪く、企業を誘致しても人口減少が進んでいるため雇用確保が困難なことから誘致が進みませんでした。そこで、町長の主導により雇用を誘致するのではなく、小さくても町内で挑戦する起業家を支援する方針に切り替えました。その拠点として、2013年4月に138年の歴史を閉じた旧馬場目小学校が、地域に根ざし事業者を支援するシェアオフィス、五城目町地域活性化支援センター※1(後、センター)に生まれ変わりました。
     2013年10月のセンター開設当時には、町内製造業1社、秋田市のコンテンツ事業者1社、東京の教育関連企業1社、合わせて3社の入居ではじまりました。センターは五城目町役場まちづくり課の直営で、町内から2名管理人を採用して運用。時期を同じくして、2011年から発展計画における重点プロジェクトの定住対策の1つとして、地域おこし協力隊※2の運用をしており、センターの活用に向けて移住定住の促進・雇用創出・6次産業化の3つを目的とした地域おこし協力隊の募集を実施。2014年4月から3名が着任しました。
     私は地域おこし協力隊として東京から秋田へ移住した1人で、3年間センターを拠点に活動しました。その後、まちづくり法人を仲間と設立し、現在は町からの指定管理でセンターの運用を行っています。この立場から五城目における学びの8年間の変遷をまとめたいと思います。


    図1 五城目町地域活性化支援センター




    図2 地域おこし協力隊3名と入居企業代表(一番左が筆者)



  • 北極星としていつもあった「世界で一番こどもが育つ町」

     センター開設当初、来館者はほぼおらず、管理人と地域おこし協力隊3名と共に移住してきた教育関連企業の代表が出入りするくらいでした。この4人で集まり、町の未来について議論を交わしていました。協力隊の任務として移住定住促進、起業家育成ではあるが、4人とも教育や学びについて関心があり、活動を展開する軸、土台となるビジョンを模索していました。町のビジョンについてさまざまな話し合いを続ける中で、「世界で一番こどもが育つ町」がすべての活動の根底にある目標になれると気づきました。
     「世界で一番こどもが育つ町」のイメージは段々と明確になってきていました。”世界で一番”においては、ITや英語教育をさすのではなく、世界のいろんな地域、場所があるなかで、その土地だから育まれる人間性を引き出す点において1番を目指すこと。”子どもが育つ”という言葉には、子どもを教育するのではなく、子どもの中にある力が溢れ出るのを見守るのを指します。子どもが育つのに必要なのは大人の取り組む姿勢であり、学び続ける背中を見せることが大切。よって、大人もこどもも共に学び、この町ならではの学びを楽しんでいくことを目指しました。

  • ビジョンを共有する範囲

     町内の方々とイベントでともに企画や事業で協働するときに、このビジョンを共有することができました。共感した人が次の企画や事業で、ビジョンを盛り込んで進めてくださり、自然とその思いは広がっていきました。事業やイベントでこのビジョンを発してくださった方は、町内で50人程度います。このビジョンを発し始めて3年経ったころから町長も講演において「世界で一番こどもが育つ町」と明記するようになりました。


2. 小さなイノベーションから政策的展開までのプロセス

2.1 町で積み上がった学びに関わる8年間の取り組み

 「世界で一番こどもが育つ町」に関わるさまざまな取り組みが2014年から小さく動き出しました。8年間を振り返ると、1つ1つが新たな活動が生まれる基礎になる要素を持っていました。Transition Theory(Geels 2002)におけるニッチなイノベーションにはじまり、社会への適応を通して国家システムに組み込まれて制度ができていくように、町での小さな取り組みが積上がり地域社会が変化に適応していくまでのプロセスを追っていきます。

    2.1.1 2014年の取り組み

  • 【タイトル】五城目町まちづくり課主催「明日の五城目を語ろう」
    【属性】集まる・ネットワーキング 【対象】一般
    【概要】
     協力隊の活動をすすめる上で、多くの町民と知り合いになり、暮らしの中での思いや声を聞くためのイベントを開催。イベント前に流しそうめんを用意してこどもたちが集まり、残ってくれた保護者の方に話し合いへ参加いただきました。イベントでは協力隊3名からそれぞれ自己紹介と活動紹介を行い、その後グループに分かれて町でできたらいいこと、取り組んでみたいことなどアイデアを出し合いました。町内から20名ほどの方々が集まりました。
     まちづくりをテーマに人々が集まり、思いを共有する人たちの顔合わせになりました。ここで繋がった人が、お互いが持っている人とのつながりを紹介しつつ、つながりが広がっていくきっかけになっています。

