第22回 JAMCOオンライン国際シンポジウム
2014年3月~12月
アジア太平洋地域のテレビ局とインターネット
テレビ局におけるインターネットの活用:
スリランカのIndependent Television Network(ITN)に関する事例研究
要旨
本稿の目的は、スリランカのテレビ局でインターネットの利用がどの程度まで進んでいるかについて検証することである。とくにスリランカ第一のテレビ局であるIndependent Television Network(ITN)に焦点を合わせる。ITNがインターネットを使って番組の一部(ニュース、ドラマ、音楽、スポーツ)をシンハラ語、タミル語、英語の3言語による放送を世界各地で始めてから10年経つ。この研究では、「スリランカのテレビ局でのインターネット利用の出現」「ITNのインターネット利用」「スリランカのいくつかのテレビ局の同時再送信」の3つを主要なテーマとして取り上げる。スリランカには公認のテレビチャンネルが44あり、その大部分が番組をインターネット経由でオンラインまたは録画版として放送していると伝えられる。海外でも多くの視聴者(約300万人)がインターネットでスリランカのテレビチャンネルを見ているとされる。本調査で分かった主要な点の一つは、ITNはインターネットを利用して番組の一部を放送しているが、技術機器の不足と管理運営システムの不備により、テレビ番組のすべてを放送することはできない状況にあるということである。
※(キーワード:インターネット利用、Independent Television Network(ITN)、テレビ番組)
1. 序論
インターネットテレビとはインターネットを通じてのテレビコンテンツのデジタル送信であり、ビデオストリーミング技術によりインターネット上でテレビ番組その他のビデオコンテンツを配信することである。インターネットテレビは米国、英国、日本、韓国、中国、オランダ、トルコ、オーストラリア、アイルランド、インド、フィリピン、スリランカなど多くの国で普及が進んでいる。
インターネットテレビの利用者は自分が見たいコンテンツやテレビ番組をコンテンツのアーカイブやチャンネルの一覧表から選ぶことができる。インターネットテレビを視聴する方法は、コンテンツを直接メディアプレイヤーにストリーミングする方法と、単にそのメディアを利用者のコンピューターにダウンロードするだけの2つがある。上記のソフトウェアとウェブサイトは主要なテレビ放送事業者に不可欠である。例えば、BBCのiPlayer*1は1週間に100万件を超えるビデオを視聴者に提供している。ドラマ“Apprentice”の第1話がBBCのiPlayerで入手可能になった際は非常に多くの人がアクセスし、英国全体のインターネット通信量の3~5%を占めた。
インターネットテレビの普及はますます進んでいる。例えば、カナダでは600本を超えるテレビ番組が無料のストリーミングサービスで提供されており、その中には“Survivor”や“Daily Show with John Stewart”などの看板番組も含まれている。オンデマンドのテレビサービスの利用は毎晩10時ごろにピークに達する。コンテンツの多くがいくつかの異なる方式と品質で提供されるため、多様な装置を使って見ることが可能である。これらのサービスの中には、現在、SD(標準画質)サービスと平行して、HD(高画質)スクリーンを備えた装置で視聴可能なHDサービスを提供しているものもある。2006年以前においては、見逃し番組のキャッチアップやフォローアップサービスのほとんどは、利用者がアプリケーションをダウンロードしデータを利用者間で共有する、P2P(Peer to Peer)*2ネットワークを使っていた。現在では、ほとんどのサービス提供者がP2Pシステムから離れ、ストリーミングメディアを使っている。
インターネットテレビサービスの提供者は多数存在するが、その中には、テレビ番組を放送終了後も続けて見せる方法としてインターネットの活用を図り、「オンデマンド」また「キャッチアップ」サービスとして宣伝することが多い既存のテレビ局も含まれる。今日では、世界の主要放送機関のほとんどすべてがインターネットテレビのプラットフォームを運営している。その例としてBBCとChannel 4がある。BBCはその“Radio Player”と既存のビデオクリップ・コンテンツのストリーミングサービスの延長として、2008年6月25日にBBC iPlayerを導入し、Channel-4は2006年4oD(“4 on Demand”)を開始して、利用者が最近放送されたコンテンツを見ることができるようにした。
