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JAMCO オンライン国際シンポジウム

第24回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2016年1月~2016年8月

アジアのテレビ放送局の現状と課題

中国・台湾・香港のテレビ事情

山田 賢一
NHK放送文化研究所海外メディア研究グループ長

中国

中国の地上テレビ局は、全国レベルでは中国中央テレビ(CCTV)1局のみで、ケーブルテレビ向けや海外向けのチャンネルを含め、総合・経済・スポーツ・映画・ドラマなど20以上のチャンネルで放送している。各省にはそれぞれ地域ラジオ局と合併した、北京ラジオテレビ・上海ラジオテレビ・広東ラジオテレビ・湖南ラジオテレビなど省レベルのテレビ局があり、主要局はCCTVと同様、総合・経済・ニュース・ドラマなど10前後のチャンネルで放送している。ただし省レベルのテレビ局は、全国向け衛星チャンネルを1つずつ持ち、湖南衛星チャンネルなどは娯楽中心の番組編成で、若者を中心にCCTVを脅かすほどの人気を全国的に集めている。地上デジタル放送は、DTMBと呼ばれる中国独自の方式を採用し、CCTVが2008年1月から無料のHDチャンネルによる放送をスタートした。アナログ放送の終了予定は、当初2015年とされていたが、最新の計画では、2015年から終了作業を開始し、2020年の終了を目標としているという。ケーブルテレビは北京の歌華、上海の東方有線など、各地方にネットワーク会社があって数十チャンネルのサービスを提供しており、主要都市ではデジタル化は完了している。ラジオについては、中央人民ラジオ(CNR)が16チャンネルで放送しているが、省レベルのラジオ局の多くは、ここ数年で同じ省のテレビ局と合併した。また、各テレビ局はネット展開も積極化しており、CCTVでは関連会社のCNTV(中国網絡電視台)に放送番組を提供している。一方、多くの地方テレビ局は、自局で放送したドラマなどのコンテンツを、愛奇芸(iQIYI)、騰訊視頻(Tencent Video)それに優酷(Youku)と土豆(Tudou)が合併した合一(One Group)などの大手ネット動画サイト事業者に販売している。これに対してコンテンツに自信を持つ湖南ラジオテレビは、2014年から、放送番組を大手のネット動画サイト事業者に提供せず、もっぱら自らの系列のネット動画サイト「芒果TV」で視聴させる独占配信戦略を打ち出している。

中国では習近平体制発足後、テレビをはじめとするメディアへの統制強化が目立っている。2014年7月、CCTVの名物キャスターである芮成鋼氏(36)が、担当する夜の経済番組の生放送直前に、当局に連行された。容疑は明らかにされなかったが、中国では権力闘争の一環ともされる汚職取締り強化で高級幹部が次々に摘発されていたことや、既に6月に芮氏の上司にあたるCCTV経済チャンネルの郭振璽総監(総監は部門の高級幹部)が収賄容疑で身柄を拘束されたことなどから、汚職摘発が国を代表するテレビ局にまで波及したものと見られている。こうした当局の統制強化は、番組の内容にも現れた。2014年6月が6.4天安門事件から25年になるのを前に、5月に入ってジャーナリストや言論人が相次いで拘束され、CCTVのニュース番組で犯行を“自供”するケースが相次いだ。まず5月8日、それまで行方不明になっていた70歳の女性ジャーナリストの高瑜(こう・ゆ)氏が、刑事拘留の中でCCTVに登場、顔にモザイクがかかった状態のインタビューで国家機密漏えいの罪を認めたと報道された。また、中国政府に批判的なアメリカのニュースサイト「博訊」の北京駐在員の向南夫氏も同月13日、同様に当局に拘束された状態でCCTVのインタビューに答え、政府当局による土地の収用や警察の暴力に関する虚偽の記事をサイトに投稿した罪を認めたと報道された。しかし高氏に関しては、当局が「息子も拘束する」と高氏を脅迫して“自白”を引き出した疑惑が指摘されており、一連のニュースは当局がCCTVを使って政府への批判的な言論・報道を抑圧する動きと見られている。また、2015年10月から12月にかけて、中国政府に批判的な書籍を発行している香港の銅鑼湾書店の幹部5人が相次いで失踪する事件が起きた際は、2016年1月、最初に行方不明になった書店の大株主の桂民海氏がCCTVのニュースに突如登場し、自分が2003年に起きた飲酒運転による女子学生死亡事故の犯人だと画面に向かって告白した。そして当時執行猶予付きの判決を受けたものの怖くなって逃亡したが、遺族の気持ちを思うとやましくなり、自らの意思で中国に渡り公安当局に自首したと説明した。しかし桂氏は10月にタイのパタヤのリゾートマンションから失踪した際、タイから出国した記録がなかったことから、メディア関係者の間では、桂氏が中国の公安関係者に力づくで連れ去られたとの見方が多い。