  • 【設立組織】五城目朝市大学
    【属性】集まる・ネットワーキング・場づくり 【対象】一般
    【概要】
     「明日の五城目を語ろう」から繋がった人たちとともに、ゲストを招いての勉強会を開催する母体として、五城目朝市大学を設立しました。高校生レストランまごの店(三重県多気町)の仕掛け人である岸川政之さんの講演会など外部講師を招聘しての勉強会を2年間続けました。
     まちづくりをテーマにした人のつながりから団体を立ち上げ、組織として活動する経験と、勉強会を通してまちづくりに関する知見の蓄積になりました。イベントを定期的に開催し続け、毎回異なるテーマの勉強会にすることで多様な興味・関心をもつ人とつながる機会になりました。

  • 【プログラム】五城目で世界一周
    【属性】小学校、県内大学との連携 【対象】小学生
    【概要】
     入居している教育関連企業が五城目小学校へ声がけして、6年生を対象に5週連続で3カ国の外国人を国際教養大学から招待して交流を行い、町にいながら世界一周をするプログラム「五城目で世界一周」がはじまりました。自身が生まれた国ではなく町の話を聞かせてもらい、小学生たちは学んだことを踏まえてお返しに自身の町の紹介を国際教養大学にて発表。発表会では小学生の保護者に協力いただき、郷土料理や特産品を提供していただきました。
     大学、小学校など公的教育機関と民間企業の連携事業で、PTAを含む地域からボランティアも受け入れており、組織間のコミュニケーションの経験、ボランティア運用の知見の蓄積、PTAを通してビジョンの共有につながりました。

    2.1.2 2015年の取り組み

  • 【地域高校でのプログラム】五城目高校ソーシャルラボ
    【属性】高校・県外大学との連携 【対象】高校生、一般
    【概要】
     東京大学大学院の教員との出会いから、五城目高校生徒会とともに地域研究を行う五城目ソーシャルラボをはじめました。高校生に町で気になることを書き出してもらい、見出したテーマについて町の人にインタビューを実施。インタビューやテーマの整理を、教員が支援し、インタビューで得られたことをまとめて公共施設にて発表会を開催。テーマは「町での森林の活用」や「町部と中山間部での信仰」などを扱いました。2年間連続で行い、生徒会では地域と関わる仕組みを既存の活動へ取り入れるなど、地域との関わり方が変化していきました。
     県外大学と町内高校の連携、町内広報での告知、高校のPTAを通して学校の新たな動きを共有できました。組織間でのコミュニケーションの知見、PTAや役場と連携した住民への告知の経験を蓄積できました。

  • 【市民活動】四季で遊べる五城目ランド
    【属性】民間企業と市民団体との連携 【対象】こども、一般
    【概要】
     地域の農業生産法人の協力のもと、田植えと稲刈り体験を開催。田植えでは田んぼにはいって、手植えと機械の操縦を実施。終わったあとには川遊びをしました。稲刈りでも手刈りと機械の操縦を両方行い、乾燥のための稲架掛けまで行いました。終わったあとには、豚汁と新米のおにぎりを振る舞いました。地域の高齢者がこどもたちの見守りにきて、田植えの指導をしてくださるなど、手仕事の伝承にもつながっていました。
     この活動を通して民間企業と市民団体の連携を図る経験になりました。町内会への告知を通して、企業・市民団体・町内会でのコミュニケーションを図ることができました。継続的に実施できたことで、町内会への市民団体のビジョンを共有する機会にもなりました。

  • 【アート教育プログラム】AKIBIPLUS
    【属性】県内大学と民間の連携 【対象】一般
    【概要】
     秋田公立美術大学によるアートマネジメント人材育成プログラム「AKIBI PLUS」※3では、秋田でのアートの土壌を育む地域・市民とアート・アーティストの繋ぎ手を育成することを目的に、町をフィールドに3年間に渡り、アートマネジメント人材の育成に取り組みました。町内でのフィールドワークを通して、町のギャラリーにて展覧会を開催し、アートと地域で受け入れる土壌が育まれました。
     県内美術大学から受講生の受け入れ、地域でのフィールドワークの実施における調整など、これまで美術や学びの事業と関わりがない町内地域での活動への知見が蓄積できました。