こうしたサービスの提供者のほとんどにとって、インターネット上のコンテンツをどう管理するかが課題となっている。すなわち、年齢確認が必要とされるコンテンツを利用者が見られるようにするために、提供者は年齢認証が必要な題材の利用やアクセスを親が制限することを認めるペアレンタル・コントロールといった方法を使っている。BBCのiPlayerはこのペアレンタル・コントロール機能を使って、親に「コンテンツをロック」する選択肢―そのコンテンツにアクセスするにはパスワードを使わなければならい―を与えている。利用者に対しては、このコンテンツはアクセスに認証が必要であるとか、あるいは子どもが就寝した後の時間帯での視聴を想定しているといった警告システムがある。また、特定のコンテンツを視聴することができることを証明するため、利用者に対しと生年月日や年齢を申告してもらう自主管理システムも使われている。
アーカイブは情報やメディアのコレクションであり、図書館やインタラクティブな保管施設とよく似ている。利用者が標準放送のテレビですでに放送されたコンテンツを見るためには、オンデマンド・メディアサービスはアーカイブを維持することが不可欠である。しかし、そうしたアーカイブは管理者やコンテンツの種類によって、保存期間が2~3週間のものから数カ月、数年に及ぶものまでばらつきがある。例えば、BBCのiPlayerで提供される番組は、通例、最初の放送日から1週間後までである。この「7日間キャッチアップ」モデルは多くの国のインターネットテレビサービスで業界標準となっている。
放送権は、国により、また同じ国でも地域により異なる。放送権は著作権のあるコンテンツやメディアの流通を統制するもので、それらのコンテンツの独占配信を常時認めている。特定の国でしか放送されていないコンテンツの例がBBCのiPlayerである。BBCは利用者のパスワードと住所をチェックし、英国内にいる利用者だけがBBCからコンテンツをストリーミングできるようにしている。BBCは自らの制作物の無料利用を英国内の利用者だけに認めているが、それはこれらの利用者がBBCの財源の一部であるテレビ受信料を支払っているからである。このパスワードと住所のチェックは、利用者がBBCのウェブサイトにVPN(バーチャル・プライベート・ネットワーク)またはプロキシ・サーバー経由でアクセスしている可能性があるため、絶対確実なものとは言えない。
放送権はまた、放送事業者に期間限定でコンテンツを配信すること認めるといった形で制限されることもある。Channel-4のオンラインサービス(4oD)は、米国でHBO(Home Box Office)などの制作会社が作った番組を、Channel-4グループのチャンネルの一つで放送した後30日間に限ってストリーミングできる。これはそのメディアを制作した会社のDVD販売を促進するためである。会社の中には非常に多額の放送権料を払うところもある。例えば、ESPN(Entertainment and Sports Programming Network)チャンネルはインターネットを通じてのあらゆる種類のスポーツや放送の権利を確保するため多額の金を支払っている。
上記の例は、さまざまなテレビ局が番組を多様なフォーマットで放送するためにインターネットをどのように利用しているかを示すものである。この点について、スリランカのテレビ局を見ると、インターネットを使ってオンラインおよび録画版で番組を放送している公認のテレビチャンネルは44ある*3。これについて第2節で詳しく説明する。
2. スリランカのテレビ局におけるインターネット利用
スリランカのテレビ局が番組を世界中に向けて放送するためインターネットの利用を開始してから10年になる。スリランカのテレビ局がインターネットを使って番組を放送するようになった要因は多数ある。例えば、外国に居住する視聴者(スリランカ人)の数が非常に多いこと、海外でインターネット接続が普及していること、一度に多数のTV番組を見ることが簡単にでき時間の節約になること、などである。