この他、2015年2月、CCTVの元女性キャスターの柴静氏が制作した環境問題についてのドキュメンタリー番組が、ネット上で公開された後、1週間ほどのうちに全て削除される事態も起きた。『穹頂之下』と題したこの番組は、中国の大気汚染の現状を厳しく告発する内容で、大手ネット動画サイトの「優酷」と中国共産党機関紙である人民日報系の「人民網」で同時に発表されると、他のサイトにも次々と載せられ、3日間で視聴回数が2億回に達する大反響を引き起こした。ところがその後、中国政府から関連の報道の禁止が通達され、さらには番組自体の削除が指示されたという。この番組については、ネット上で公開した直後に中国政府の環境保護部長が「市民の環境問題への関心を高めてくれた」として柴静氏への感謝の意を表明したばかりで、反響のあまりの大きさに、その扱いを巡って政府内で意見対立が表面化したものと見られている。

娯楽番組の関係では、規制当局の国家新聞出版ラジオ映画テレビ総局(SAPPRFT)が2014年4月、全国テレビドラマ放送工作会議の席上、2015年1月からゴールデンタイムにおける衛星チャンネルでのテレビドラマの放送方式を変更することを明らかにした。中国では衛星チャンネルは各省レベルのテレビ局(北京テレビ・湖南テレビ・江蘇テレビなど)が1チャンネルずつ持っており、全国向け衛星チャンネルはCCTVを含めると50を超す。このため衛星チャンネル間の競争は激烈だが、地方局は予算の制約があるところも多く、これまでは人気の高いテレビドラマをゴールデンタイムに放送するため、4局が共同でドラマを購入して同時に放送するなどしていた。しかしこうしたやり方は電波資源の無駄遣いとの批判も強く、SAPPRFTではゴールデンタイムに同一のテレビドラマを放送できるのを2局までに制限し(一劇両星)、同時に一晩に放送できるドラマを2話までとする(一晩両集)政策を打ち出すことで、番組の多様化などを図るとしている。しかしこの政策が実施されるとドラマの購入コストが大きく上昇するため、湖南ラジオテレビの衛星チャンネル(湖南衛視)など人気の高いチャンネルには有利なものの、弱小の地方テレビ局にとっては死活問題となりかねない面がある。

2014年12月、湖南衛星チャンネルの人気テレビドラマ『武媚娘伝奇』が突如次の日から一時放送停止になることが明らかにされた。このドラマは人気女優の范冰冰が則天武后の役を務める作品で、范冰冰の豊満なバストが話題を集めていた。放送停止の理由について湖南衛星チャンネルでは「技術的なもの」とだけ説明していたが、2015年1月1日から再開したシリーズでは、范冰冰を写すショットがいずれも首から上のアップになっていて、話題のバストは見られなかった。また、一部のネットユーザーが既に放送済みの回をネットで視聴したところ、そちらも放送済みの映像とは異なりバストが写るカットを編集で削除していたことが分かった。また、2015年12月に楽視網などで配信され、大反響を呼んだテレビドラマ『太子妃昇職記』も2016年1月、性や暴力などの描写が多いとしてSAPPRFTから配信停止を言い渡されるなど、習近平政権による引き締め政策の影響はテレビドラマにも及んでいる。またこうした「保守化」の影響は海外のコンテンツにも及んだ。2014年9月、SAPPRFTは、海外のテレビドラマ等は2015年4月以降、登記されたもの以外はネット上で送信することを禁止すると共に、国産のコンテンツの購入量の30%を超えてはならないという通達を出した。これによって、従来はテレビ局と比べ規制が緩めだったことから、アメリカや韓国のドラマを大量に配信していた「捜狐視頻」(tv.sohu)などのネット動画サイトに大きな影響が出た。


