第24回 JAMCOオンライン国際シンポジウム
2016年1月~2016年8月
アジアのテレビ放送局の現状と課題
アフガニスタンの放送局の現状と課題
アフガニスタンは南アジア・中央アジアに位置する内陸国で、総面積は64万7,500平方キロ。北部はタジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンと国境を接し、最北東部では中国、南部および東部はパキスタン・イスラム共和国、西部はイラン・イスラム共和国とそれぞれ隣接している。国境線の長さを見ると、パキスタンとの国境が最長で2,430キロ、最短は中国との76キロである。また、タジキスタンとの国境線は1206キロ、イランとは936キロ、トルクメニスタンとは744キロ、ウズベキスタンとは137キロとなっている。
2015年のアフガニスタンの推定総人口は約3,200万人で、その51%が男性、49%が女性である。都市・農村間の人口分布を見ると、定住人口のうち1,970万人が農村部、630万人が都市部に住み、ほかに遊牧民として暮らす人々が150万人いる。
アフガニスタンには地方行政単位である州が34あり、国土は地理的パターンに基づき中央高地、北部平原および南部地域の3地域に分かれる。中央高地は高山と、中央アジアをインド亜大陸と結ぶ戦略的に重要な峠から成る。北部平原は、西ではイランとつながり、東ではパミール高原とつながっている。この地域は肥沃な農地と鉱物埋蔵量、石油および天然ガスで知られている。対照的に南西部は砂漠と半砂漠気候の荒れ地から成る。
経済的にアフガニスタンは主に農業、牧畜、国際援助に依存する貧しい国である。30年を超える戦争と内乱により経済と公共インフラはまひ状態になっている。
アフガニスタンにおけるテレビ放送:
テレビはアフガニスタンにおける最も一般的な放送プラットフォームである。アフガニスタン人の64%近くが毎週テレビを見ている。テレビの世帯保有率は都市部が農村部と比べて高く、都市部の90%に対し農村部は55%となっている。中等後教育を受けたアフガニスタン人の10人に9人近く(87.0%)がテレビを見ているという。テレビ保有者の大多数にあたる68%はテレビ信号の受信に地上アンテナを使っているが、衛星放送受信アンテナを個人所有(35%)または共有(2.0%)で利用している人もかなりいる。地上アンテナの利用は都市部の住宅(91%)の方が農村部(55%)に比べて多く、衛星放送受信アンテナは農村部の住宅の方により多く見られる。2015年初めの時点で、農村部のテレビ保有者が個人で所有する衛星放送受信アンテナでテレビ信号を受信する割合(50%)は都市部(12%)の4倍と推定されている。アフガニスタン全土における2015年末のテレビ受像機の普及度はアナログ機で150万台と推定される。
アフガニスタンにおけるラジオ・テレビ局の所在状況
州 | 国営 テレビ |
民間 テレビ |
国営 ラジオ |
民間 ラジオ |
---|---|---|---|---|
バダフシャーン(Badakhshan) | 1 | 1 | 1 | 6 |
バドギース(Badghis) | 1 | 1 | 1 | |
バグラーン(Baghlan) | 1 | 1 | 1 | 7 |
バルフ(Balkh) | 1 | 14 | 1 | 11 |
バーミヤン(Bamyan) | 1 | 1 | 1 | |
ダイクンディ(Daykundi) | 1 | 1 | 1 | |
ファラ(Farah) | 1 | 1 | ||
ファリヤーブ(Faryab) | 1 | 2 | 1 | 2 |
ガスニ(Ghazni) | 1 | 1 | 1 | 6 |
ゴール(Ghor) | 1 | 1 | 1 | |
ヘルマンド(Helmand) | 1 | 3 | 1 | 4 |
ヘラート(Herat) | 1 | 10 | 1 | 12 |
ジョウズジャーン(Jowzjan) | 1 | 1 | 1 | 40 |
カブール(Kabul) | 2 | 32 | 2 | 35 |
カンダハール(Kandahar) | 1 | 1 | 1 | 1 |
