第22回 JAMCOオンライン国際シンポジウム
2014年3月~12月
アジア太平洋地域のテレビ局とインターネット
太平洋島嶼国のインターネット同時放送環境について
1. 背景
高速通信インフラが不十分な多くの途上国では国民には高度通信・放送サービスの裨益をもたらすまでは至っていない。デジタルデバイドの解消*1は、各国の発展において重要な課題でもある。多くの途上国においてデジタルデバイド*2によるブロードバンドギャップは企業や国民生活におい不利益をもたらしている。世界がますますデジタル化されて行く中、単純回線接続のためのネットワークが益々不十分と認識され、手頃な価格のブロードバンドは国民、企業や政府の手の届く範囲内でなければならない。ブロードバンド導入の遅れは 物流など経済、社会活動に遅れをもたらす。そのためこれら活動を活発に行うには手ごろな価格の高速ネットワークの利用を可能にする必要がある。
1990年代初頭、アメリカでは音楽のオンライン化*3が実現され音楽業界に大きなビジネスチャンスをもたらした。当時は通信と放送の融合が画期的になると専門家は断言していたが、残念ながら現在でもブロードバンドの導入が遅れており、その課題は解決には至っていない。日本では1999年に音楽配信サービスが開始されて以来、現在のビジネスに発展している。ビジュアルメディアは音楽配信の仕組みに学び、映像のオンライン化による既存ビジネスの拡張・新ビジネスへの参入を試みている。
オセアニア(太平洋島嶼国)地域ではテレビドラマ、有名な映画よりライブスポーツの視聴率が圧倒的に高いためテレビ局も数多くのスポーツ番組を提供している。サッカーワールドカップ、アメリカンフットボール、ラグビー試合、オリンピックゲームなど大きな大会や有名なスポーツ番組が高い視聴率を得ている。参考までに「フィジーワン・テレビ」のある一日の番組表*4を表1に示す。
2. 太平洋島嶼国のインターネットラジオ・テレビ状況
太平洋島嶼国は小さな島々の組み合わせで構成されており、そのネットワークインフラは、大陸の国々のように高度には至っていない。そのためインターネット上でTV番組を視聴するには適切なネットワークとは言えない。視聴者に興味をもたらすコンテンツが重要であり、テレビビジネスにとっても必要なパラメータでもある。ブロードバンドへのアクセスは子供、大人、学校、住宅、オフィスなど場所に無関係で固定またはモバイルネットワークを介してアクセスができる。ブロードバンドの普及により公共の場所で、インターネットカフェで、学校で、職場で、家庭でインターネット放送の視聴が可能になる。回線速度は通常のビデオ配信には少なくとも512Kbpsが必要であり、HDTV放送番組は、滑らかな視聴のためには少なくとも3Mbpsが必要となる。太平洋島嶼国の多くでは主要都市に限れば必要なネットワーク速度が得られている。ブロードバンドの価格が年々下がっていて、より手頃な料金体系になっている国もある。多くの島嶼国や途上国ではブロードバンドアクセスの価格は高止まり状況にあることも事実である。顧客にサービスを提供するためには一層政府の規制改革と事業者の努力が大切である。太平洋島嶼国地域でネットワーク受信が可能なラジオ放送*5番組を表2に示す。回線速度が遅いときには受信が困難である。
今後放送とブロードバンドの融合又は組み合わせによって革命的新サービスが発展するとも言われている。途上国、特に島嶼国ではブロードバンドインフラの遅れが新サービス導入・拡張に遅れをもたらしている。
3. 太平洋島嶼国の実情
太平洋島嶼国は大洋州またはオセアニアと称する地域であり、東経140度から西経140度まで東西約9,000km、北緯20 度から南緯30度程度まで南北約5,000kmの海域に位置する25の国及び地域で構成される。この地域はポリネシア、メラネシア、ミクロネシアの3つの地域に分類されるが、それぞれ独自の文化を持ち言語も多様である。広大な海域に分散する小さな群島及び島々で構成される個々の国土は狭く、人口が少なく、通信・放送インフラも不十分である。国際市場へのアクセスが困難な特性があるこの地域は自然災害や気候変動の影響を受けやすく、環境への負荷が顕在化していて、経済危機に対する抵抗力も極めて低い。日本からは近くて遠い地域であるオセアニアは、東京から約7000km南東にあるフィジー共和国を中心に、多くの国及び外国領があり、交通、通信の発達が困難とされている。このオセアニア地域に含まれるポリネシア、メラネシア、ミクロネシアの構成は図1に、オセアニア地域の国別データ*6は 表3にある。
2012年「第6回太平洋・島サミット(PALM6)」*7が沖縄県名護市で開催され、廃棄物および水の管理を含む環境問題に関する取り組みの重要性が再確認された。気候的にも地理的にも大洋州の島嶼国と類似した沖縄県は、島特有の課題に直面しながら時間をかけて克服してきた。