海外の視聴者数について言えば、欧州には200万人を超えるスリランカ人が母国を離れて暮らしている。30年に及ぶスリランカ政府と「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」の武力紛争により、多くの人々が国外に逃れ欧州に避難した。こうした離散民のほか、中東諸国では多くのスリランカ人が労働者や家政婦として働いている。ある報告によれば、スリランカの全人口*4の7分の1に当たる人々が海外に居住しているという。これらの海外居住者はインターネットでスリランカのテレビ番組を見ることを好む。スリランカのあるメディア関係者によれば、2000年代初めにはこうした海外離散民からスリランカのTV番組を求める声が非常に強かったという。
もう一つの側面はインターネットアクセスの状況である。インターネットへのアクセスはスリランカよりも海外のほうが容易だと言われている。また、インターネット使用料(1カ月単位のレンタル料)も海外のほうが安い。このため、海外に住むスリランカ人の多くがインターネットでスリランカのテレビチャンネルを見ている。海外に住むあるスリランカ人は、スリランカから遠く離れた場所に住んでいるがインターネットがあるため母国がとても近く感じられる、と筆者に話している。この男性はさらに、海外のスリランカ人のほうが国内に住む人たちよりもスリランカのことを知りたがる傾向があり、その結果スリランカのことを国内に住む人よりよく知っている場合がある、と話している。ある番組を見逃しても、後でそれをアーカイブから取り出して見ることができるというわけである。
さらに別の側面として、インターネットを使えば一度に多くの番組の視聴が可能になるということがある。海外に住む人々の多くは、仕事の予定がぎっしり詰まっているため余暇の時間が非常に限られていることから、こうしたインターネットテレビがたいへん便利であることが分かっている。カナダ在住の離散民の一人が筆者に話したところによると、スリランカとカナダの間には12時間の時差があり、時間通りにインターネットテレビを見ることができないため、インターネットテレビの番組を録画しておき、後で好きなドラマや音楽番組、ニュースを見るとのことである。
さらに、インターネットテレビはケーブルテレビと比べると安上がりだという側面もある。英国在住の離散民の一人は筆者に対し、インターネットテレビを利用する前は、スリランカのテレビチャンネルを見るため、ケーブルテレビの受信契約を結んでいたが、料金が非常に高く、初期費用の支払いも必要だったと話した。しかし、インターネットテレビの場合は毎月のインターネット接続料以外は払う必要がない。この男性はインターネットテレビを高く評価し、オンラインで様々なチャンネルの番組をもっと多く見るのを楽しみにしているという。
テレビ局にについて見ると、スリランカには44の公認チャンネルがある。これらのテレビ局は、地上デジタルネットワーク、地上アナログネットワーク、衛星・ケーブルネットワークの地方テレビチャンネル、およびペイテレビネットワークの4つに分類される。地上デジタルネットワークは衛星伝送やケーブルを使わないテレビの方式で、送信は電波とアンテナを使って行われる。地上アナログネットワークは地上デジタルネットワークとほぼ同じである。衛星の地方テレビチャンネルは、できるだけ多くの地方テレビチャンネルがその地方のことを最大限に伝えることができるようにするために設立された。ペイテレビは契約者が視聴料を払って視聴するテレビサービスで、通常、アナログおよびデジタルのケーブル、衛星テレビがある。以下に各分類の詳細を示す。
上記の表は、各テレビチャンネルの名称、所有者、使用言語、使用技術、設立年を示している。それによると、スリランカには国営と民間の2つのタイプのテレビチャンネルがあり、そのうち国営チャンネルはITNを含めて7チャンネル、民間チャンネルは32チャンネルである。次節では、スリランカのITN TVについて説明する。
3. Independent Television Network(ITN)
Independent Television Network(ITN)はスリランカではまず第一に挙げられるテレビ局である。1979年、スリランカおよび南アジアでは初のテレビ放送サービスとして設立された。ITNは、ラジオ・テレビ放送が政府の管理下に置かれていたこの地域では初の民間テレビ局であったが、1992年、国を主要株主とする株式会社に転換した。現在は、スリランカ国内の広範な視聴者層と、海外コミュニティーに向けて放送を行っている。番組はシンハラ語、タミル語、英語の3言語で放送されている。Vasantham TVはITNが運営する第2のテレビチャンネルで、タミル語でコンテンツを放送している。Prime TVはITNが運営する第3のテレビチャンネルで、英語でコンテンツを放送している。以下、ITNがインターネットで放送するいくつかの番組について説明する。
