第22回 JAMCOオンライン国際シンポジウム
2014年3月~12月
アジア太平洋地域のテレビ局とインターネット
韓国における番組のネット配信と権利問題
1. はじめに
韓国の地上波放送局がインターネットを通じて番組のサービスを開始したのは、1990年代末からである。韓国に3社ある地上波放送局のうち商業放送のSBSが1999年に地上波放送局の中で最初にインターネット放送局を設立したことを皮切りに、2000年にはMBCとKBSが相次いでインターネット放送を始めた。韓国で比較的早くから地上波放送局のネット配信が可能だったのは、「急速なブロードバンドの普及」と「番組の著作権が地上波放送局へ帰属」されていた韓国の当時の現状が反映された結果であった。それから10年以上が過ぎた現在、韓国ではオンラインを基盤とした多様な形態のプラットフォームが登場し、チャンネルの数も飛躍的に増加した。番組制作の現場や制作資金の調達方法にも大きな変化があり、放送局の収益構造にも変動が訪れている。視聴者の番組利用形態も若者を中心に従来とは大きく変わりつつある現在、地上波放送局は保有している番組を最大限に利用し、利益を上げる道を模索している。メディア競争が激しくなり、若者の視聴形態の劇的な変動にも関わらず、地上波放送局は依然として国内における映像コンテンツ流通の主導的な立場にあり、海外販売においても中心的な存在である。
本稿では、地上波放送局を中心に、番組の著作権問題、多様なプラットフォームの登場、視聴者のオンラインを通じた番組利用形態など様々な角度から番組利用の現状を把握すると共に、海外に向けた番組流通の現状と今後を展望する。
2. 韓国における番組制作と著作権
2.1 韓国の番組制作環境
韓国の放送法第72条には「外注制作番組の義務」というものが定められている。放送事業者はチャンネル全体の放送番組の中でその放送事業者以外の者が制作した「外注制作番組」を一定比率以上編成しなければいけないという内容である。1991年にこの制度が取り入れられた理由は、長期にわたり放送産業を独占してきた地上波放送局の垂直統合的なメディア産業の構図を変え、制作市場で競争を誘導することで映像産業全体の発展を図るためであった(韓国コンテンツ振興院、2009)。また、多チャンネル時代に対応できるよう多様な番組制作主体を育成するためでもあった。1991年の放送法施行令では外注制作番組の義務編成比率を「2~20%以内の中で公報処長官が定める告示」と規定していたが、現在では「40%以内で放送通信委員会の告示」とその比率が増加されている。
義務編成比率が増加するに伴い、制度の狙い通りに制作会社の量的成長は目覚ましいものがあった。独立制作会社数は、2000年代前半から急速に増え続け、2008年には391社に、2011年には628社、2012年には896社にまで上っている。映像産業における競争を誘導する試みはある程度達成できたと言える。外注制作費も1999年には380億ウォンだったものが、2011年には4,103億ウォンまで増え、約10倍程度の成長を記録した。また、実際に地上波放送局の外注制作番組の編成比率も当初の5.6%から現在は45.5%にまで増加し、大きな産業の拡大が確認できる。(放送通信委員会、2012)
しかし、多くの独立制作会社は依然経営に苦しんており、開店休業状態のところも多数だ。
韓国で番組(特に、ドラマ)を制作する際、おおよそ一話当たり2億から3億5千万ウォンの金額がかかるようだ。放送局が番組を外注制作する際に制作会社へ渡すお金は、(ケースによって異なるものの)その中から約50%程度。残りの50%程度を制作会社が工面することになるが、その際にはPPL(Product Placement)や民間投資などで賄う。制作会社は、俳優や放送作家のキャスティングなどの仕事も担当する。本来なら制作資金の出所の比率や業務分担の比率で著作権の分配が決まるはずだが、たった3社しかない地上波放送局に制作番組を編成してもらうためには、不利な条件も飲み込んで番組制作の契約を結ぶしかないことが制作会社の置かれている立場である。2013年に(社)独立制作社協会と独立PD*1協会所属の48の会員社を対象に実施された質問調査の結果によると、外注制作番組の著作権の91.7 %を放送局が所有しており、放送局が一方的に著作権の破棄契約を強要する場合も81.3%に上っている。他の著作隣接権者(俳優・声優・作家など)には再放送料が支給されるものの、制作会社の97.9%は再放送料ももらっていない。また、放送局の職員が制作会社の経営権へ干渉する場合も66%に上るという(PDジャーナルホームページ、2013年12月8日検索)。この質問調査の場合、サンプルが少なかった限界はあるものの、実際多くの制作会社が程度の差はあれ、放送局との関係で弱者の立場に置かれていることは間違いないようだ。つまり、地上波放送局は外注制作の編成比率は大幅に増加しているものの、番組の著作権を獲得する部分においては優位に立っていると言える。このように番組を再利用するための権利は、韓国の特有の事情で番組制作段階から放送局に帰属されている場合が多く、これが早くから番組をオンラインプラットフォームでサービスできた理由の一つでもあった。