カピサ(Kapisa) | 1 | 1 | 5 | |
ホースト(Khost) | 1 | 1 | 1 | 1 |
クナール(Kunar) | 1 | 1 | 1 | 1 |
クンドゥーズ(Kunduz) | 1 | 1 | 1 | 5 |
ラグマーン(Laghman) | 1 | 1 | ||
ローガル(Logar) | 1 | 1 | 1 | 4 |
マイダン・ワルダック(Maidan Wardak) | 1 | 1 | 1 | 1 |
ナンガルハール(Nangarhar) | 1 | 1 | 1 | 7 |
ニームローズ(Nimruz) | 1 | 1 | ||
ヌーリスタン(Nuristan) | 1 | 1 | ||
パクティア(Paktia) | 1 | 1 | 3 | |
パクティカ(Paktika) | 1 | 1 | 2 | |
パンジシール(Panjshir) | 1 | 1 | ||
パルワーン(Parwan) | 1 | 2 | 1 | 6 |
サマンガーン(Samangan) | 1 | 1 | 1 | 4 |
サリプル(Sar-e Pol) | 1 | 1 | ||
タハール(Takhar) | 1 | 2 | 1 | 7 |
ウルズガン(Urozgan) | 1 | 1 | 2 | |
ザーボル(Zabul) | 1 | 1 |
2015年初めの時点で、アフガニスタンには77の民間テレビ局があり、各州に合計35チャンネルを有する国営テレビ局とともに稼働中であった。また、政府は2013年、アフガニスタンで使う放送衛星を配備するための契約をパリに本拠を置くユーテルサット(Eutelsat)と結んだ。アフガニスタンでは光ファイバー網の整備はまだ完了していない。
アフガニスタンの全国光ファイバー幹線網
アフガニスタン政府は2013年初め、アナログからデジタルへのより広範な移行プロジェクトを実施するため別の契約を民間企業と締結した。帯域免許iがABSiiに与えられ、5MUXESiiiの全国ネットワークの構築が図られることになった。
政府はこのプロジェクトを実施する主な理由を次のように説明している。
- 特に国際チャンネルに対する公的需要
- 技術サービスの性能向上を求める放送事業者の要望
- 一般市民の電波およびコンテンツの受信状況の改善
- デジタル産業の構築
- 世界の国々を目標にした産業構造の改革
しかし、特に次の諸点に関しては、多くの問題がまだ残されている。
- 政策上の意味合いと影響
- 技術サービスの性能向上を求める放送事業者の要望市場調査が実施されておらず、デジタル放送への移行が放送技術や番組編成に与える影響について未検討
- 伝送モデル、アナログ・デジタル同時放送期間、アナログ停波(ASOiv)の段階的実施方法が未決定
- 免許付与の枠組みが依然として不明
- 「デジタル化の配当」の意味付けが不明確
伝送基準としてはDVB-T2が選ばれ、圧縮方式はMPEG-4に決定した。また、動画圧縮については、今後の検討材料としてHEVC(H.265)の研究が行われている。
アフガニスタン国営放送(RTA)
アフガニスタンにおけるラジオ放送:
カブール:
- ラジオ・アフガニスタン(Radio Afghanistan)のスタジオセンターがあり、450席の大ホールを含む14の防音スタジオがある
- スタジオセンターは15km離れた場所にある400kW中波送信機とつながっている
- スタジオセンターから5km離れた場所に100kW短波送信機がある
- 1kWFM送信機が市中心部のアスマイ(Asmaei)山の上にある
RTAは400kW中波送信機を使って1日19時間(ラジオ・アフガニスタン)、1kWFM送信機で18時間(ラジオ・カブール)のラジオ放送を行っている。短波送信機は技術的な問題で稼働していない。RTAは30州に小規模なスタジオセンターとFM送信機を持ち、いずれも各州の中心都市に置かれている。それぞれがその地方のニュースと番組を放送しているが、衛星経由で受信するラジオ・アフガニスタンのニュースの時間もある。