4. 同時再送信:スリランカのテレビ局の場合
本節では、インターネットを使って番組を世界各地に放送または同時再送信しているいくつかのスリランカのテレビ局について検討する。マスメディア情報省によると、スリランカには10の主要テレビチャンネルがある。すなわち、Independent Television Network(ITN)、Sri Lanka Rupavahini Corporation(SLRPC)、Swarnavahini、Sirasa TV、Hiru TV、Derana TV、Siyatha TV、Max TV、Daham Gagana TV、CSN TV、TNL TV、およびVasantham TVである。以下では、上記テレビ局のうちのいくつかと、それらのテレビ局がインターネット経由で同時再送信している番組について説明する。
5. スリランカにおける海外テレビ番組
本節では、日本、韓国、中国、インドの4カ国で制作されたテレビドラマのいくつかを選び、これらのテレビドラマがどのようにしてスリランカに提供され、それぞれのテレビチャンネルで放送されるようになったかを説明する。
5. 結論
今回の調査の結論としては、ITNはインターネットを使ってニュース、ドラマ、スポーツ、娯楽など番組の一部をオンラインおよび録画版として放送しているが、技術機器の不足および管理運営システムの不備により、全番組をインターネット経由で放送することは不可能な状態にある。スリランカの他のテレビ局と比較すると、ITNの視聴者数は国内および海外で約300万人と最も多い。実際、視聴者はインターネットでの番組提供を強く求めている。
海外テレビ番組については、Sri Lanka Rupavahini Corporation(SLRPC)、Independent Television Network(ITN)、Sirasa TVなどのテレビ局がドラマ、アニメ、アドベンチャーといった外国で制作された番組を放送しているものの、海外テレビ番組に課金する新しいメディア法の存在により、海外番組の放送に消極的になっている。さらに、海外番組のシンハラ語やタミル語への吹き替えはコストがかかる。簡単に言えば、海外テレビ番組の放送には、国内制作番組と比べて、資金面での制約がある。
参考資料
※リンク先は掲載時のものです。現在は存在しないか変更されている可能性があります。
本稿の目的は、スリランカのテレビ局でインターネットの利用がどの程度まで進んでいるかについて検証することである。とくにスリランカ第一のテレビ局であるIndependent Television Network(ITN)に焦点を合わせる。ITNがインターネットを使って番組の一部(ニュース、ドラマ、音楽、スポーツ)をシンハラ語、タミル語、英語の3言語による放送を世界各地で始めてから10年経つ。この研究では、「スリランカのテレビ局でのインターネット利用の出現」「ITNのインターネット利用」「スリランカのいくつかのテレビ局の同時再送信」の3つを主要なテーマとして取り上げる。スリランカには公認のテレビチャンネルが44あり、その大部分が番組をインターネット経由でオンラインまたは録画版として放送していると伝えられる。海外でも多くの視聴者(約300万人)がインターネットでスリランカのテレビチャンネルを見ているとされる。本調査で分かった主要な点の一つは、ITNはインターネットを利用して番組の一部を放送しているが、技術機器の不足と管理運営システムの不備により、テレビ番組のすべてを放送することはできない状況にあるということである。
※(キーワード:インターネット利用、Independent Television Network(ITN)、テレビ番組)
1. 序論
インターネットテレビとはインターネットを通じてのテレビコンテンツのデジタル送信であり、ビデオストリーミング技術によりインターネット上でテレビ番組その他のビデオコンテンツを配信することである。インターネットテレビは米国、英国、日本、韓国、中国、オランダ、トルコ、オーストラリア、アイルランド、インド、フィリピン、スリランカなど多くの国で普及が進んでいる。