2.2 映像著作物に関する特例
韓国の著作権法には第5章に映像著作物に関する特例が設けられている。主な内容は、著作財産権者が著作物の映像化を他の人に許諾した場合、特約がない時には「映像著作物を制作するために著作物を脚色すること」、「公開上映を目的とした映像著作物を公開上映すること」、「放送を目的とした映像著作物を放送すること」、「伝送*2を目的とした映像著作物を伝送すること」、「映像著作物をその本来の目的で複製・配布すること」、「映像著作物の翻訳物をその映像著作物と同じ方法で利用すること」の権利も含めて許諾したものと推定するということだ。また、第5章第100条の①では「映像制作者と映像著作物の制作に協力することを約定した者がその映像著作物に対して著作権を取得した場合、特約がない限りその映像著作物の利用のための必要な権利は映像制作者に譲渡されたと推定する」としており、また、第100条の③では「映像制作者と映像著作物の制作に協力することを約定した実演家のその映像著作物の利用に関する第69条*3の規定による複製権、第70条*4の規定による配布権、第73条*5の規定による放送権、及び第74条*6の規定による伝送権は、特約がない限り映像制作者がこれを譲渡されたものと推定する」としている。放送番組に置き換えて簡単に言うと、放送番組における著作隣接権者の権利は「特約がない限り」放送事業者に帰属するということであろう。この条項は映像著作物の円滑な利用を促進するために設けられた規定であるものの、権利者自身が特約を設けないと自分も知らないうちに放送事業者に権利が帰属されてしまう恐れもあるとの指摘もある(バク・スジン、PDジャーナルホームページ、2010年3月16日の記事)。この条項の中で「伝送権」の項目は2003年の改正で新たに追加され、これによって放送局がインターネット配信サービスを行う上で権利問題からある程度自由でいられた。
2.3 国内外における番組権利処理に関するトラブル
①国内の場合
国内における番組の権利をめぐるトラブルは、大きく次の二つに分けることができる。
第一に、番組制作とその再利用にかかわる権利者同士のもめごとである。権利者同士のもめごとは先述したように放送局とその他の権利者たちの間で不公平な契約慣行により発生する。その他に、最近韓国ではオーディション番組が高い人気を得ているが、その際の主な出演者であるアマチュアの歌手と某放送局の間で交わされる「同意書」が著作隣接権者の権利を認めない内容になっているという報道もあって著作隣接権者に対する利益配分の実情が明らかになっている。同意書によると、その某放送局が「番組の全世界・すべてのメディアを通じて放送または伝送されるなどの多様な形態で利用できる」とし、「番組と関連した商品化事業、出版、有無線スチールカットサービスなど2次的著作物を作成して活用するすべての形態の利用も含む」と明記されている。そして「オーディションに参加して発生するすべでのコンテンツに対する著作権及び著作隣接権などすべての知的財産権は放送局へ独占的に帰属する」という条項もあり、著作隣接権者でありながらも一般の出演者は自分の権利を主張することが最初から塞がれているのが現状である(OhmyNews 2012年1月15日の記事を参照)。
その他にも放送番組の制作に関わった多くの著作隣接権者の権利処理に時間がかかり海外輸出を妨げるケースがあることも指摘されている*7。特に、番組制作当時の利用許諾契約を結んだ当事者ではない別のプラットフォーム事業者が海外進出を試みる際、コンテンツの活用に問題が生じるケースが多い。その中でも番組に挿入された音源著作権で問題が発生する場合が多く、音源の利用許諾システムの整備が求められている(チェ・ジヨン、2012、102頁を参照)。現在、俳優などの実演家との間には番組制作前に予め流通に関する契約を済ませておくことが多いが、音楽に対しても「先流通、後支給」で海外流通の形態を整うことが必要ではないかという意見もある(キム・ファンソク、2012、166頁を参照)。
第二に、違法コンテンツ流通をめぐるもめごとである。韓国においてはインターネットを通じた地上波テレビ番組のサービスが一般化しており、ダウンロードされたものが様々な違法な経路を通じて流通されている。代表的にはウェブハードを通じた違法コンテンツの流通、P2Pを通じたファイル交換、ビット・トレント(Bit Torrent)による被害が急増している。2009年に行われた著作権法改正により、ウェブハードのような特殊な類型のOSP(Online Service Providerの略、以下OSP)は著作権保護のための技術的な措置の導入が義務づけられ、権利者からの要請がある場合にはOSP側は該当著作物の違法配信を遮断するための技術的対処を行わなければならないことになっている。最近合法的なサービスへの転換を模索しているOSPと多様な販売チャンネルを構築しようとするコンテンツ提供会社も登場しているため、ウェブハード事業者を通じた違法コンテンツ流通状況は改善できると期待されている。