  • 【地域高校でのキャリア育成プログラム】明治大学×五城目高校 2030年の未来の私を考える
    【属性】高校・県外大学との連携 【対象】高校生、一般
    【概要】
     2030年の自分や社会について考えるワークショップを開催。2030年に社会の変化を想像した上で、自身がどんな暮らしをしているのか、学校はどう変わっているのか、答えのない問いを10人の高校生に対して大学生1名がファシリテートして取り組みました。準備段階では約半年に渡り、高校生と大学生がインターネットを通して事前学習を進め、当日はそれぞれが持ち寄った意見や質問を交わし、考えを更に深める時間となりました。
     町内高校と県外大学の学生との長期連携の経験蓄積になりました。生徒会など限られた生徒だけでなく、学年全員へ向けたプログラムを学年担任教員との連携にもなりました。

  • 【こども向けアートプログラム】こども芸術の村”木こり体験ワークショップ”
    【属性】県外大学と芸術での連携 【対象】こども、一般
    【概要】
     身の回りにある木、森、山を身近にするため、秋田杉の伐採、火おこし、木製品の製造工場見学をするワークショップを地域のこども向けに開催。地元の林業会社と木工職人の協力のもと、林で杉を伐採しつつ、きのこ採集、切り株から樹齢をはかって焚き火を実施。その後、木工職人の工房を訪れ、乾燥した木の加工現場を見学しました。
     県外大学と町内複数企業との連携実績と、町内のこどもたちに向けた告知において、小学校やこども園から協力を得ることもできました。

    2.1.3 2016年の取り組み

  • 【県外大学によるフィールドワーク】東京大学GPSSフィールドワーク
    【属性】県外大学からの地域で独立した実践 【対象】大学院生
    【概要】
     東京大学大学院GPSS-GLI※4の講義の一貫で、約10日間の滞在で研究手法を学ぶフィールドワークが五城目で開催されました。本フィールドワークでは南アフリカやスウェーデン、東南アジア諸国の大学とも連携しており、世界各国から学生や研究者が町を訪れました。町のフィールドワークでは町民へのインタビューや、商業施設や高齢者向け施設でアンケートにより情報収集をするなど取り組みました。研究成果の発表会を町民向けに開催、ギャラリーでの展示を行いました。
     県外大学による地域でのフィールドワークで、町役場の協力のもと町内会から町内企業まで幅広い層から協力を得る経験になりました。外国人の食習慣、生活習慣の違いを、宿泊施設や飲食店では可能な限り対応する経験になりました。町内に外国人が長期滞在し、スーパーや朝市などで調査を行う中で、町民にとって今まで生活空間で出会ったことがなかった外国人との遭遇により、町の変化を感じる機会になりました。

    2.1.4 2017年の取り組み

  • 【秋田県による起業家育成プログラム】ドチャベンアクセラレータープログラム
    【属性】県による教育への政策的取り組み 【対象】起業志望者
    【概要】
     地域活性化支援センターの入居者、ハバタク株式会社が企画運営のもと、秋田県は秋田発の革新的な事業創出を目指す「ドチャベン」※5の一環で、豊かな教育資産を世界へシェアする宣言を発表しました。少子高齢化が進み県人口100万人を割り込む中、全国トップレベルの教育資産をシェア(共有)していくことで、新たな地域社会モデルの創出を目指し、教育シェアを実現する革新的な事業アイデアを募集しました。
     教育の魅力化に向けた政策を行政から発信することで、五城目での取り組みは一層加速したと思います。草の根の活動と行政のアプローチが連帯した成果であり、町での活動において1つの転換点になりました。

  • 【小学校建て替えへの町民意見の集約】スクールトーク
    【属性】町民主導による政策的取り組み 【対象】町民
    【概要】
     五城目PTA連合会が主催となり、五城目小学校建て替えを市民の声を集めて取り組むためのワークショップを開催しました。町内に7校あった校舎も統廃合が進み1校になりました。最後の小学校の建て替えを、町一体となって取り組むことを目指しました。PTA連合会の声がけで住民有志が集まり、グループに分かれてテーマごとに意見を出し合い、最後にグループごとに発表をしました。そこで発せられた意見をすべてまとめたリーフレット型の報告書を作成し、小学校建て替えに向けた提言を行いました。
     このワークショップがきっかけとなり、役場主導で3年間継続して、ゲストを招いての勉強会、図書館の活用、近隣公園での活動を考える場作りが開かれ、学校建築への意見の反映と、建て替えてからの小学校の活用に向けた活動のデザイン※6が行われました。