インターネットテレビの利用者は自分が見たいコンテンツやテレビ番組をコンテンツのアーカイブやチャンネルの一覧表から選ぶことができる。インターネットテレビを視聴する方法は、コンテンツを直接メディアプレイヤーにストリーミングする方法と、単にそのメディアを利用者のコンピューターにダウンロードするだけの2つがある。上記のソフトウェアとウェブサイトは主要なテレビ放送事業者に不可欠である。例えば、BBCのiPlayer*1は1週間に100万件を超えるビデオを視聴者に提供している。ドラマ“Apprentice”の第1話がBBCのiPlayerで入手可能になった際は非常に多くの人がアクセスし、英国全体のインターネット通信量の3~5%を占めた。
インターネットテレビの普及はますます進んでいる。例えば、カナダでは600本を超えるテレビ番組が無料のストリーミングサービスで提供されており、その中には“Survivor”や“Daily Show with John Stewart”などの看板番組も含まれている。オンデマンドのテレビサービスの利用は毎晩10時ごろにピークに達する。コンテンツの多くがいくつかの異なる方式と品質で提供されるため、多様な装置を使って見ることが可能である。これらのサービスの中には、現在、SD(標準画質)サービスと平行して、HD(高画質)スクリーンを備えた装置で視聴可能なHDサービスを提供しているものもある。2006年以前においては、見逃し番組のキャッチアップやフォローアップサービスのほとんどは、利用者がアプリケーションをダウンロードしデータを利用者間で共有する、P2P(Peer to Peer)*2ネットワークを使っていた。現在では、ほとんどのサービス提供者がP2Pシステムから離れ、ストリーミングメディアを使っている。
インターネットテレビサービスの提供者は多数存在するが、その中には、テレビ番組を放送終了後も続けて見せる方法としてインターネットの活用を図り、「オンデマンド」また「キャッチアップ」サービスとして宣伝することが多い既存のテレビ局も含まれる。今日では、世界の主要放送機関のほとんどすべてがインターネットテレビのプラットフォームを運営している。その例としてBBCとChannel 4がある。BBCはその“Radio Player”と既存のビデオクリップ・コンテンツのストリーミングサービスの延長として、2008年6月25日にBBC iPlayerを導入し、Channel-4は2006年4oD(“4 on Demand”)を開始して、利用者が最近放送されたコンテンツを見ることができるようにした。
こうしたサービスの提供者のほとんどにとって、インターネット上のコンテンツをどう管理するかが課題となっている。すなわち、年齢確認が必要とされるコンテンツを利用者が見られるようにするために、提供者は年齢認証が必要な題材の利用やアクセスを親が制限することを認めるペアレンタル・コントロールといった方法を使っている。BBCのiPlayerはこのペアレンタル・コントロール機能を使って、親に「コンテンツをロック」する選択肢―そのコンテンツにアクセスするにはパスワードを使わなければならい―を与えている。利用者に対しては、このコンテンツはアクセスに認証が必要であるとか、あるいは子どもが就寝した後の時間帯での視聴を想定しているといった警告システムがある。また、特定のコンテンツを視聴することができることを証明するため、利用者に対しと生年月日や年齢を申告してもらう自主管理システムも使われている。
アーカイブは情報やメディアのコレクションであり、図書館やインタラクティブな保管施設とよく似ている。利用者が標準放送のテレビですでに放送されたコンテンツを見るためには、オンデマンド・メディアサービスはアーカイブを維持することが不可欠である。しかし、そうしたアーカイブは管理者やコンテンツの種類によって、保存期間が2~3週間のものから数カ月、数年に及ぶものまでばらつきがある。例えば、BBCのiPlayerで提供される番組は、通例、最初の放送日から1週間後までである。この「7日間キャッチアップ」モデルは多くの国のインターネットテレビサービスで業界標準となっている。