しかし、最近増加しているビット・トレント(Bit Torrent)を通じた被害事例は、誰でも簡単に小規模でコピーと流通が可能になり、組織的に違法コピーや流通が行われた昔とは違ってさらに摘発が難しくなっている。また、IPTVなどオンラインサービスのために制作されたコンテンツが流出してオフライン違法コンテンツになるケースも増えてきた(韓国著作権団体連合会・著作権保護センター、2013)。そして、スマート環境における違法コンテンツ利用も増加傾向である。韓国著作権委員会によると、有料コンテンツアプリケーションを違法ダウンロードしインストールした経験がある人は2011年には14.9%から2012年20.3%に増加し、その多くがゲーム、映画、放送、音楽著作物であったという(キム・ジュワヒョン、2013、11頁、韓国著作権委員会、2012から再引用)。今後スマート機器*8の利用者が増えると共に違法コンテンツ利用は多様化すると予想される。
②韓国国外の場合
外国における韓国映像コンテンツの違法取引の代表的な形式は国内と同様に、違法ダウンロードサイト、ウェブハード、P2Pファイル共有、ビット・トレント(BitTorrent)、ストリーミングサイト、ブログなどのSNSなどを通じて行われている。マレーシアの場合には、「メディアボックス(media boxes)」というTVにつなげてインターネットに接続すると違法コンテンツのオンラインソースへ簡単にアクセスできるようにしているものも多数流通されているようだ((株)ENA,ⅲ頁を参照)。
図表1:主な3国*における韓国コンテンツの違法流通プロセス
*主な3国とは、出所の参考文献で調査対象としたブラジル、インド、マレーシアを指す。
*fan-subtitledとは、映像作品にファンが字幕をつけること。
図1は韓国の映像コンテンツがどのような仕組で複製され外国で違法流通されているのかを図式にしたものである。まず、国内のオンライン上に違法流通されたものが、「メディアに固定」されるか、「外国でダウンロード」され現地で流通する様子がわかる。最近話題になった事例としては、地上波放送番組を海外へ違法配信を行ったサービスをあげることができる。外国(主にアメリカ)で韓国の放送番組を視聴する合法的な方法は、図表2で示しているように四つの方法があるが、どちらの方法も値段や画質、本放送から視聴までかかる時間差などの欠点があり、この違法配信サービスが人気を得たという。その方法とは、違法サービスを提供した会社が、自前の特殊装備を使って地上波放送をファイルに変換し、インターネットを通じてアメリカ駐在の韓国人を対象に月に15ドル程度の利用料で番組のストリーミングサービスとダウンロードサービスを行ったものである。ユーザーが図表2で示された合法的な方法よりもこの視聴方法を選択した理由は、「値段の安さ」、「本放送との短い時間差」、「放送局を網羅した膨大なコンテンツ量」にある。その結果、アメリカとカナダだけでなくメキシコなどに違法ダウンロードされた韓国番組が広がっていった。結局彼らが地上波放送局と別途の契約を結ばず不特定多数に有料で番組を供給した行為は、同時中継放送権と複製権を侵害したとして、韓国の検察に起訴された。利用者の多くはこの会社が有料サービスだったため違法だと気付かなかったという(韓国コンテンツ振興院ホームページ、検索日時2013年11月25日)。
図表2. 海外(主にアメリカ)における韓国放送の視聴方法
方法 | 長所・短所 |
放送局のホームページでリアルタイム視聴 | ・「切れる」、「画質が悪い」などの短所 ・時間差なしですぐ視聴できる |
放送局のホームページで再送信サービス利用 | ・1件当たりおよそ50円から70円程度 ・パスポート利用権を使うと、360日1万4千円程度・30日だと1500 円程度 ・有料、すべての放送局と契約すると高くつく |
DVD/ビデオレンタル | ・最長一か月程度の時間差が発生 ・違法ダウンロードの増加により店舗数が減少 |
アメリカ内の韓国語放送チャンネル *1 | ・半日~一週間ほどの時間差が発生 |
*1 アメリカにある韓国系ケーブルテレビ局を通じて有料で提供されている。 |
このように一旦行った合法的なネット配信は海外での違法流通までの時間を短縮する可能性を秘めているが、逆に違法流通のネットサービスが合法的なサービスよりユーザーに選択された要因を考慮して合法的なサービスもそれに近くなるようシステムを作っていけば、ユーザーの合法サービスへの選択を誘導することは可能であろう。
3. 地上波放送局の番組輸出現況
韓国の地上波放送局は2011年に年間56,372本の番組を日本、中国、アメリカなどに輸出し、その総額は1億8,986万ドルに至っている。この中には海外駐在の韓国人向けの放送支援金、ビデオとDVD販売額、タイムブロック*10やフォーマット販売額、放送番組放映権販売額が含まれている。放送局別でみると、KBSの場合には6,120万ドルで3社の中で最も多く、その次がMBCの5,007万ドル、SBSの4,561万ドルであった*11。図表3によると主な販売対象国はアジア(83.7%)に集中されており、その中でも日本への輸出は59.9%とかなり高い (放送通信委員会、2012、53頁参照)。
