第23回 JAMCOオンライン国際シンポジウム
2015年2月~2015年10月
日本のテレビ番組のアジア・中東での理解の実態
閉会にあたって
「日本のテレビ番組のアジア・中東での理解の実態」と題して行った第23回JAMCOオンラインシンポジウムは、日本のテレビ番組がアジア・中東で、どの程度理解され、どのような課題があるかを知るうえで、意義深いものであったばかりでなく、国際貢献という視点から、あるいは日本からの情報発信という視点から、日本のテレビ番組の途上国での放送を考察するうえで、いわば「英語の壁」を深く印象付ける内容となった。
この調査研究では、教育番組、ドキュメンタリーのジャンルを対象に内外の研究者に報告をお願いした。明星大学の今野貴之助教、明治大学の岸磨貴子特任講師、関西大学の久保田賢一教授の研究グループが、ヨルダン(アンマン市)、ウズベキスタン(タシュケント市)、フィリピン(ブラカン市)を訪れ、現地の教育関係者にJAMCOの英語版教育番組を視聴してもらい「日本の教育番組や日常生活に関連するテレビ番組が現地の子供たちや先生方にどう理解され受け取られているのか」について調査を行った。文化の影響をあまり受けない「実験を行っている理科の教育番組」を対象に調査を行ったが、「身近な内容や方法で理解がしやすい」「カメラの技術を駆使した映像で興味がわく」などの理由で「有用に活用できる」との評価を得た。一方で、例えば、番組に登場した「てんとう虫」は、ヨルダンでは見たことがない教師、児童・生徒が少なくないとのことで、授業に使う際は検討が必要との指摘や、番組をどのように授業に取り入れるかという授業設計が課題であると言及があった。
またJAMCOの教育番組を教育現場で継続的に使っているベトナムのハノイ師範大学(ハノイ教育大学)からは、日本の教育番組の教育効果について報告をいただいた。報告によれば、学生は各番組のテーマを正しく把握しており、科学的な番組への興味が最も多かった。
ドキュメンタリーについては、NHK放送文化研究所の田中孝宜上級研究員がタイのバンコクにある国立大学のキャンパスで英語の授業を受講している学生に、NHK国際放送で放送された東日本大震災関連のテレビ番組を視聴してもらい、アンケート調査とグループインタビューを行った。「防災」をテーマにした各番組総体のイメージは概して好意的なものだったが、見続けられるかなど具体的な評価は様々だった。論理的な内容よりも、登場人物に共感して感情移入できる番組が受け入れられやすいという結果も得ている。英語ネイティブでないタイの学生に英語の防災専門用語を使って説明しても伝わらないという課題があり、アニメーションやCGなど見せ方を工夫する必要があるという報告がされている。
これらの報告をいただいて、「考えねばならないのは、国際版の制作で、よりいっそう『途上国の視聴者』を意識した『ていねいな番組制作』が必要だということだ」と感じた。「てんとう虫はどこの国でも見られる」とは思わず、説明を付け加えると良いのではないか。防災専門用語は、やはり可能ならば、言葉の工夫と提案いただいたような映像化が効果的だろうと思う。
今回の研究調査では、宗教、民族や歴史に係わる文化(政治的要素も含めて)の差異が比較的小さいジャンルの番組が対象になっていたが、当然と言えば当然だが、言語の差異が、番組理解につながらない壁となっていることが改めてはっきりした。
「教育番組」については、ヨルダンで、「説明が多い高学年向けの番組になると、英語の説明についていけないので、アラビア語への翻訳が求められる」との報告があった。ベトナムからは「ベトナム語の吹替え、字幕があれば学生の理解が深まる」と述べられている。
「ドキュメンタリー」でも「英語の語彙が難しい。英語が速い。」といったいわば「英語の壁」を指摘する報告が行われている。
この非英語圏での「英語の壁」がある限り、日本のテレビ番組の英語版を制作して途上国に提供したり、英語の国際放送で発信しても、それだけでは、放送の影響力には限りがある。その意味でJAMCOも、途上国の多くの視聴者が理解できる現地語への改編を視野に入れた活動にさらに力を入れるべきだと感じた。
私は、2014年に、今回の報告にもあるウズベキスタンやカザフスタン、キルギスを調査に訪れる機会を得たが、いずれも現地語への改編に課題を抱えていた。英語が普及していないという事情も大きいが、経済的事情が更に大きい国もある。番組を提供する国からの現地語化経費の援助やスポンサー探しなどが行われているという動きも聞いた。JAMCOでは、一部で現地語化経費の補助を試行しているが、今後、更に大きな課題になると考えている。