放送権は、国により、また同じ国でも地域により異なる。放送権は著作権のあるコンテンツやメディアの流通を統制するもので、それらのコンテンツの独占配信を常時認めている。特定の国でしか放送されていないコンテンツの例がBBCのiPlayerである。BBCは利用者のパスワードと住所をチェックし、英国内にいる利用者だけがBBCからコンテンツをストリーミングできるようにしている。BBCは自らの制作物の無料利用を英国内の利用者だけに認めているが、それはこれらの利用者がBBCの財源の一部であるテレビ受信料を支払っているからである。このパスワードと住所のチェックは、利用者がBBCのウェブサイトにVPN(バーチャル・プライベート・ネットワーク)またはプロキシ・サーバー経由でアクセスしている可能性があるため、絶対確実なものとは言えない。
放送権はまた、放送事業者に期間限定でコンテンツを配信すること認めるといった形で制限されることもある。Channel-4のオンラインサービス(4oD)は、米国でHBO(Home Box Office)などの制作会社が作った番組を、Channel-4グループのチャンネルの一つで放送した後30日間に限ってストリーミングできる。これはそのメディアを制作した会社のDVD販売を促進するためである。会社の中には非常に多額の放送権料を払うところもある。例えば、ESPN(Entertainment and Sports Programming Network)チャンネルはインターネットを通じてのあらゆる種類のスポーツや放送の権利を確保するため多額の金を支払っている。
上記の例は、さまざまなテレビ局が番組を多様なフォーマットで放送するためにインターネットをどのように利用しているかを示すものである。この点について、スリランカのテレビ局を見ると、インターネットを使ってオンラインおよび録画版で番組を放送している公認のテレビチャンネルは44ある*3。これについて第2節で詳しく説明する。
2. スリランカのテレビ局におけるインターネット利用
スリランカのテレビ局が番組を世界中に向けて放送するためインターネットの利用を開始してから10年になる。スリランカのテレビ局がインターネットを使って番組を放送するようになった要因は多数ある。例えば、外国に居住する視聴者(スリランカ人)の数が非常に多いこと、海外でインターネット接続が普及していること、一度に多数のTV番組を見ることが簡単にでき時間の節約になること、などである。
海外の視聴者数について言えば、欧州には200万人を超えるスリランカ人が母国を離れて暮らしている。30年に及ぶスリランカ政府と「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」の武力紛争により、多くの人々が国外に逃れ欧州に避難した。こうした離散民のほか、中東諸国では多くのスリランカ人が労働者や家政婦として働いている。ある報告によれば、スリランカの全人口*4の7分の1に当たる人々が海外に居住しているという。これらの海外居住者はインターネットでスリランカのテレビ番組を見ることを好む。スリランカのあるメディア関係者によれば、2000年代初めにはこうした海外離散民からスリランカのTV番組を求める声が非常に強かったという。
もう一つの側面はインターネットアクセスの状況である。インターネットへのアクセスはスリランカよりも海外のほうが容易だと言われている。また、インターネット使用料(1カ月単位のレンタル料)も海外のほうが安い。このため、海外に住むスリランカ人の多くがインターネットでスリランカのテレビチャンネルを見ている。海外に住むあるスリランカ人は、スリランカから遠く離れた場所に住んでいるがインターネットがあるため母国がとても近く感じられる、と筆者に話している。この男性はさらに、海外のスリランカ人のほうが国内に住む人たちよりもスリランカのことを知りたがる傾向があり、その結果スリランカのことを国内に住む人よりよく知っている場合がある、と話している。ある番組を見逃しても、後でそれをアーカイブから取り出して見ることができるというわけである。
さらに別の側面として、インターネットを使えば一度に多くの番組の視聴が可能になるということがある。海外に住む人々の多くは、仕事の予定がぎっしり詰まっているため余暇の時間が非常に限られていることから、こうしたインターネットテレビがたいへん便利であることが分かっている。カナダ在住の離散民の一人が筆者に話したところによると、スリランカとカナダの間には12時間の時差があり、時間通りにインターネットテレビを見ることができないため、インターネットテレビの番組を録画しておき、後で好きなドラマや音楽番組、ニュースを見るとのことである。