図表3:地上波放送の主要国に対する輸出入の現況(2011年)
単位:万ドル
ジャンル別には、ドラマの比率が全体輸出額の94.9%を占めており、その次に娯楽番組(バラエティ番組)が3.8%、ドキュメンタリーが0.8%で、輸出主力番組はドラマであることがはっきりしている。
VOD版権の輸出に関する統計はあまり見当たらないが、VOD版権輸出を2002年から始めたKBSの場合は、2011年のVOD版権輸出が好調で1,400万ドルに上っているという記事もある(韓国経済ホームページ、2013年12月13日検索) 。MBCの場合も、版権の範囲別取引件数の現況は、図表4の通りで、VODが含まれた版権の件数が毎年増加傾向にあることがわかる。
図表4:版権類型別の取引の推移(2005年~2009年)*6
版権類型 | 2005年 | 2006年 | 2007年 | 2008年 | 2009年 *1 |
TV only | 208件 | 231件 | 157件 | 191件 | 74件 |
54.5% | 66.2% | 55.7% | 52.0% | 62.2% | |
Video&DVD | 105件 | 36件 | 38件 | 39件 | 14件 |
27.5% | 10.3% | 13.5% | 10.6% | 11.8% | |
TV&Video (DVD) |
37件 | 65件 | 62件 | 40件 | 11件 |
9.7% | 18.6% | 22.0% | 10.9% | 9.2% | |
出版 | 19件 | 5件 | 4件 | 6件 | 1件 |
5.0% | 1.4% | 1.4% | 1.6% | 0.8% | |
VOD&IPTV | 7件 | 4件 | 11件 | 52件 | 10件 |
1.8% | 1.1% | 3.9% | 14.2% | 8.4% | |
TV&DVD &VOD |
3件 | 4件 | 5件 | 17件 | 3件 |
0.8% | 1.1% | 1.8% | 4.6% | 2.5% | |
その他 | 3件 | 4件 | 5件 | 22件 | 6件 |
0.8% | 1.1% | 1.8% | 6.0% | 5.0% | |
合計 | 382(25.5)件 | 349(23.3)件 | 282(18.8)件 | 367(24.5)件 | 119(7.9)件 |
100% | 100% | 100% | 100% | 100% | |
*1 2009年の数値は4月までの統計であるため他年度に比べると少ない。 |
4. 放送局の番組ネット配信
韓国で地上波放送局がオンラインで番組サービスを始めてから13年が過ぎようとしている。最初は1999年にサービスを開始したSBSであり、2000年にはMBCとKBSもサービスを始めた。最初は無料で番組を提供していたが、2001年から2003年にかけて3社すべてが有料サービスに転換した。図表5は各地上波放送局における番組ネット配信の状況をまとめたものである。
図表5:各放送局における番組ネット配信の現況
項目 | KBS *12 | MBC | SBS |
サービス名 | KBS、コンピア | iMBC | SBS |
再送信 (リアルタイム) |
国内だけで同時再送信。 K Media Evolution(Player Kという専用プレーヤーで視聴が可能、韓国内限定) |
国内だけで同時再送信。オンエアサービス | 国内だけで同時再送信。オンエアサービス |
見逃し番組 の方法 |
VOD・ストリーミング(一般画質) | VOD・ストリーミング(高画質・一般画質) | VOD・ストリーミング(高画質・一般画質) |
見逃し番組 の種類 |
ドラマ、芸能、教養、ドキュメンタリーなど K Media Evolutionではドラマと娯楽を除いたKBSのすべてのコンテンツ |
ドラマ、ドキュメンタリー、芸能、子供、報道などの自社コンテンツと映画、音楽、ゲームなどのサービスも提供 | ドラマ、芸能、教養情報など |
外国番組 の有無 |
KBSとK media evolutionでは提供無し。コンピアでは映画提供あり。*1 | あり。 | 無し。 |
その他 | ・これまで、ケーブルテレビとIPTVを通じた地上波放送の再送信サービスは本放送1週間後から無料で視聴できるようになっていたが、2013年8月からその期間が3週間後に変更。 ・MBC Japanを通じて日本専用のサイトを開設し、日本語でサービス。主にドラマ。 |
||
共同サービス | conting(コンティング、以下conting) ・地上波放送局の子会社である「KBSi」、「iMBC」、「SBSi」が提携して設立した合法ダウンロードサイト。放送3社のコンテンツ以外にもEBS(教育放送)及び映画コンテンツと提携して合法ダウンロードの活性化を定着するために努力している。 ・2009年8月からサービス開始、料金:放送番組の利用は1件当たり700ウォン*2、映画の利用は1件当たり1,000~3,500ウォン ・contingではDRM(Digital Rights Management、以下DRM)が適用されないDRM Freeコンテンツを提供。contingでダウンロードされたコンテンツはデバイスの制限なく利用できるようにしている。 |