今後は、沖縄県等の経験を活用して、廃棄物対策のみならず水資源保全など、島の生活や環境を持続的なものとするための「循環型社会」の形成に向けた総合的な支援を展開しようとしている。このような多方面での活動にも通信ブロードバンドインフラが不可欠である。太平洋島嶼国ICT分野の拡充及びサービスの向上による教育、医療、災害予防と対策、交通運輸、地域振興、民官連携の導入・拡充をする必要がある。サービスの一環としては集合教育、個別学習、国家間テレビ会議、行政連絡網、各地域との連携推進、医療支援、外国在住者と本国の家族間連絡、災害対策、保障情報収集、インターネット放送、一斉同報等がある。
南太平洋大学*8(The University of the South Pacific:USP)はフィジーに本部を置く、地域島嶼国12 カ国の共同教育機関として設立されている。1969 年の設立以来、遠隔教育を実施しており、現在学生約2万人の半分以上が遠隔地で教育を受けている。当初は印刷物の郵送と短波放送によるオーディオチュトリアル(音声による授業)を組み合わせたシステムにより教育を実現していた。
1998年の無償資金協力によってオーストラリア、ニュージーランドと共に支援し、衛星通信ネットワーク(USPNet)を実現している。現在は衛星ブロードバンド回線でネットワーク化され高等教育の充実を図っている。2008年から約5ヶ年間に渡り日本のODA無償資金協力によりJapan Pacific ICT Center*9(ICTセンター)の建設完了と同時に関連設備更改・新規納入によって、ブロードバンドサービスが可能になり、高等教育体制がさらに確立されている。Japan-Pacific ICT Centre は日本の0DAによる無償資金協力で建設された地域 ICTの重要拠点、で、南太平洋大学フィジー本部内に建設された*10。延床面積6,500m2のAとBの 2つの棟と 315席を備えた多目的ホールがあり、設備としても最新のテレビ会議システムや学生が使用できるネットワーク化されたPC教室・研究室が設置され、ICTの国際資格試験を行うルームなどを備えている。
このICTセンターは研究開発・技術応用の中心拠点となり、新技術開発・応用の模範ともなる施設として2012年に竣工され、センター・オブ・エクセレンスとして期待されている。これにより社会的インパクトを与え産学共同体での利用によって地域を発展に導く。この施設はスバキャンパス内に設置されているが、南太平洋地域の財産である。メンバー各国の絶大なる支援と投資により運営されているこのUSPは大学として地域への貢献を再確認する。また遠隔教育で使用されている衛星通信ネットワークは拡張され*11、地域各国へインターネット、ラジオ放送、電話ビデオ会議、ファックスなどのサービスが提供できる。このUSPNetのブロードバンド化*12によってここをキーステーションとして関係各国内の小学校、高等学校をネットワークで結び、地域でのICT 教育の更なる浸透を深める。
4. ブロードバンドサービスに関するフィジーの例
南太平洋地域最大の国土を有する国はフィジーであり地理的にはほぼ中心に位置する。そのため航空路線、ハブ空港、物流拠点、海底ファイバーの中継拠点等多くの利点を有する。そのため2000年にオーストラリアと海底光ケーブルが接続され、世界との通信が便利になった。この海底光ケーブルの接続が可能になった後、フィジーではConnect. com、Vodafone、Kidanet の3社が事業参入し、ブロードバンドサービスができるようになった。最近これらテレコム フィジー、ボーダフォンフィジー、フィンテルフィジーの各社は持ち株会社のATH 社*13の傘下でフィジー全国で事業展開をしている。フィジーのブロードバンドサービスの事例を以下に紹介する。
5. 太平洋島嶼国において同時放送に不可欠なブロードバンドサービス
インターネットテレビ放送を可能にするには充実したネットワーク設備が必要である。農村部や小さな島々にインターネットはまだ普及していないため、適時に情報の伝達や娯楽番組の視聴が困難な状態にある。ブロードバンドインターネットの到来によって映像や情報配信モデルは通常の放送の他にオンラインモードも可能になり、コンテンツ制作者には新たなビジネスチャンスをもたらす。
情報周知の仕組みは放送形式にオンライン形式を加えることになりブロードバンドの発展は極めて重要になる。顧客に向け直接コンテンツが提供できる仕組みによって新しいビジネスチャンスも起きてくる。コンテンツ提供者はユーザ満足度の高いものを制作し、いち早く配信することにより事業の収益化も図ることができる。デジタルメディアの視聴者がオンラインで行列を作っている昨今、プロバイダ企業はメディア企業に対して同等の技術とサービスの導入を促している。コンテンツ事業者は最適なサービスが提供できるため可能な限り視聴者に関する多くの情報を入手しようとしている。
オセアニア地域での主な国際間光海底ケーブル*14の接続地点を図2に示す。各国は正確な陸揚げ拠点を情報の機密性及びセキュリティ確保のため関係者以外に公表はしてならない。国際海底光ケーブルの陸揚げは限定的であり、主な都市名を表4に示す。