台湾

台湾の地上テレビ局は、公共放送が公共テレビ(公視)と中華テレビ(華視)、商業放送が台湾テレビ(台視)、中国テレビ(中視)、民視テレビ(民視)の5局体制で、ローカル局はない。公共放送のうち、公共テレビの財源は毎年9億元(約35億円)の政府交付金と一部寄付などだが、元々商業局だった中華テレビは政府交付金がなく、広告収入に依存している。アナログ放送は2012年に終了しており、デジタルチャンネルはそれぞれアナログ時代からのメインチャンネルの他、HDを含む2~3チャンネルの放送をしている。これらは無料チャンネルだが、他にケーブルテレビ向けの有料チャンネルとして、三立(SET-TV)、TVBS、東森(ETTV)、壹テレビ(Next TV)、緯来、八大、年代、非凡などがある。また、ケーブルテレビの大手MSOとして、中嘉網路(CNS)、凱擘(KBRO)、台湾寛頻(TBC)、台固媒体(TEN)、台湾数位光迅科技(TOP)の5社がある。地上テレビとケーブルテレビ向けチャンネルの大部分はニュース・娯楽・子ども向け・宗教などの専門チャンネルで、ほとんどが再放送を含め1日24時間放送している。台湾では2300万人の人口に有料チャンネルを含め300チャンネルがひしめき合っており、過当競争の中で番組の制作コストを削減せざるを得ず、中国や韓国からテレビドラマを買い付け繰り返し放送する局も目立つ。現在経営が安定し、自前の番組制作で競争力を持つテレビ局としては、三立・民視・台視が3強と言われる。一方ラジオ局については、合わせて171局あるが、台湾全土向けに放送している中国ラジオ(中廣、BCC)以外は地域向けのFM局が多い。

台湾ではこのところ、ケーブルテレビ事業者などへの買収の動きが目立っている。2014年8月、食品大手の頂新グループが、ケーブル事業最大手の中嘉網路を、600億元(約2400億円)を超える価格で買収することで合意したことが分かった。中嘉網路は加入世帯数が約118万戸と台湾最大のケーブルMSO事業者で、中国時報グループを買収した食品事業者の旺旺グループが、さらなるメディア事業拡大の一環として、2010年に中嘉網路の主要株主である外資のMBKから買収することで合意したが、メディアNGOなどが旺旺による“メディア独占”に強く反対したことで買収は行き詰まっていた。こうした中で頂新が買収に名乗りを上げたが、同年10月、頂新グループが動物の飼料用に使う油を食用油に混入していたことが明らかになり、グループ関連の食品会社3社の会長を務めていた魏応充氏が詐欺や文書偽造の罪で起訴され、懲役30年を求刑された。その後2015年7月、中嘉網路には新たな買収企業として、大手通信事業者の遠傳が現れたが、2016年1月の総統と立法院の選挙で勝利した民進党からは、国民党の党営事業と密接な関係がある遠傳への懸念の声も出ている。

2015年11月、大手テレビ局の東森電視(EBC)の株式の61%を、中国企業の傘下にあるアメリカの企業が、アメリカの投資ファンドから3億7000万ドル(約460億円)で購入していたことが分かり、中国が台湾のメディアに影響力を行使する動きとして、台湾のメディア関係者や市民の間で懸念が高まった。株式を購入したのは、中国最大の娯楽・メディアグループである持ち株会社DMGの傘下にあるアメリカのDMG Entertainmentで、CEOのDan Mintz氏個人の名義でカーライルの持ち株すべてを買い取った。DMGの現在の会長は解放軍の高級幹部の子息で、今回の動きは、2016年1月の総統選挙を前に、中国と距離を置こうとする野党民進党の候補の優勢が伝えられていたことから、政権交代前に買収を完了させようとしたものとの見方も出た。