ラジオ・アフガニスタンは2つの公用語―パシュトゥー語とダリー語―で放送している。各州では、それぞれのセンターが両公用語とともに地元の言語で番組を放送している。
テレビ放送:
最初のテレビセンターは1976年から1978年にかけて、国際協力機構(JICA)の技術・資金援助により建設された。当初アフガニスタンがJICAを通じて日本政府から受けた無償資金協力の総額は360万米ドルであった。JICAはカメラ3台を備えた100平方メートルのスペースとカメラ2台と少数の編集システムを備えた50平方メートルのスペースから成る最初のスタジオセンターを建設した。さらにJICAはカメラ3台とENG装置10ユニットを備えた中継車を供与した。最初、RTAのテレビ放送は1日2時間だった。その後、放送時間は徐々に増えて1996年9月には1日6時間となったが、タリバンがカブールを占拠し、一般市民のテレビ視聴を禁止するとともにテレビ局を閉鎖した。技術者、プロデューサー、ディレクター、司会者などテレビ局スタッフは別な仕事を探すよう命令された。2001年、タリバンのカブール撤退後、RTAは5年ぶりに放送を再開した。
この時再びJICAはアフガニスタンとRTAを支援した。緒方貞子JICA理事長(当時)は直ちにカブールを訪問、カブールスタジオとカブールの送信所用地を視察した後、テレビスタジオとテレビ送信所の再建と改修のために多額の無償資金協力(2500万米ドル)の供与を申し出た。
2003年から2005年の間に、RTAのテレビ放送用インフラとスタジオは完全に再建され、デジタル機器が整備された。1kWテレビ送信機に代わって2kW送信機が設置された。RTAのテレビ放送の古いフォーマット(U-maticv、BCNvi-1およびAVRvii-2)は単一のデジタルベータカム方式に変わり、デジタルベータカム方式の複数のENGユニットとソニー製中継車1台がRTAのテレビセンターに引き渡された。2010年、続いて2014年、不具合がある設備の修理と、様々な部門に所属するRTAスタッフに必要な研修を行うため、2つのフォローアップ事業がJICAによって実施された。
日本に次ぐ最大の援助国はインドである。RTAテレビは、インド国民のアフガニスタン支援のおかげで、24州に小規模テレビ送信機とダウンリンク局を提供し、テレビ受信可能範囲の拡大を図るプロジェクトを進めている。さらに2005年、放送配信用の衛星とアップリンク局2局がインド当局からRTAに供与された。
現在のRTAのサービスエリア(視聴圏)
- 地域:RTAのテレビ信号がインサット(INSAT)3Aを通じて地域をカバー。アップリンクは無償でインド政府が提供
- 欧州:RTAのテレビ信号がホットバード(HotBird)により欧州をカバー。米国についてはギャラクシー(Galaxy)
- RTAは33州にテレビ放送局を持ち、中央局はカブールにある
アフガニスタン国営放送の放送アーカイブ
A.ラジオ放送アーカイブ
録音やラジオ放送資料を保存・保管するため1963年、ラジオ・アフガニスタン放送アーカイブ(RABA)が設置された。現在、RABAは5万時間分のアナログ音声テープ記録、CDコレクション、その他のラジオ放送資料を保管しており、これには次のようなものが含まれる。
- 歴史的演説セクション:政府高官のあらゆる演説、声明、発表、インタビューを保管。さらに、外国大統領の公式声明も保管
- アフガニスタン音楽セクション:6000時間分の録音(テープ)とCDのコレクションがあり、アフガン伝統音楽の珍しいコレクションを含む
- 国際音楽セクション:国際的な音楽や歌を含む4200時間分の録音(テープ)。これらの資料は主にアフガニスタン人に国際的な音楽を紹介する番組の制作に使われる
- 調査セクション:多数のラジオ番組台本、調査報告書、コンセプトペーパーなどを収集。これらの資料は教育目的や番組制作のために使われる
RABAが保管するコンテンツのアナログカセットからCDへのデジタル化を進めるため、2つのプロジェクトがこれまでに開始された。最初のプロジェクトは2006年~2007年、American Institute of Afghanistan Studiesの支援で実施された。第2のプロジェクトはフランスの国立視聴覚研究所(INA)の資金援助を受けて行われた。この2つのプロジェクトの結果、音楽とラジオドラマほぼ9300時間分がCDに移された。しかし、資金の問題から取り組みは非常にゆっくり続けられている。