ブロードバンドインターネット接続によりユーザは低速インターネット接続サービスを介して入手可能なものより高速で関連サービスにアクセスすることができる。
ブロードバンドネットワークの速度は利用目的・種類とサービス範囲に応じて大きく異なり、128 kbps程度の低い値から30 Mbpsサービスが一般的である。VDSLやFTTHの到来によって100Mbpsから数Gbpsの範囲*15でいくつかのサービスが住宅向けに提供*16が可能になっている。
島嶼国の多くには必要なブローバンド回線がなく、サービスが遅れている。利用可能なブロードバンド回線に関する最新データ*17を表5に示す。光海底ケーブルがまだ接続されていない国では衛星回線を利用しているためコストが割高になっており、ネットワーク構築が困難である。
6. ネット放送で必要なブロードバンドと今後
この地域の大半ではブロードバンドと言えば128kbpsが主流であり、それを使用したWi-Fiホットスポットでは一般的な日本のウェブサイトの立ち上げにさえ時間がかかり、フリーズしてしまうことも珍しくはない。そのようなネットワークではストリーミングが難しく、映像の視聴になると一部を除いてはほぼ絶望的である。先進国ではブロードバンド、ギガビットネットワーク、光ファイバー、G4、LTEなどが叫ばれる昨今、島嶼国ではそれほど重要な話題であっても実現できる見通しがつかない。
携帯電話は都市部では多く見ることができるが、離島にはあまり復旧していない。スマートフォンは本体が高価なため一部のユーザにしか手にすることができない。通信料が高いためSMS,文字通信,文字放送、一斉同報等がサービスの主体であり、携帯電話でビデオ鑑賞、ネットテレビの受信などはあまりポピュラーではない。また、国によっては携帯電話の大半がプリペイド方式なので、実際に長時間の利用はないのも事実である。
オセアニア地域の数か国ではラジオ番組の同時ストリーミングサービスを提供している。これらの大半は国内で聴くことは可能ではあるが、インターネットアクセス回線容量が不十分なため技術的な問題が生じている。非常に少ないラジオ番組は海外からも受信可能だが、国際回線の制限によってスムースに聞くことができない状況もしばしば発生している。
数少ない外国からの衛星放送の受信が可能であり、ホテルや住宅で視聴されている。南太平洋地域各国にはテレビ・ラジオ放送もあり、外国のテレビやラジオ番組の再送信も行われている。しかし、テレビ放送は、多くの離島や遠隔地で受信はできない。日本は、ODA資金協力によりこれらの国を支援しているが、日本からの放送番組もネット上で楽しむことを可能にするために通信・放送(ICT)分野でさらなる支援が必要とされる。インターネットを介した同時放送を実現するために十分なネットワークやプラットフォームが必要であり、この地域のすべての国々の長所と短所を把握するには詳細な調査が必要である。
参考資料
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高速通信インフラが不十分な多くの途上国では国民には高度通信・放送サービスの裨益をもたらすまでは至っていない。デジタルデバイドの解消*1は、各国の発展において重要な課題でもある。多くの途上国においてデジタルデバイド*2によるブロードバンドギャップは企業や国民生活におい不利益をもたらしている。世界がますますデジタル化されて行く中、単純回線接続のためのネットワークが益々不十分と認識され、手頃な価格のブロードバンドは国民、企業や政府の手の届く範囲内でなければならない。ブロードバンド導入の遅れは 物流など経済、社会活動に遅れをもたらす。そのためこれら活動を活発に行うには手ごろな価格の高速ネットワークの利用を可能にする必要がある。
1990年代初頭、アメリカでは音楽のオンライン化*3が実現され音楽業界に大きなビジネスチャンスをもたらした。当時は通信と放送の融合が画期的になると専門家は断言していたが、残念ながら現在でもブロードバンドの導入が遅れており、その課題は解決には至っていない。日本では1999年に音楽配信サービスが開始されて以来、現在のビジネスに発展している。ビジュアルメディアは音楽配信の仕組みに学び、映像のオンライン化による既存ビジネスの拡張・新ビジネスへの参入を試みている。
オセアニア(太平洋島嶼国)地域ではテレビドラマ、有名な映画よりライブスポーツの視聴率が圧倒的に高いためテレビ局も数多くのスポーツ番組を提供している。サッカーワールドカップ、アメリカンフットボール、ラグビー試合、オリンピックゲームなど大きな大会や有名なスポーツ番組が高い視聴率を得ている。参考までに「フィジーワン・テレビ」のある一日の番組表*4を表1に示す。
表1. Fiji One TV : 2014年1月24日の番組表
Time | TV Show |
6:00 | Rage: Chart Hits |