2.2 学びの構造を変える地域からの挑戦

 五城目町で世界で一番こどもが育つ町に向けて、この8年間さまざまな取り組みのもとで「自ら動くことで地域を変えることができる」実感が生まれました。学びは誰もが関わるもので、誰もが意見を持っています。1つの手法や学びにこだわるのではなく、主義主張がことなれど根幹にある教育環境の魅力化において思いを共有できれば、お互いの活動を見守りあえるはずです。まちづくり社団として地域で取り組むべきは、1つの意見を主張するのではなく、教育の選択肢を増やすことだと考えました。この8年間を踏まえて、まちづくり社団として教育環境の構造変化へ向けた取り組みを紹介します。
     
  • 1 教育留学の支援

     小学生の学力全国1位の教育環境を誇る秋田。秋田の教育環境を体験したい人に向けて転校届けを出すことなく1週間から1ヶ月通学できる教育留学を町では推し進めています。学生の受け入れを後押しするにあたり、ホームステイでの受け入れ先家族の協力、家族で中長期間滞在するための宿泊所の手配など受け入れ環境の整備を進めています。多様な地域の学びを体験できる選択肢を広げていきたいと考えています。

  • 2 オンライン大学の受け入れ

     秋田では18−22歳の人口の6割が県外に出ていっています。就職や進学により仙台を中心に首都圏へ移住するためです。秋田には7つの大学しかなく、主に秋田市に集中しています。大学がない県内の市町村では大学生がいません。大学進学するには首都圏に移住するしかない現状がありました。
     2021年よりネットで学べて学士を取得できる「さとまな大学」※7がはじまりました。日本ではじめて学士をオンラインで取得できます。火曜日から木曜日の午前中にオンラインで授業を受け、残りの時間で地域の活動に取り組みます。さとまな大学の学生の受け入れを弊社で取り組んでいます。宿泊所の提供や地域活動の支援に取り組みつつ、大学生がいることで地域づくりが可能になるような、学びを軸にしたまちづくりに取り組んでいきます。


3. 考察:学び続ける地域に向けた土壌づくり

3.1 ビジョンが地域へ根付いていくまでのプロセスの構造

 この8年間に地域で起こった学びを軸にした町民による活動を図3にまとめました。この図をもとに1つのビジョンから市民活動の展開の構造を図4にまとめました。


図3 五城目での活動の年表



  • A ソーシャルネットワークの醸成

     活動が生まれていく環境を生み出す最初の段階は、思いを共有する人たちが集まる機会からはじまります。テーマを軸に人が集まり、思いを共有し自身の思いを表現できる場が生まれます。誰も来なかった廃校オフィスでまちの未来を語る企画が開催され、町内で関心がある人々が集まる機会になりました。企画により共通の関心をもつ人が可視化され、つながるきっかけができ、そのつながりから五城目朝市大学が結成され、定期的なイベントが開催される中でソーシャルネットワークが醸成される仕組みになりました。

  • B 活動の組織化

     A.で集まる中で、活動をはじめるチームができ、活動を起こしていくためのノウハウが蓄積されると、新たな活動がはじまります。数名のグループがこれまで蓄積したノウハウをもとに協力者を集めていきます。ここで、資金集めのために行政や企業と連携したり、教育機関でのプログラムの実施につながるなど、これまでになかった連携が進んでいきます。

  • C 組織間の連携

     Bにより思いを共有することから生まれた組織として活動する知見が蓄積されると、組織の地域からの信頼も高まります。市民団体からはじまり、学校など教育機関や役場など行政機関と事業をともにすることで、組織間の連携が強化され、更に組織に所属する個人を通して地域住民へも活動が周知されていきます。
     五城目高校と首都圏大学による協働プログラムに、県内外の美術大学とのアートプログラム、町内企業との自然体験プログラムなど、組織間で学びに関わる多様なプログラムの連携が始まりました。地域に組織から教育魅力化への取り組みについて地元新聞社、テレビ局からの取材を通しても発信できました。
     2016年からは、首都圏大学のフィールドワークの受け入れが始まりました。それまでは、町内機関との連携によってのみ実施されてきたが、町内にて教育活動の受け入れへの蓄積ができ、町外教育機関でも自由に活動できる土壌ができました。

  • D 組織から事業へ

     A.B.C.と続き、組織づくり、行政、企業、教育機関との連携、資金集めなどノウハウが溜まって、いよいよ事業づくりがはじまります。単発の活動ではなく、拠点とチームを設立して事業へ成長させていきます。ここからA.であったように、それぞれの事業分野で人が集まりつつ、事業の中で新たな活動が個別につながって生まれていくサイクルに入っていきます。



図4 地域の運動の変化



3.2 地域を変えられる自信を育む

 地域にビジョンが根付いていくなかで、転換点になったのは、行政による発信と個別の活動の事業化でした。この2つによって、地域を自らの手で変えられる実感が湧く機会になりました。