シンポジウムの閉会にあたり、このシンポジウムを中心なって構成していただいた明星大学の今野貴之先生、NHK放送文化研究所の田中孝宜先生をはじめ、ご参加いただいた報告者、討議者、そして当サイトをご覧いただいた皆様に厚く感謝申し上げます。
(29/07/2015)
この調査研究では、教育番組、ドキュメンタリーのジャンルを対象に内外の研究者に報告をお願いした。明星大学の今野貴之助教、明治大学の岸磨貴子特任講師、関西大学の久保田賢一教授の研究グループが、ヨルダン(アンマン市)、ウズベキスタン(タシュケント市)、フィリピン(ブラカン市)を訪れ、現地の教育関係者にJAMCOの英語版教育番組を視聴してもらい「日本の教育番組や日常生活に関連するテレビ番組が現地の子供たちや先生方にどう理解され受け取られているのか」について調査を行った。文化の影響をあまり受けない「実験を行っている理科の教育番組」を対象に調査を行ったが、「身近な内容や方法で理解がしやすい」「カメラの技術を駆使した映像で興味がわく」などの理由で「有用に活用できる」との評価を得た。一方で、例えば、番組に登場した「てんとう虫」は、ヨルダンでは見たことがない教師、児童・生徒が少なくないとのことで、授業に使う際は検討が必要との指摘や、番組をどのように授業に取り入れるかという授業設計が課題であると言及があった。
またJAMCOの教育番組を教育現場で継続的に使っているベトナムのハノイ師範大学(ハノイ教育大学)からは、日本の教育番組の教育効果について報告をいただいた。報告によれば、学生は各番組のテーマを正しく把握しており、科学的な番組への興味が最も多かった。
ドキュメンタリーについては、NHK放送文化研究所の田中孝宜上級研究員がタイのバンコクにある国立大学のキャンパスで英語の授業を受講している学生に、NHK国際放送で放送された東日本大震災関連のテレビ番組を視聴してもらい、アンケート調査とグループインタビューを行った。「防災」をテーマにした各番組総体のイメージは概して好意的なものだったが、見続けられるかなど具体的な評価は様々だった。論理的な内容よりも、登場人物に共感して感情移入できる番組が受け入れられやすいという結果も得ている。英語ネイティブでないタイの学生に英語の防災専門用語を使って説明しても伝わらないという課題があり、アニメーションやCGなど見せ方を工夫する必要があるという報告がされている。
これらの報告をいただいて、「考えねばならないのは、国際版の制作で、よりいっそう『途上国の視聴者』を意識した『ていねいな番組制作』が必要だということだ」と感じた。「てんとう虫はどこの国でも見られる」とは思わず、説明を付け加えると良いのではないか。防災専門用語は、やはり可能ならば、言葉の工夫と提案いただいたような映像化が効果的だろうと思う。
今回の研究調査では、宗教、民族や歴史に係わる文化(政治的要素も含めて)の差異が比較的小さいジャンルの番組が対象になっていたが、当然と言えば当然だが、言語の差異が、番組理解につながらない壁となっていることが改めてはっきりした。
「教育番組」については、ヨルダンで、「説明が多い高学年向けの番組になると、英語の説明についていけないので、アラビア語への翻訳が求められる」との報告があった。ベトナムからは「ベトナム語の吹替え、字幕があれば学生の理解が深まる」と述べられている。
「ドキュメンタリー」でも「英語の語彙が難しい。英語が速い。」といったいわば「英語の壁」を指摘する報告が行われている。
この非英語圏での「英語の壁」がある限り、日本のテレビ番組の英語版を制作して途上国に提供したり、英語の国際放送で発信しても、それだけでは、放送の影響力には限りがある。その意味でJAMCOも、途上国の多くの視聴者が理解できる現地語への改編を視野に入れた活動にさらに力を入れるべきだと感じた。
私は、2014年に、今回の報告にもあるウズベキスタンやカザフスタン、キルギスを調査に訪れる機会を得たが、いずれも現地語への改編に課題を抱えていた。英語が普及していないという事情も大きいが、経済的事情が更に大きい国もある。番組を提供する国からの現地語化経費の援助やスポンサー探しなどが行われているという動きも聞いた。JAMCOでは、一部で現地語化経費の補助を試行しているが、今後、更に大きな課題になると考えている。
シンポジウムの閉会にあたり、このシンポジウムを中心なって構成していただいた明星大学の今野貴之先生、NHK放送文化研究所の田中孝宜先生をはじめ、ご参加いただいた報告者、討議者、そして当サイトをご覧いただいた皆様に厚く感謝申し上げます。
(29/07/2015)
村神 昭
一般財団法人放送番組国際交流センター 前専務理事