7:30 | Brandstar Shop on TV |
8:00 | Kirtan Sangrah |
9:00 | Jharokha (Replay) |
9:30 | Music Masti (Replay) |
10:30 | Noda Gauna (Replay) |
11:00 | Close Up (Replay) |
11:30 | HSBC Port Elizabeth Highlights. |
11:55 | 2014 USA Sevens Day 1 (Live!!) |
12:00 | South Africa vs. Wales |
12:22 | Kenya vs. Canada |
12:44 | New Zealand vs. Australia |
13:06 | Fiji vs. Scotland |
13:28 | Samoa vs. England |
13:50 | Portugal vs. Uruguay |
Time | TV Show |
14:12 | Rage: Chart Hits |
14:34 | France vs. Spain |
14:56 | South Africa vs. Canada |
15:18 | Kenya vs. Wales |
15:40 | New Zealand vs. Scotland |
16:02 | Fiji vs. Australia |
16:24 | Samoa vs. Uruguay |
16:46 | Portugal vs. England |
17:08 | Argentina vs. Spain |
17:30 | France vs. United States |
18:00 | Fiji One News |
18:30 | The Groove Thang |
19:30 | Movie:Remember The Titans (PG) |
21:30 | 2014 USA Sevens Day 1 (Replay) |
5:30 | Rush TV |
2. 太平洋島嶼国のインターネットラジオ・テレビ状況
太平洋島嶼国は小さな島々の組み合わせで構成されており、そのネットワークインフラは、大陸の国々のように高度には至っていない。そのためインターネット上でTV番組を視聴するには適切なネットワークとは言えない。視聴者に興味をもたらすコンテンツが重要であり、テレビビジネスにとっても必要なパラメータでもある。ブロードバンドへのアクセスは子供、大人、学校、住宅、オフィスなど場所に無関係で固定またはモバイルネットワークを介してアクセスができる。ブロードバンドの普及により公共の場所で、インターネットカフェで、学校で、職場で、家庭でインターネット放送の視聴が可能になる。回線速度は通常のビデオ配信には少なくとも512Kbpsが必要であり、HDTV放送番組は、滑らかな視聴のためには少なくとも3Mbpsが必要となる。太平洋島嶼国の多くでは主要都市に限れば必要なネットワーク速度が得られている。ブロードバンドの価格が年々下がっていて、より手頃な料金体系になっている国もある。多くの島嶼国や途上国ではブロードバンドアクセスの価格は高止まり状況にあることも事実である。顧客にサービスを提供するためには一層政府の規制改革と事業者の努力が大切である。太平洋島嶼国地域でネットワーク受信が可能なラジオ放送*5番組を表2に示す。回線速度が遅いときには受信が困難である。
表2. 太平洋島嶼国地域の主なインターネットラジオ番組放送 | |
---|---|
国名 | 所在地及びラジオ局リンク |
ミクロネシア連邦 | ヤップ州:http://www.fm/yap/radio.htm |
ポンペイ州: http://www.fm/pohnpei/radio.htm | |
コスラエ州: http://www.fm/kosrae/radio.htm | |
チュー州:http://www.fm/chuuk/radio.htm | |
ニューカレドニア | ヌメア:http://tunein.com/radio/Radio-Rythme-Bleu-1004-s105345/ |
パラオ | コロール:http://www.brouhaha.net/palau/wwfm.html |
フィジー | スバ:http://tunein.com/radio/Fiji, http://streema.com/radios/country/Fiji,http://radio.gjoy24.com/tags/1/Fiji |
バヌアツ | ポートビラ:http://clover.fm/engine/play.php?newsid=3763 |
パプアニューギニア | ポートモレスビー:http://streema.com/radios/country/Papua_New_Guinea |