||
出所:各放送局ホームページとチェ・ジヨン(2012) 38‐43頁を参照して作成。 http://www.conpia.com, http://www.conting.com/, http://www.imbc.com/, http://www.kbsmedia.co.kr, http://k.kbs.co.kr/, http://www.mbcjapan.co.jp/, http://vod.sbs.co.kr/sw13/review_index.jsp, http://vod.sbs.co.kr/onair/onair_index.jsp?Channel=SBS *1:外国映画やドラマ、バラエティ番組など。再送信ではなく、版権を取得したコンテンツを放送局のサイトからVODサービス。 *2:1円=10.22ウォン(2013年12月9日現在) |
地上波放送局3社の中で、特にiMBCの場合には日本への番組流通に力を入れており、日本向けのオンラインサービスを専用サイトを通じて提供している。また、スマートフォン用の番組アプリケーション(一部人気のあるドラマだけ)も出しており、スマートフォンを通じた視聴者との直接取引も行っている。最近は中国最大のポータルサイト百度(Baidu)の子会社iQIYIとの間に1,052万ドル規模の番組供給契約を締結、2014年から2年間MBC放送番組を独占供給することになったが、これはiMBCの前年の売り上げの23%に相当する規模(マネトゥディニュース、2013年9月30日の記事、2013年12月8日検索)である。iMBCの場合、これに先立って国内市場においてもポータルサイトnaverとも番組の提供契約を締結し、2014年までおよそ4,000本に至るMBC番組のダウンロードサービスを提供する予定であり、オンラインを中心としたサービス展開に今後の注目が集まる(iMBCホームページ、2013年12月8日検索)。SBS番組の権利を国内外へ販売するSBSコンテンツハーブのコンテンツ事業部門の売り上げもここ3年間増加を続けている (2010年:720億ウォン、2011年:923億ウォン、2012年:1,935億ウォン) 。
その他に、放送局やエンターテイメント企業主導のプラットフォームで行われる再送信サービスは次の図表6の通りである。
図表6:その他プラットフォームによる再送信サービス
サービス名 | 内容 |
pooq コンテンツ連合プラットフォーム *1 が運営の主体 |
・2012年7月からサービス開始 ・地上波放送及び地上波系列社のコンテンツ ・リアルタイム・再送信・ストリーミング ・様々なデバイスで視聴可能 ・料金は、一件当たり1,000ウォン ・韓国版huluを目指したサービス ・著作権の問題で国内居住者を対象にサービス |
tving (株)CJ Hellovisionが運営の主体 |
・2010年6月からサービス開始 ・地上波放送、ケーブルテレビ、映画、スポーツなど、国内200のチャンネルと5万本ほどの有料VOD ・リアルタイム・再送信・ストリーミング、ダウンロード ・様々なデバイスで視聴可能 ・料金は、放送番組の場合には1件当たり700ウォン、映画の場合には1件当たり1,000~4,000ウォン ・tvingだけで視聴できる海外チャンネルも14チャンネル*2ある。 ・著作権の問題で主に国内居住者を対象にサービス(海外市場へは一部コンテンツだけの提供になっている) |
Mnet CJ E&Mが運営 |
・2005年からサービス開始 ・音楽専門チャンネル、音盤・音源流通、イベント情報提供及びチケットの先行発売、音楽関連コンテンツを提供 ・リアルタイム・ストリーミング・ダウンロード ・音楽の場合には1件当たり600ウォン、番組の場合には1件当たり700~1,500ウォン ・Mnet Japanを2005年に設立し日本市場に進出、2010年にはMnet USを設立して22本の番組を放送中 ・中国市場進出のため、CCTVと提携し「M Countdown」、「School of 楽」など韓国コンテンツを供給し、プライムタイムに編成中。また。主なポータルサイトに連携してイベント及びリアルタイムキャストを提供中。 |
出所:チェ・ジヨン(2012) 38-40頁を参照して作成。 http://www.mnet.com、http://www.pooq.co.kr *1:コンテンツ連合プラットフォームはMBCとSBSが設立した合弁法人、KBSは設立にかかわらないでコンテンツ提供だけを行う。 *2:例えば、フランスのクラブ音楽チャンネルやスポーツスター専門の芸能チャンネル、シンガポールのアジア食べ物専門チャンネル、イギリスの幼児専門チャンネル、インドのエンターテインメントや映画専門チャンネルなど。 |