B.テレビ放送アーカイブ
アフガニスタン国立テレビアーカイブは1978年に設立された。国内最大の映像アーカイブであり、アフガニスタンの映像の歴史であるとよく言われる。初期のRTAテレビでは放送用にUmatic-3/4、BCN1インチテープ、AVR-2インチテープなどが使われた。2003年以降は、DVCPROやデジタルBETACAMがテレビスタジオのデジタル化を受けて使われた。2004年のテレビスタジオ完成までに1インチテープに6239時間分のビデオ資料が、2インチテープに1561時間分の資料、そしてU-matic カセットに6700時間分近くのビデオ録画が残された。これらの資料には政治演説、教育番組、ドキュメンタリー、映画、演劇、ドラマなど含まれている。
2006年~2007年、INAの援助でアナログ資料をデジタル形式に変換するプロジェクトが実施された。残念ながら、プロジェクトは2700時間分の放送資料が変換された後に中止となった。RTAはこのINAとのプロジェクトの再始動に向けて努力を重ねているが、これまでのところ成功していない。2003年のスタジオのデジタル化以来、アーカイブに保管されていた1万4500時間分のテレビ資料と3245時間分近くのアナログカセットがDVCPROテープに移された。
さらに、RTAには技術的な問題で稼働していない多数のVTR(ローバンドU-matic 3/4、BCN-50/51、AVR-2)がある。これらのVTRの修理はRTAの技術者の能力を超えるものであり、アナログカセットのデジタルへの変換を独力で進める能力には限界がある。
長年にわたる戦争や投資の不足、怠慢の結果、RABA内の放送資料の保管・維持環境は、温度が適切でなく湿度が高いなど標準以下である。タリバンがアーカイブをイスラム的でなく偶像崇拝的であるとして1996年~2001年に破壊しようとしたため、状況は悪化した。
現在の状況が続けば、これらの大量の音声・映像資料は間もなく失われ、アフガンスタンにとって回復に何世代もかかる文化的損失となりかねない。そのため、アフガニスタンの国営放送事業者であるRTAは過去14年間に多額の投資を受け入れてきた。
課題:
RTAではインフラ(送信機、スタジオ、設備、施設など)が大いに注目を集める一方で、組織のスタッフや管理についてはほとんど注意が払われてこなかった。そのため、高性能のインフラが整備されているにもかかわらず、RTAはアフガニスタン国内の視聴者を徐々に失うことになった。大多数の視聴者の考えはRTAがうまくいっていないということで一致している。一般市民の間では、特に高齢世代の評判が良いが、これはこの世代の人々がRTAの番組を聴きながら育ったからである。
とはいえ、RTAは国民全体に話しかけアフガニスタンの文化と伝統を尊重しているため、国を代表する放送事業者として敬意を払われている。RTAの放送は2大公用語のダリー語とパシュトゥー語だけでなく、5つの少数民族言語―ウズベク語、トルクメン語、バルーチー語、パシャイー語、ヌーリスタン語viii―でも行われている。RTAの放送はライバルの商業放送局と比べて地理的、言語的に到達範囲が広い。よくある不満の一つはRTAがこれらの強みを十分に活用していない、ということである。カブールの放送センターや各州に大規模な施設や設備を保有しているにも関わらず、期待されるだけの成果をあげていないというわけだ。
RTAの視聴者が減っていること、全体として成果に乏しいことの理由として最もよく挙げられるのが、RTAは政府の一部門で自らの組織をきちんと整理する自由がないという事実である。競争の激しい今日のメディア市場において、RTAは視聴者の多くをすでに失っており、これからも長期間にわたって改革が行われなければ、その存在意義はなくなるであろう。アルタイ・コンサルティング(Altai Consulting)が実施した視聴者調査によれば、RTAの視聴者数シェアは2010年の7%から2014年には2.9%に低下している。