キリバス | タラワ:http://streema.com/radios/country/Kiribati |
ソロモン諸島 | ホニアラ:http://radiostationworld.com/locations/solomon_islands/radio_websites.asp |
太平洋島嶼国全域でオーストラリア、ニュージーランド、BBCなどの国際ラジオ放送がネット上で受信可能。 |
3. 太平洋島嶼国の実情
太平洋島嶼国は大洋州またはオセアニアと称する地域であり、東経140度から西経140度まで東西約9,000km、北緯20 度から南緯30度程度まで南北約5,000kmの海域に位置する25の国及び地域で構成される。この地域はポリネシア、メラネシア、ミクロネシアの3つの地域に分類されるが、それぞれ独自の文化を持ち言語も多様である。広大な海域に分散する小さな群島及び島々で構成される個々の国土は狭く、人口が少なく、通信・放送インフラも不十分である。国際市場へのアクセスが困難な特性があるこの地域は自然災害や気候変動の影響を受けやすく、環境への負荷が顕在化していて、経済危機に対する抵抗力も極めて低い。日本からは近くて遠い地域であるオセアニアは、東京から約7000km南東にあるフィジー共和国を中心に、多くの国及び外国領があり、交通、通信の発達が困難とされている。このオセアニア地域に含まれるポリネシア、メラネシア、ミクロネシアの構成は図1に、オセアニア地域の国別データ*6は 表3にある。
2012年「第6回太平洋・島サミット(PALM6)」*7が沖縄県名護市で開催され、廃棄物および水の管理を含む環境問題に関する取り組みの重要性が再確認された。気候的にも地理的にも大洋州の島嶼国と類似した沖縄県は、島特有の課題に直面しながら時間をかけて克服してきた。
図1:オセアニアの構成図
今後は、沖縄県等の経験を活用して、廃棄物対策のみならず水資源保全など、島の生活や環境を持続的なものとするための「循環型社会」の形成に向けた総合的な支援を展開しようとしている。このような多方面での活動にも通信ブロードバンドインフラが不可欠である。太平洋島嶼国ICT分野の拡充及びサービスの向上による教育、医療、災害予防と対策、交通運輸、地域振興、民官連携の導入・拡充をする必要がある。サービスの一環としては集合教育、個別学習、国家間テレビ会議、行政連絡網、各地域との連携推進、医療支援、外国在住者と本国の家族間連絡、災害対策、保障情報収集、インターネット放送、一斉同報等がある。
表3. オセアニア地域の国別データ*6
国・地域名称 | 国土面積(km2) | 人口(2009-13) |
クック諸島 | 236 | 11,870 |
フィジー共和国 | 18,274 | 875,983 |
キリバス共和国 | 811 | 12,850 |
マーシャル諸島 | 236 | 64,522 |
ミクロネシア連邦 | 702 | 107,434 |
ナウル共和国 | 21 | 14,019 |
パプアニューギニア | 462,840 | 6,431,902 |
ニウエ | 260 | 1,398 |
パラオ共和国 | 459 | 20,796 |
サモア共和国 | 2,831 | 192,998 |
ソロモン諸島 | 28,896 | 95,613 |
トケラウ | 12 | 1,416 |
トンガ王国 | 747 | 120,898 |
ツバル共和国 | 26 | 12,373 |
バヌアツ | 2,189 | 218,519 |
米領サモア | 199 | 65,628 |
グアム | 544 | 180,865 |
北マリアナ諸島 | 464 | 51,484 |
仏領ポリネシア | 236 | 287,032 |
ニューカレドニア | 18,575 | 27,436 |
ワリス・フテュナ諸島 | 142 | 15,398 |
合 計 | 538,700 | 8,810,434 |
南太平洋大学*8(The University of the South Pacific:USP)はフィジーに本部を置く、地域島嶼国12 カ国の共同教育機関として設立されている。1969 年の設立以来、遠隔教育を実施しており、現在学生約2万人の半分以上が遠隔地で教育を受けている。当初は印刷物の郵送と短波放送によるオーディオチュトリアル(音声による授業)を組み合わせたシステムにより教育を実現していた。
1998年の無償資金協力によってオーストラリア、ニュージーランドと共に支援し、衛星通信ネットワーク(USPNet)を実現している。現在は衛星ブロードバンド回線でネットワーク化され高等教育の充実を図っている。2008年から約5ヶ年間に渡り日本のODA無償資金協力によりJapan Pacific ICT Center*9(ICTセンター)の建設完了と同時に関連設備更改・新規納入によって、ブロードバンドサービスが可能になり、高等教育体制がさらに確立されている。Japan-Pacific ICT Centre は日本の0DAによる無償資金協力で建設された地域 ICTの重要拠点、で、南太平洋大学フィジー本部内に建設された*10。延床面積6,500m2のAとBの 2つの棟と 315席を備えた多目的ホールがあり、設備としても最新のテレビ会議システムや学生が使用できるネットワーク化されたPC教室・研究室が設置され、ICTの国際資格試験を行うルームなどを備えている。