香港

香港の地上テレビは長期にわたってTVB(電視廣播)とATV(亜洲電視)の商業放送2局体制で、アナログは2局とも広東語と英語が各1チャンネル、またデジタルはTVBが5チャンネル、ATVが6チャンネルで放送してきた。しかし2014年、地上テレビのATVの経営悪化が顕著になった。ATVは1990年代から経営不振となり、救済のために中国本土系の財界人や企業が株式を所有するようになってから、番組の親中色が強まって香港人の不興を買った。そして2011年に「江沢民死去」の大誤報を出して信用が決定的に失墜、2014年9月以降は恒常的に給料遅配が起きて従業員の退職が相次いだ他、ニュース時間の大幅縮小を余儀なくされるなど番組への影響も表面化した。しかしオーナーの王征氏が安価での売却に難色を示したことから買い手探しは難航、しびれを切らした香港政府は2015年4月1日、ついにATVの免許を2016年3月末以降更新しないことを発表、40年余りにわたって香港の地上テレビ局の一角を担ってきたATVが幕を閉じることになった。ATVが持つ地上波の帯域や設備については、NOW Broadband TVの子会社Viu TVが使用し、2016年4月から地上放送を開始する。

公共放送のRTHKは独自のチャンネルを持たず、制作したテレビ番組はTVBとATVの夜のゴールデンタイムの一部を使って放送してきた。これらはいずれも無料放送だが、他に有料多チャンネルサービスとして、ケーブルテレビのi-Cableと、IPTVのNOW Broadband TVがある。またラジオはアナログではRTHKが7チャンネル、商業局のCommercial Radio(商業電台)とMetro Broadcast(新城電台)がそれぞれ3チャンネルで放送、デジタルではいずれも商業局のDBC(香港数碼廣播)が7チャンネル、Metro Broadcastが3チャンネル、U Radioが2チャンネルで放送してきた。このうちDBCとU Radioは新規参入だが、U Radioは2015年9月、経営不振のため放送継続を断念、免許を返上する方針を示した。またRTHKは5チャンネルで放送しているが、大部分はアナログと同じ番組となっている。

香港では近年、中国政府の影響力拡大によって、報道の自由度の低下傾向が続いている。香港のジャーナリスト団体である香港記者協会は2014年7月、「報道の自由が落城の危機に」と題した報告書を発表、この1年間は報道の自由が過去数十年で最悪だったとの評価を示した。報告書によると、2012年に梁振英氏が香港の行政長官に就任して以降、香港の報道の自由は後退を続け、特にこの1年間は、厳しい政府批判で人気があったCommercial Radioの女性司会者李慧玲氏が解雇された事案、HKTVの無料テレビ免許が政府に却下され、その理由も明らかにされなかった事案など、報道の自由に悪影響を与える問題が相次いだとしている。こうした状況に対して香港記者協会では、「自己規制監視委員会」を設置し、各メディアの自己規制に関する告発を受け付け市民に公表することで、報道の自由を守る一助にしたいとしている。

中国政府への“遠慮”から香港の既存メディアが報道の自主規制を強めているとされる中で、香港ではネットメディアが続々と現れ、特にネットラジオは既に50社以上あると言われ“百花繚乱”の状態にある。中でも政治的に急進民主派に属するMyRadioやD100などは2014年9月に起きた「雨傘民主化運動」にも大きな影響を与えたとされ、政府の免許を必要としないネットラジオは、香港の言論の自由や多様性の確保に一定の貢献をしているといえそうだ。

山田 賢一

NHK放送文化研究所海外メディア研究グループ長

生年月日:1962年(昭和37年)3月23日 東京生まれ
最終学歴:1984年一橋大学経済学部卒業
職歴:1984年NHK入局。1984年~1990年金沢放送局記者、1990年~1993年東京国際部記者、1993年~1994年北京駐在、1994年~1995年国際部記者、1995年~1998年経済部記者、1998年~1999年国際部記者、1999年~2002年金沢放送局ニュースデスク、2002年~2004年放送文化研究所研究員、2004年~同主任研究員

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