視聴者の減少は特に若い人々の間で著しい。アフガニスタン統計年鑑2013-2014によれば、アフガニスタンの人口の62%は20~40歳である。RTAはこの年齢層の人々を引き付けるのが難しいと感じている。このことは、RTAの「政策・企画部」(Policy and Planning Department)が34州で行った最近の視聴者アンケートでも確認された。
このほかに次のような課題もある。
- アフガニスタンはアナログ放送からデジタル放送への移行を明確な行程表がないまま開始した唯一の国である。前述の通り、民間企業1社が3年前に政府と契約を結んだ。しかし、この過程において、政府から実質的な支援はなかった。放送の専門家の中には、こうしたやり方ではメディアの独占が起こるだろうと考えている者もいる
- アナログ放送停波の日付が不明
- アフガニスタン テレビ局内の技術・番組制作能力が不十分
- 全国的な放送コード(基準)がない
放送に関する法律と規制:
憲法34条は報道と表現の自由を認めている。また、2009年に発効した現在のマスメディア法は市民が情報を取得する権利を保証し、検閲を禁止している。しかし、イスラムの原則に反する、あるいは他宗教・他宗派に対し攻撃的であるとみなされるコンテンツについては広範な制限が設けられている。
2002年以来、4本のメディア法が承認され、多くのジャーナリストは様々な状況下でそれがどう適用されるかが分からないため、あるいは適用される可能性があることを意識して、文化規範に違反したり特定地域の人々の感情を害したりしないよう自主規制をするようになった。憲法130条は、裁判所とイスラム法学者は裁判にあたって「最善の方法で正義が行われるよう」に判断を下すことができるとしており、曖昧さが残るとともに差別的な判決を許容している。アフガニスタンの法律の下では、ジャーナリストに関するケースは「メディア委員会」(Media Commission)が扱うことになっているが、このルールは実際には必ずしも守られていない。
アフガニスタン政府は2012年、新しいメディア法案を策定したが、これは国家のメディアに対する監督権限を強化するものである。現行法によれば、アフガニスタンではメディアに関する問題は情報文化大臣が主導する「メディア高級委員会」(Media High Commission)の統制下にある。「メディア高級委員会」は「マスメディア委員会」(Mass Media Commission)、「マスメディア苦情処理委員会」(Mass Media Complaint Commission)、「RTA委員会」(RTA Commission) を通じてその活動を調整することになっている。
政府は情報・文化省を通じてすべてのマスメディア所有者の登録を行わなければならない。認可手続きはオープンで規制はきわめて少ない。その結果、メディア市場は飽和状態になり、近年は周波数割り当てを担当するアフガニスタン電気通信規制庁がカブール地域で付与できるラジオ・テレビ放送免許は残りがなくなってしまった。このほかの課題には次のようなものがある。
- RTA 委員会 が設置されているが、まだ十分には機能していない。RTAは自らを真のPSB(公共サービス放送)に変革し、政府、議会、裁判所の干渉から自由でありたいと考えている
- RTAは、最近発表された「RTA編集ガイドライン」に明確に述べられているように、受信料およびそれに相当する財源の両方またはいずれかの導入を提案しているが、政府はまだこれを認めていない。提案が認められれば、RTAは独立した予算を持ち、信頼できる要員を採用し、コンテンツとインフラの両方に焦点を合わせた品質向上の取り組みを実施できるようになる
- 「マスメディア苦情処理委員会」は設置されたが、その活動の根拠となる規範が明確に示されていない
インターネット:
インターネット利用は近年急速に拡大している。インターネットの世帯普及率は2014年の12.1%から2015年は13.5%に上がり、アフガニスタン人の8.0%がインターネットを利用しているという。利用者は都市部では5人に1人(22%)、中等教育以上の学歴を持つ人の場合はほぼ10人に4人(37.3%)に達する。また、若年層のほうがインターネットを使う傾向が強く、2015年初めの時点では15歳~24歳の若年成人の13.0%がインターネットにアクセスした経験がある。毎週インターネットを利用する人を見ると、携帯電話を通じてアクセスする場合が多く(62%)、ノートパソコンによるアクセスも61%となっている。デスクトップパソコンの利用者は20%に過ぎない。
おそらく、一つにはダウンロード速度が遅いこともあって、アフガニスタンでのインターネット利用は、主に電子メール(71%)やニュースへのアクセス(45%)といった基本的な目的に限られている。インターネット利用者でオンライン動画を見たり(37%)音楽を聴いたり(31%)といった、広帯域を必要とする活動にウェブを使うと言う人は比較的少ない。アフガニスタンにはインターネットテレビ(IPTVやOTT)はまだないが、テレビ局やラジオ局のなかには番組のオンラインストリーミングを提供しているところもあるix。
結論:
私たちはメディアの重要性については意見が一致しているが、メディアの本質については意見が一致していない、と私は考えている。アフガニスタンでは、メディアがいかに人々のメンタリティを過激主義と暴力に向かわせる原動力なったかを私たちは見てきた。私たちはこのことをソビエトのアフガニスタン侵攻、内戦、タリバンおよびタリバン後の政権を通してずっと目撃した。
アフガニスタンおよびこの地域の人々の心はこの30年間、戦争の原動力としてのメディアのとてつもない影響を受けてきた。アフガニスタンとこの地域における原理主義の拡散によって、人々はいかなる差別や不正もない、協力と相互理解に基礎を置く真のイスラム原則から遠く離れてしまった。
アフガニスタンの人口の極めて大きな部分が、対話や和解、寛容を拒否し、平和より戦争、愛より憎しみを選ぶことによって、戦争思考に陥った。
しかし、戦争の原動力となったメディアは、戦争や自殺、苦しみといった観念を人々の心か取り除くことを通じて、和解と対話の重要な手段として使うことも可能である。
では、現在の状況を変えるためにアフガニスタンのメディアは何ができるのか。
それは偏らない、独立したメディアがあってこそできることである。
だからこそ、メディアは政府その他の政治的アクターのいかなる政治的・経済的干渉からも自由でなければならない。アフガニスタン政府には国内におけるメディアの自由と情報の自由な流れを保証する責任がある。
このことは、アフガニスタン政府が国内の公共放送システムを支持するとともに、社会の異なるグループ間の対話を促進するためソーシャルメディアに力を与える行動を自主的に起こすによってのみ可能である。
これによって、アフガニスタン国民は過激主義イデオロギーの破壊的な性質とその影響についての真相と、過激主義イデオロギーと決別する方法を知ることになる。人と人とのコミュニケーションは改善し、異なる社会階層間に信頼が醸成される。そして、このことが、私たちが今日アフガニスタンで経験している争いを取り除き、私たちが切望している国民的な統合につながるだろう。
NHKとRTAの緊密な関係は、私たちの番組編成の改善や新しいコンテンツの開発、そして新しい技術の更なる恩恵の享受に役立つ。NHK放送研修センターで学んだ者として、またJICA同窓会のメンバーとして、私はそう信じている。
出典:
- RTA 調査部(RTA Research Department)が15歳以上のアフガニスタン人に対して行った直接インタビュー。アフガニスタン全34州で5500人を対象に実施
- アルタイ・コンサルティング(Altai Consulting)による2014年の調査
- アフガニスタン統計年鑑(Afghanistan Statistical Yearbook)2014-2015
参考文献:
Altai Consulting. “ICT in Afghanistan.” Kabul, Afghanistan, 2014.