放送局の自社ホームページを通じたサービスは外国人もその対象にしている反面、上記のpooqやtvingの場合には最初は国内居住者だけにサービスの提供を始めた。今後は海外市場に対してこのプラットフォームサービスの拡大を考えているが、その成果はまだこれからである。tvingの場合、2012年に一度はヤフーとの提携を通じてシンガポール・台湾・マレーシア・香港など8か国に進出したものの、1年で契約満期を理由に一部のサービスを停止した。最初にヤフーとの提携を行った際には、tvingというプラットフォームの輸出を試みていたがプラットフォームというよりは海外ポータルサイトにコンテンツを提供するだけの役割に終わってしまっていたからだということが理由である。今後はよりサービスの改善を行い、グローバル市場を狙うという(etnews.comの記事、2013年12月20日検索)。pooqの場合も現在は海外IPを遮断しているが、今後の海外進出を模索している。
5. デジタルケーブルテレビ・IPTV・スマートTVの現況と放送局との関係
韓国における放送番組のオンラインサービスの主体は地上波放送局だけではない。ケーブルテレビ・IPTV・スマートTV、そして最近はn-screenサービスと言われる多様なモバイルデバイスを通じた番組提供サービスが一般化されている。
まず、IPTVサービスとデジタルケーブルテレビを通じては、地上波放送の再送信が行われており、各有料放送事業者は加入者当たりの料金(CPS:Cost per Sales)を番組再送信の代価*13として地上波放送局に支払っている。有料放送サービスに加入している視聴者は、本放送の3週間後には無料で番組のVODが視聴できる。元々は本放送後無料視聴までかかる時間は一週間だったが、2013年8月から地上波放送局の要請で延期された。無料視聴可能時期の前に番組を視聴したい場合には別途の支払が必要になるため、無料VOD視聴可能期間が延長されたことは今後VOD売り上げの増加に影響すると予測されている。
スマートTV業界も独自にコンテンツ確保へ力を入れている。LG電子の場合、KBS、MBCなどとコンテンツ供給契約を締結することで、約6カ月間VODサービスを利用者たちに無料で提供する代わり放送局に10億ウォンを支払ったと伝えられている(キム・グァンソク、2012、62頁を参照)。サムスンスマートTVの場合にもpooq、tvingの既存の放送番組サービスはもちろん、独自の幼児用インタラクティブ娯楽・教育コンテンツも開発・制作している。また、サムソンスマートTVだけで利用できるウィーンのオペラハウスアプリケーションも搭載し、韓国語・英語・ドイツ語字幕付きのオペラやバレエ公演をリアルタイムやVODでサービスすることも最近明らかにした(ファイナンシャルニュース、2013年10月17日)。コンテンツサービスを提供している様々な主体は他事業者との差別化を図るために多様なコンテンツの確保に力を入れているが、その際地上波放送局の番組は最初に確保すべき最も基本的なサービスになっている。
6. 視聴者の利用と認識
情報通信政策研究院が2012年に実施した地上波放送番組の視聴形態に関する調査によると、リアルタイムで放送番組を視聴する利用者の比率は84.8%、VODを利用する比率は2.2%であることが分かった。現在のところリアルタイムで地上波放送を視聴する形態が支配的であるようだ。年齢や性別ごとにその利用率を詳しくみると図表7の通りであり、年齢が低いほどVOD利用率は高くなるが、一日平均視聴時間は年齢が高くなればなるほど長いことが分かった。
図表7:年齢別・性別地上波TV放送番組のVOD利用率及び視聴時間
VOD利用者数(人) | VOD利用率(%) *1 | VOD視聴時間 | |||
年齢別 | 10代以下 | 1,799 | 132 | 7.3 | 1時間26分 |
20代 | 1,451 | 138 | 9.5 | 1時間13分 | |
30代 | 1,758 | 132 | 7.5 | 1時間55分 | |
40代 | 1,872 | 122 | 6.5 | 1時間57分 | |
50代以上 | 3,439 | 155 | 4.4 | 2時間28分 | |
性別 | 男性 | 5,148 | 331 | 6.4 | 1時間41分 |
女性 | 5,171 | 348 | 6.7 | 2時間7分 | |
出所:キム・ユンファ(2013)、12頁 *1利用率は各年齢別の全体応答者を基準にしたもので、視聴時間は年齢別の利用者基準の一日平均視聴時間である。 |
これは、技術的な障壁の問題でVOD視聴は若者が多いものの、一旦その問題が解決されると年齢が高くなるほどVODの視聴時間が長くなる可能性があることを意味している。今後IPTVやデジタルケーブルテレビなどの有料放送における番組購入の操作性がより向上していくと、幅広い年齢層でVOD視聴は伸びる可能性があることを示唆している。 また、ケーブルテレビサービス(既存のアナログ加入者も含む)がIPTVサービスに比べ5倍以上の加入者を確保している反面、IPTVを通じたVOD利用率がケーブルテレビを利用したVOD利用率の57%ほどに上っており、VODサービスはIPTV加入者の方が積極的に利用していると言える。
7. 最後に