さらに、インターネットテレビはケーブルテレビと比べると安上がりだという側面もある。英国在住の離散民の一人は筆者に対し、インターネットテレビを利用する前は、スリランカのテレビチャンネルを見るため、ケーブルテレビの受信契約を結んでいたが、料金が非常に高く、初期費用の支払いも必要だったと話した。しかし、インターネットテレビの場合は毎月のインターネット接続料以外は払う必要がない。この男性はインターネットテレビを高く評価し、オンラインで様々なチャンネルの番組をもっと多く見るのを楽しみにしているという。
テレビ局にについて見ると、スリランカには44の公認チャンネルがある。これらのテレビ局は、地上デジタルネットワーク、地上アナログネットワーク、衛星・ケーブルネットワークの地方テレビチャンネル、およびペイテレビネットワークの4つに分類される。地上デジタルネットワークは衛星伝送やケーブルを使わないテレビの方式で、送信は電波とアンテナを使って行われる。地上アナログネットワークは地上デジタルネットワークとほぼ同じである。衛星の地方テレビチャンネルは、できるだけ多くの地方テレビチャンネルがその地方のことを最大限に伝えることができるようにするために設立された。ペイテレビは契約者が視聴料を払って視聴するテレビサービスで、通常、アナログおよびデジタルのケーブル、衛星テレビがある。以下に各分類の詳細を示す。
地上デジタルネットワーク | ||||
---|---|---|---|---|
名前 | 所有 | 言語 | 設立 | |
1 | Hiru TV | 民間 | シンハラ | 2012/5/23 |
地上アナログネットワーク | ||||
名前 | 所有 | 言語 | 設立 | |
1 | Independent Television Network | 国有 | シンハラ | 1979 |
2 | Sri Lanka Rupavahini Corporation | 国有 | シンハラ | 1982 |
3 | TNL TV | 民間 | シンハラ・英 | 1993 |
4 | MTV-SPORTS | 民間 | 英 | 1992 |
5 | ETV | 民間 | 英 | 1995 |
6 | Swarnavahini | 民間 | シンハラ | 1997 |
7 | Sirasa TV | 民間 | シンハラ | 1998 |
8 | Shakthi TV | 民間 | タミル | 1998 |
9 | Channel Eye | 国有 | 英 | 2000 |
10 | Art Television | 民間 | 英 | 2003 |
11 | Derana TV | 民間 | シンハラ | 2005 |
12 | MAX-TV | 民間 | シンハラ・英 | 2007 |
13 | Nethra TV | 国有 | タミル | 2008 |
14 | Vasantham TV | 国有 | タミル | 2009 |
15 | Varnam TV | 民間 | タミル | 2009 |
16 | NTV | 国有 | 英 | 2009 |
17 | DAN Tamiloli | 民間 | タミル | 2009 |
18 | CCTV News | 民間 | 英 | 2010 |
19 | Carlton Sports Network(CSN) | 民間 | 英 | 2011 |
20 | The Buddhist TV | 民間 | シンハラ | 2011 |
衛星またはケーブルネットワークの地方テレビチャンネル | ||||
名前 | 所有 | 言語 | 設立 | |
1 | Young Asia Television | 民間 | シンハラ・タミル・英 | 1995 |
2 | Srilakvahini | 民間 | シンハラ | 2006 |
3 | Sri TV | 民間 | シンハラ | 2006 |
4 | Dhammavahini | 民間 | シンハラ | 2007 |
5 | The Buddhist | 民間 | シンハラ | 2007 |
6 | CiTiHiTz | 民間 | シンハラ | 2007 |
7 | Gospel Vision | 民間 | シンハラ・英 | 2007 |
8 | Channel C | 民間 | シンハラ | 2008 |
9 | Lakroo / Info TV | 国有 | シンハラ | 2009 |
10 | Heritage TV | 民間 | シンハラ | 2009 |