写真1:Japan Pacific ICT センター複合施設
このICTセンターは研究開発・技術応用の中心拠点となり、新技術開発・応用の模範ともなる施設として2012年に竣工され、センター・オブ・エクセレンスとして期待されている。これにより社会的インパクトを与え産学共同体での利用によって地域を発展に導く。この施設はスバキャンパス内に設置されているが、南太平洋地域の財産である。メンバー各国の絶大なる支援と投資により運営されているこのUSPは大学として地域への貢献を再確認する。また遠隔教育で使用されている衛星通信ネットワークは拡張され*11、地域各国へインターネット、ラジオ放送、電話ビデオ会議、ファックスなどのサービスが提供できる。このUSPNetのブロードバンド化*12によってここをキーステーションとして関係各国内の小学校、高等学校をネットワークで結び、地域でのICT 教育の更なる浸透を深める。
4. ブロードバンドサービスに関するフィジーの例
南太平洋地域最大の国土を有する国はフィジーであり地理的にはほぼ中心に位置する。そのため航空路線、ハブ空港、物流拠点、海底ファイバーの中継拠点等多くの利点を有する。そのため2000年にオーストラリアと海底光ケーブルが接続され、世界との通信が便利になった。この海底光ケーブルの接続が可能になった後、フィジーではConnect. com、Vodafone、Kidanet の3社が事業参入し、ブロードバンドサービスができるようになった。最近これらテレコム フィジー、ボーダフォンフィジー、フィンテルフィジーの各社は持ち株会社のATH 社*13の傘下でフィジー全国で事業展開をしている。フィジーのブロードバンドサービスの事例を以下に紹介する。
- 4.1 テレコム フィジー リミテッドのサービス
テレコム フィジー リミテッドは、フィジー最大の通信事業者である。プロバイダのひとつとしてフィジ国内の通信ネットワークサービス全般を提供している。高度な設備を保有し他社よりも優位なブロードバンドサービスを提供している。 - 4.2 ボーダフォンフィジーのサービス
ボーダフォンフィジーは、携帯電話やインターネットサービスなどフィジーで最大の携帯通信サービスプロバイダである。ボーダフォン後払いプランでは、多くのインターネットサービスメニューを提供している。その中の主なサービス名はFlashNetで、課金には3つのステップがある。プランでは最大データ・キャップが設定さてれていてそれに到達するとFlashNetアカウントが停止される。加入者がより多くのデータが必要な場合は別枠で高いキャップにアップグレードすることができる。 - 4.3 アンワイヤードフィジーのサービス
アンワイヤードフィジー社は通信ネットワークを構築する専用の企業である。この会社はフィジーで最初の無線インターネットサービスプロバイダとして2005年にサービスを開始し、後にDigicel社の傘下に入ることになった。この企業のンターネットサービスは4G WIMAX技術を用いて提供されている。ネットワークは、広帯域無線接続を提供することも検討している。提供するデータスピードは128, 256, 512, 1024, 2048 Kbpsと8Mbpsである。このプロバイダのカバレッジエリアにはスバ、ラミ、ナウソリ、ナンディ、ラウトカおよびシガトカなどの主要都市や町が含まれている。 - 4.4 フィンテルフィジーのサービス
フィンテルフィジー社が提供するプロバイダKIDANETのインターネットアクセスは最大2Mbps(WIMAX)のブロードバンド速度で接続できる。各プランには同じレベルの品質、サービスと信頼性を確保されホームユーザー、取引先や教育事業体のための専用 および共有インターネット接続サービスを提供しているとされている。 プリペイドサービス、年間契約や毎月の請求書発行ができるサービスも用意されている。プリペイドインターネットサービスとしてより多くの柔軟性を与え、サービスが必要になったとき必要なだけ利用できる仕組みとなっている。バヌアツ、サモア、パプアニューギニア等の国でもブロードバンドサービスが提供されている。
5. 太平洋島嶼国において同時放送に不可欠なブロードバンドサービス
インターネットテレビ放送を可能にするには充実したネットワーク設備が必要である。農村部や小さな島々にインターネットはまだ普及していないため、適時に情報の伝達や娯楽番組の視聴が困難な状態にある。ブロードバンドインターネットの到来によって映像や情報配信モデルは通常の放送の他にオンラインモードも可能になり、コンテンツ制作者には新たなビジネスチャンスをもたらす。