グローバル規模で起きているスマートフォンやスマートテレビ、タブレットPCなどの普及により、韓国内の放送番組の著作権者たちは新たなグローバル流通の形を模索するようになった。既存のオフラインを通じた番組ごとの販売以外にもグローバル市場における収益をさらに増やすため、オンラインサービスに対する関心は高まる一方である。
韓国の場合、配信の概念が登場する前から番組の利用に関する様々な権利が放送局に帰属されていたこともあり、早くからオンラインサービスが試されてきた。最初は各地上波放送局が独自にオンラインサービスを展開していたが、新たな競争相手と変化するメディア環境に対応するため、独自サービスの多様化は勿論、地上波放送局の共同プラットフォームの誕生にまで至るようになった。しかし、国内のプラットフォームがグローバル市場へ進出する際、最も大きな障害はやはり著作権問題である。各国の基準が異なることも問題だが、やはり国内流通においてさえ処理できない部分も増えてきたことは事実である。韓流現象以降、番組制作の段階からグローバル市場を意識して制作に取り掛かるケースが増えているため、実演家に対しては予め権利処理を行う場合が多いものの、それ以外では輸出や配信に対する許諾のため個別に当たっているケースもある。日本の地上波放送局に比べると海外流通とネット配信に関わる権利処理が円滑な部分もあるが、番組に挿入された音源の権利問題、番組制作の当事者ではないプラットフォームの海外進出においては越えなければならない問題も多い。
参考資料
1.資料(報告書・論文)
- イ・ムンヘン(2012)「地上波放送番組の海外販売の特性に関する研究:MBCの事例を中心に」『韓国言論情報学報』2012年秋、59号、韓国言論情報学会
- 韓国コンテンツ振興院(2009)「2008年独立制作社実態調査報告書」韓国コンテンツ振興院
- 韓国著作権団体連合会・著作権保護センター(2013)「2013著作権保護年次報告書(要約版)」韓国著作権団体連合会・著作権保護センター
- 韓国著作権委員会(2012)「スマート機器を通じた著作権侵害実態及び経路調査研究」韓国著作権委員会
- (株)EAN(2012)「主な韓流国家の韓国著作物の流通及び利用実態に関する調査」韓国著作権委員会
- キム・グァンソク(2012)「スマートメディア環境での放送コンテンツ流通競争と著作権紛争解決方案に対する研究」中央大学大学院博士論文
- キム・ジュワヒョン (2013)「C STORY」2013年7月号 著作権保護センター
- キム・ヒョンミ(2010)「著作権団体の違法ウェブハードへの対応の現況:現況及び問題点を中心に」『著作権技術動向Biweekly12月4週』韓国著作権委員会技術研究所
- キム・ユンファ(2013)「地上波TV放送番組の視聴形態の分析:リアルタイム視聴とVOD視聴形態の比較」『KISDI STAT Report』13-05 情報通信政策研究院
- チェ・ジヨン(2012)「国内プラットフォームを通じたコンテンツの海外輸出拡大の方案に関する研究」韓国文化観光研究院
- 放送通信委員会(2012)「2012年放送産業実態調査報告書」放送通信委員会
- 文化体育観光部・韓国著作権委員会(2013) 『2012著作権白書』文化体育観光部・韓国著作権委員会
- BIR RESEARCH GROUP (2012) 『放送通信の産業動向と革新技術の開発戦略』BIR
2.インターネットサイト(新聞記事・インターネット記事など)
- 韓国経済ホームページ、2011年12月21日の記事
http://www.hankyung.com/news/app/newsview.php?aid=2011122111431 (検索日時2013年12月13日) - 韓国コンテンツ振興院ホームページ
http://www.kocca.kr/knowledge/news/1312151_1217.html (検索日時2013年11月25日) - 東亜日報ホームページ、2013年9月4日の記事
http://news.donga.com/3/all/20130904/57436007/1 (検索日時2013年11月25日) - バク・スジン、PDジャーナルホームページ、2010年3月16日の記事
http://www.pdjournal.com/news/articleView.html?idxno=26776 (2013年12月13日検索) - ファイナンシャルニュース、2013年10月17日の記事、
http://www.fnnews.com/view?ra=Sent0601m_View&corp=fnnews&arcid=201310180100186170009998&cDateYear=2013&cDateMonth=10&cDateDay=17 (検索日時2013年12月10日) - マネトゥディニュース、2013年9月30日の記事、
http://news.mt.co.kr/mtview.php?no=2013093014432434514&type=1 (検索日時2013年12月8日) - etnews.com 2013年4月17日の記事
http://www.etnews.com/news/telecom/telecom/2751539_1435.html (検索日時 2013年12月20日) - iMBCホームページ、