  • 3.2.1 行政からの発信

     秋田県により新規事業アイデア募集・育成プログラム「ドチャベンアクセラレータープログラム」において、秋田の教育資産を世界と共有する「教育シェア宣言」が発せられました。民間による教育の取り組みに呼応して、行政による教育への新たな動きが生まれ、法制度へのアプローチまで含んだ活動が展開しはじめました。町内では、PTA連合主導で小学校建て替えに向けた民間意見の集約をする「スクールトーク」を行政が事業化して3年間継続したことで、住民が声を上げることで事業になった実績になりました。

  • 3.2.2 個別の事業化

     思いを共有してきた人たちそれぞれが、自身の活動する場を持つ、新たな事業にチャレンジする、または継続になった事業を動かすなど展開したため、2018年から単発的な取り組みがなくなりました。この活動の空白の期間に、これまで育まれてきた町内外の多様な組織とのつながりをもとに、事業として継続して活動を生み出していく期間になりました。
     学びへの思いを形にする手段として、組織を形成して事業にすることが、これまでの取り組みを通して学びました。ボランティア活動だけでは継続できない。思い切って事業にすることで、組織へ地域からの信頼が集まり資金も得られて継続しやすくなる。地域を変えること自体を事業にする取り組みが増えていきました。

4. まとめ:まちづくりを目指さない

 8年間に経験してきたことを踏まえ、町での気付きとこれから五城目が向かう先を志向してこの記録をまとめたいと思います。

  • 言葉に町の現状が現れる

     移住した当初、町民からよく「なぜ町に移住したのか?」と聞かれました。仕事がある訳でもなく、充実した観光資源もない町で、町に移住する理由がないために、聞いてくれた問いだと思います。移住者として地域に馴染み、よそから知人・友人を連れて町を案内し続ける中で、そのうちに町の人からは「今日はどこからきた人?」とだけ聞かれるようになりました。町に人が来るのが当たり前だと感じられるくらい、町に対しての自信を持てたからだと私は解釈しています。
     まちづくり社団として、地域で発する言葉にいつも気をつけています。まちづくり社団として住民主体の自治を目指すとき、偏った支援をすると住民の主体性を奪うからです。支援という言葉にも支援するもの、支援されるものという力関係が生まれます。地域から内発的創発が生まれることに向け、黒子としてそっと後ろから支えるような、見えないような地味な取り組み、それは日常の声がけの言葉使いやコミュニケーションこそ、私たちまちづくり社団がもっとも大切にするものだと思います。

  • まちづくりを目指さないからうまくいく

     NPOが社会課題の解決を目的としているように、まちづくりに取り組む組織は、町で課題設定して取り組んでいます。課題を解決することで、最終的にNPOは解散することが目標であるように、まちづくり組織は幸せにくらせる地域で課題がなくなれば必要なくなると思います。
     課題に取り組めば、新たな課題が生まれるように、決して終わりのないプロセスだとは思います。一方で、課題を見出す視座があるから課題になっていることも自覚しなければいけません。まちづくり組織は地域で人々が幸せに生きているのであれば必要ないことであり、1人1人がしっかりと地域で役割を果たし政治に関わり民主主義が機能すればまちづくり組織は不要になります。
     課題を作り出さないように、まちづくりをしないように、まちづくりを目指さず地域の一人一人が主人公として幸せに活動できる状況において「まちづくりをしよう」と思う人が現れないことを目標にすえ、これから活動できたらと考えています。

柳澤龍

一般社団法人ドチャベンジャーズ代表理事

1986年生まれ。東京都練馬区出身。
東京大学大学院を卒業後、 株式会社ガイアックス(IT企業)に入社。その後、2014年に秋田県五城目町へ移住し、五城目町地域おこし協力隊として着任。「五城目町地域活性化支援センター BABAME-BASE」(旧馬場目小学校)を拠点に、村の概念をひっくり返すシェアビレッジプロジェクトの立ち上げに参画。1次産業と伝統産業のコンサルティング、高校生と地域の未来を描くソーシャルラボ、秋田公立美術大学アートマネジメント育成プログラムの五城目プロジェクトのコーディネーターなどを担当する。2017年11月、五城目町内の土着企業・個人が集まり、一般社団法人ドチャベンジャーズを設立、代表理事に就任する。2018年4月、「五城目町地域活性化支援センター BABAME-BASE」(旧馬場目小学校)の指定管理を担う。

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