情報周知の仕組みは放送形式にオンライン形式を加えることになりブロードバンドの発展は極めて重要になる。顧客に向け直接コンテンツが提供できる仕組みによって新しいビジネスチャンスも起きてくる。コンテンツ提供者はユーザ満足度の高いものを制作し、いち早く配信することにより事業の収益化も図ることができる。デジタルメディアの視聴者がオンラインで行列を作っている昨今、プロバイダ企業はメディア企業に対して同等の技術とサービスの導入を促している。コンテンツ事業者は最適なサービスが提供できるため可能な限り視聴者に関する多くの情報を入手しようとしている。
オセアニア地域での主な国際間光海底ケーブル*14の接続地点を図2に示す。各国は正確な陸揚げ拠点を情報の機密性及びセキュリティ確保のため関係者以外に公表はしてならない。国際海底光ケーブルの陸揚げは限定的であり、主な都市名を表4に示す。
図2:オセアニア地域の主な国際光海底ケーブル
表4. 各国のケーブル陸揚げの都市詳細
ケーブル陸揚げ都市 | 国名 |
東京、他 | 日本 |
シドニー | オーストラリア |
オークランド | ニュージーランド |
ポートモレスビー | パプアニューギニア |
ラエ | パプアニューギニア |
ホニアラ | ソロモン諸島 |
ポートビラ | バヌアツ |
ポンペイ | ミクロネシア連邦 |
マジュロ | マーシャル諸島 |
ケーブル陸揚げ都市 | 国名 |
スバ | フィジー |
アピア | サモア |
ヌクアロファ | トンガ王国 |
パンゴパンゴ | アメリカンサモア |
タヒチ | 仏領ポリネシア |
ヌメア | 仏領ニューカレドニア |
ハワイ | アメリカ |
グアム | アメリカ |
ロサンゼルス | アメリカ |
ブロードバンドネットワークの速度は利用目的・種類とサービス範囲に応じて大きく異なり、128 kbps程度の低い値から30 Mbpsサービスが一般的である。VDSLやFTTHの到来によって100Mbpsから数Gbpsの範囲*15でいくつかのサービスが住宅向けに提供*16が可能になっている。
表5. 島嶼国ブロードバンド回線の最新データ | ||||
---|---|---|---|---|
国・地域名称 | 固定回線 | モバイル回線 | ||
回線数 | 世界順位 | 回線数 | 世界順位 | |
ニューカレドニア | 48,165 | 114 | 6,033 | 141 |
仏領ポリネシア | 39,878 | 118 | 15,971 | 135 |
フィジー | 13,734 | 142 | 96,277 | 118 |
パプアニューギニア | 8,077 | 153 | – | – |
ソロモン諸島 | 2,198 | 170 | 36,969 | 128 |
トンガ王国 | 1,518 | 173 | – | – |
ワリス・フテュナ | 1,363 | 176 | – | – |
キリバス | 993 | 181 | – | – |
パラオ | 621 | 184 | – | – |
ツバル | 592 | 185 | – | – |
ナウル | – | – | 904 | 145 |
6. ネット放送で必要なブロードバンドと今後
この地域の大半ではブロードバンドと言えば128kbpsが主流であり、それを使用したWi-Fiホットスポットでは一般的な日本のウェブサイトの立ち上げにさえ時間がかかり、フリーズしてしまうことも珍しくはない。そのようなネットワークではストリーミングが難しく、映像の視聴になると一部を除いてはほぼ絶望的である。先進国ではブロードバンド、ギガビットネットワーク、光ファイバー、G4、LTEなどが叫ばれる昨今、島嶼国ではそれほど重要な話題であっても実現できる見通しがつかない。
携帯電話は都市部では多く見ることができるが、離島にはあまり復旧していない。スマートフォンは本体が高価なため一部のユーザにしか手にすることができない。通信料が高いためSMS,文字通信,文字放送、一斉同報等がサービスの主体であり、携帯電話でビデオ鑑賞、ネットテレビの受信などはあまりポピュラーではない。また、国によっては携帯電話の大半がプリペイド方式なので、実際に長時間の利用はないのも事実である。
オセアニア地域の数か国ではラジオ番組の同時ストリーミングサービスを提供している。これらの大半は国内で聴くことは可能ではあるが、インターネットアクセス回線容量が不十分なため技術的な問題が生じている。非常に少ないラジオ番組は海外からも受信可能だが、国際回線の制限によってスムースに聞くことができない状況もしばしば発生している。
数少ない外国からの衛星放送の受信が可能であり、ホテルや住宅で視聴されている。南太平洋地域各国にはテレビ・ラジオ放送もあり、外国のテレビやラジオ番組の再送信も行われている。しかし、テレビ放送は、多くの離島や遠隔地で受信はできない。日本は、ODA資金協力によりこれらの国を支援しているが、日本からの放送番組もネット上で楽しむことを可能にするために通信・放送(ICT)分野でさらなる支援が必要とされる。インターネットを介した同時放送を実現するために十分なネットワークやプラットフォームが必要であり、この地域のすべての国々の長所と短所を把握するには詳細な調査が必要である。