Central Statistical Organization. “Afghanistan Statistical Yearbook 2014-15.” Afghanistan, 2015.
EU-funded Project. “Preparatory Activities for the Transition of Radio and Television of Afghanistan.” Kabul, 2006.
“Mass Media Law.” Afghanistan, 2009.
Page, David. “Radio and Television Afghanistan, Feasibility Study.” BBC Media Action: Kabul, 2015.
Panjshiri, A.R. “Analytical Report on Analogue to Digital Transition Presented to the Government of Afghanistan.” Kabul, 2013.
Panjshiri, A.R. “RTA Archives, Synthesis Report to the Government of Afghanistan.” Kabul, 2014.
RTA Research Department. “Audience Research Synthesis Report.” Kabul, 2015.
Face-to-face interviews with the members of High Media Council, RTA Commission, and Licensing Department of Mass Media Commission.
脚注:
i. 帯域免許:アフガニスタン電気通信規制局(ATRA)が付与する周波数利用ライセンス。ATRAは法律により定められた独立機関。
ii. ABS:Afghanistan Broadcasting Systemの略。アナログからデジタルへの移行プロジェクト契約をアフガニスタン政府と結んだ民間企業
iii. 5 MUXES:5マルチプレクサー(5 multiplexers)
iv. ASO:デジタル移行に伴うアナログ放送の段階的停波。移行が何段階でどのくらいの時間をかけて行われるかを知ることが重要
v. U-matic:ソニー製の3/4インチカセットレコーダーおよびプレーヤー
vi. BCN:ドイツBosch社製のアナログ1インチテープレコーダー/プレーヤー
vii. AVR:米国Ampex社製のアナログ2インチテープレコーダー/プレーヤー
viii. 他のチャンネルで放送されているテレビ映画やシリーズは主にイラン、トルコ、インド、韓国製で、その大多数は購入したもの。アフガニスタン国営放送(RTA)や教育ラジオ・テレビ(ERTV)などでは日本、韓国、ドイツから寄贈された教育番組を放送
ix. ラジオまたはテレビのオンラインストリーミング:インターネットテレビまたはラジオ(オンラインテレビまたはオンラインラジオ)。公衆インターネットを通じてのラジオまたはテレビコンテンツのデジタル配信を意味する。ウェブテレビと呼ばれることもある
アブドゥル・ラーマン・パンジシリ
アフガニスタン国営放送 (RTA) 国際担当部長
筆者略歴
Abdul Rahman Panjshiri [アブドゥル・ラーマン・パンジシリ]
Director International Relations, Radio Television of Afghanistan (RTA)
[アフガニスタン国営放送(RTA)国際担当部長]
学歴:
●カブール大学工学部で電子工学の理学士号取得(1975)
●ウクライナ・オデッサ国立大学でコミュニケーションの理学修士号(1988)
職歴:
アフガニスタン国営放送に放送技術者として1978年から勤務
●放送規制とライセンシング業務
●実現可能性調査、開発プロジェクト
●経済、社会、政治に関するラジオ・テレビ番組についての視聴者調査
●社会、経済、政治に関するラジオ・テレビ番組制作についての助言
●ラジオ・テレビ放送の状況に関する分析レポートの作成と政府への提出
●ラジオ・テレビ放送に関する組織内および国際研修コースとワークショップの企画
活動:カブール(アフガニスタン)のJICA同窓会の会員