http://ir.imbc.com/ (2013年12月8日検索) - KBSメディアホームページ、
http://www.kbsmedia.co.kr (2013年12月8日検索) - OhmyNews 2012年1月15日の記事、
http://star.ohmynews.com/NWS_Web/OhmyStar/at_pg.aspx?CNTN_CD=A0001682754 (2013年11月28日検索) - PDジャーナルホームページ、2013年10月31日記事
http://www.pdjournal.com/news/articleView.html?idxno=40202 (2013年12月8日検索) - SBSホームページ、
http://vod.sbs.co.kr/sw13/review_index.jsp (2013年12月8日)
- プロデューサーの略。*1
- ここでは韓国語で作成された原本を尊重する意味で「伝送」という用語を使っているが、日本語でいう「配信」の意味で使用している。その後にも原本をそのまま翻訳した場合には「伝送」と表記しているが、これらも「配信」の意味で使っている。*2
- 第69条(複製権) 実演者は自身の実演を複製する権利を持つ。*3
- 第70条(配布権) 実演者は自身の実演の複製物を配布する権利を持つ。但し、実演の複製物が実演者の許諾を得て販売などの方法の取引で提供された場合にはそうではない。*4
- 第73条(放送権) 実演者は自身の実演を放送する権利を持つ。但し、実演者の許諾を得て録音された実演に対してはそうではない。*5
- 第74条(伝送権) 実演者は自身の実演を伝送する権利を持つ。*6
- これまで、韓国における番組制作に関わった多くの権利者は、2次・3次利用による収益があまりなかったため自分たちの権利保護に無関心だった。しかし、各地における韓流現象の発生により、権利者の認識も高まってきた。*7
- ここでのスマート機器とは、スマートフォンやタブレット、スマートTVなどの端末を指す。*8
- 「韓流国家」となっているが、これは韓流現象が起きた国のことを意味している。*9
- タイムブロック販売とは、外国の放送局で特定放送時間帯に国内放送局の番組だけを放送できるように、放送時間帯を販売する形態である(BIR RESEARCH GROUP、2012、254頁)。*10
- ここでの放送番組輸出入現況からは、海外駐在の韓国人放送支援、ビデオ/DVD販売、タイムブロック、フォーマット販売金額は除かれている。*11
- KBSが運営するKBSコンテンツを扱うサイトは、「KBS」「コンピア」「K Media Evolution」の三つがある。「KBS」は、放送局のメインホームページで、番組紹介と見逃しサービス、生放送のサービスを送っている。K Media Evolutionの場合には2011年7月以降にKBSで放送されたドラマ・バライエティ番組・時事・教養番組をサービスしている。これを利用するためにはPlayer Kという専用のプレーヤーをインストールする必要がある。Player Kをインストールするとスマートフォンやタブレットなど様々なデバイスで利用が可能である。その他にもK Media Evolutionでは、放送中の番組に関する情報をマガジンのような形式で提供している。「コンピア」の場合は、番組のインターネットサービスをKBS放送局のホームページで無料提供していた時代があったが、その後有料化を図る過程で新たに作ったサイトである。「コンピア」の場合、上述した二つのサービスと提供されるコンテンツの内容の大きな違いは、生放送とニュースがなく、昔のKBSコンテンツと外国のコンテンツも扱っている。*12
- 現在、地上波放送局と各有料放送事業者の間で締結されたCPS(Cost Per Subscriber)は280ウォンとされている。*13
※リンク先は掲載時のものです。現在は存在しないか変更されている可能性があります。
金 美林
慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所 研究員
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程単位取得退学。
博士(政策・メディア)。
韓国コンテンツ振興院の政策研究チーム、韓国映画振興委員会および韓国文化観光研究院日本通信員などを経て、現在、慶應義塾大学・立教大学・専修大学で非常勤講師、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所研究員、総務省情報通信政策研究所特別フェロー。
国際コミュニケーション、コンテンツ政策、放送・通信分野を専門としており、近著に『韓国映像コンテンツ産業の成長と国際流通-規制から支援政策へ』慶應義塾大学出版会、2013年、「韓国における地上テレビとケーブルテレビ」(第7章)菅谷実(編著)『地域メディア力』中央経済社、2014年がある。2014年公益事業学会奨励賞受賞。