参考資料
- The World Summit on the Information Society (WSIS)、ITU 2003, 2005 *1
- 世界情報社会サミット(WSIS)第1フェーズで採択された文書, 外務省、http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/it/dd.html *2
- Rob Lord, Jeff Patterson and Jon Luini Internet Underground Music Archive (IUMA) University of California, Santa Cruz in 1993. *3
- Fiji Television Limited, http://fijione.tv/ *4
- Radio stations of Pacific Nations, http://radiostationworld.com/oceania.asp *5
- CIA World Factbook, 2012-2014 *6
- The Sixth Pacific Islands Leaders Meeting , PALM 6 Declarations 2012, Ministry of Foreign Affairs, Japan *7
- The University of the South Pacific, (http://www.usp.ac.fj/) *8
- 2011年版 政府開発援助(ODA)白書;第2章,第3節, P129 *9
- JICA: "ICT for Human Development and Human Security Project at USP";
http://www.jica.go.jp/project/fiji/002/news/20100621.html
http://www.jica.go.jp/project/fiji/002/news/20110624.html
http://www.jica.go.jp/project/fiji/002/news/20101103.html *10 - プラマニク カデル博;太平洋島嶼国でODA支援により建設されたJapan Pacific ICT Centerの役割と最先端技術支援国際協力の地域貢献について;ITUAJジャーナル Vol. 41 No. 4 *11
- プラマニク カデル博;太平洋島嶼国地域におけるICT設備の構築~我国ODA支援の実情と今後の期待~; ITUAJジャーナル Vol. 42 No. 12 *12
- Submarine Cable Industry Report, Submarine Telecoms Forum, Inc, Issue 2, March 2013 *13
- Tony Brown;Japanese operator dumps HFC for FTTH to meet market desire for fibre, Informa & Telecom Media UK, December 18, 2013 *14
- So-net インターネット接続; 最大2Gbpsの世界最速光ファイバーサービス(NURO 光), (http://www.nuro.jp/hikari/) *15
- The State of Broadband 2013: Universalizing Broadband, ITU September 2013 *16
- Amalgamated Telecom Holdings Limited (ATH), Annual Report 2013 *17
※リンク先は掲載時のものです。現在は存在しないか変更されている可能性があります。
プラマニク カデル博(ひろし)
一般財団法人海外通信・放送コンサルティング協力
東北大学大学院工学研究科電気・通信工学専攻博士課程修了、工学博士(1977年)。
日本へ帰化。
・沖電気工業にて中南米とアジア諸国での業務に従事。
・ITU職員としてアフリカ諸国を含め多くの国で通信・放送関連業務。
・(株)リクルートにて情報通信ネットワーク構築及びサービス関連業務に従事。
・太平洋島嶼国のためICT支援など、ICT分野の格差是正のための国際協力支援。JICA専門家として南太平 洋大学をベースとした衛星ブロードバンドネットワーク構築・増強、広域ネットワークの構築、遠隔教育支援、コンテンツ制作、データベース構築等を支援。
<表彰>
・2007年 国際協力賞受賞。
・2013年ICT功績賞を受賞(総務省・日本ITU 協会)。