11 | Neth TV | 民間 | シンハラ | 2009 |
12 | One Sri Lanka TV | 民間 | シンハラ・英 | 2009 |
13 | Knowledge TV | 民間 | シンハラ | 2010 |
14 | Dream Music TV | 民間 | シンハラ | 2010 |
15 | Nenasa TV | 民間 | シンハラ | 2010 |
16 | One Six Channel | 民間 | シンハラ | 2011 |
17 | Swarga TV | 民間 | シンハラ・タミル・英 | 2011 |
18 | Ridee TV | 民間 | シンハラ | 2012 |
19 | Shraddha TV | 民間 | シンハラ・英 | 2012 |
ペイテレビネットワーク | ||||
名前 | 技術 | 設立 | ||
1 | Dialog TV | デジタル衛星 | 2005 | |
2 | Digital Pay TV | デジタル信号 | 2007 | |
3 | PEO TV | IPTV(ADSLおよびWiMAX) | 2008 | |
4 | Lanka Broadband Networks(LBN) | アナログ・デジタルケーブル | 2009 |
上記の表は、各テレビチャンネルの名称、所有者、使用言語、使用技術、設立年を示している。それによると、スリランカには国営と民間の2つのタイプのテレビチャンネルがあり、そのうち国営チャンネルはITNを含めて7チャンネル、民間チャンネルは32チャンネルである。次節では、スリランカのITN TVについて説明する。
3. Independent Television Network(ITN)
Independent Television Network(ITN)はスリランカではまず第一に挙げられるテレビ局である。1979年、スリランカおよび南アジアでは初のテレビ放送サービスとして設立された。ITNは、ラジオ・テレビ放送が政府の管理下に置かれていたこの地域では初の民間テレビ局であったが、1992年、国を主要株主とする株式会社に転換した。現在は、スリランカ国内の広範な視聴者層と、海外コミュニティーに向けて放送を行っている。番組はシンハラ語、タミル語、英語の3言語で放送されている。Vasantham TVはITNが運営する第2のテレビチャンネルで、タミル語でコンテンツを放送している。Prime TVはITNが運営する第3のテレビチャンネルで、英語でコンテンツを放送している。以下、ITNがインターネットで放送するいくつかの番組について説明する。
- 3.1. インターネット経由で放送される番組
ITNはインターネットを使ってシンハラ語、タミル語、英語の3言語で様々な番組の放送と同時再送信を行っている。次の表は、インターネットで放送される番組のタイプと、そのコンテンツの一部をまとめたものである。
ITNチャンネル (主としてシンハラ語で放送) 番組 コンテンツ* ニュース シンハラ語 テレビドラマ “Amaa” “Ridee-sitham” “Muthu-warusa” 映画 シンハラ語映画、ヒンズー語映画、英語映画 ドキュメンタリー “Atapattama”/世界各地を回る 教育番組 “Young Inventors”および“Pahe-danuma” 子ども娯楽番組 マンガ/アニメ シンハラ語吹き替え番組 テレビドラマ(中国語) クイズ番組 “Daintee”/スター発掘番組 宗教番組 宗教演説 政治討論 “Hathweni Peya” *二重引用符内は番組タイトル Vasantham TV (主としてタミル語で放送) 番組 コンテンツ* ニュース タミル語 テレビドラマ “Sundara Kandam” 映画 “Children’s Movies”(タミル語) ドキュメンタリー “Payanam”/国内各地を回る 教育番組 “Puzzles” 子ども娯楽番組 “Cartoon”(タミル語吹き替え) Prime TV (主として英語で放送) 番組 コンテンツ* ニュース 英語 テレビドラマ “Music Runway” “House of Rock” “Music with Bevil” 討議・討論 “The Round Table” “Ayubowan Sri Lanka” 教育・バラエティ番組 “Prime Sunset” - 3.2. 視聴者からの反応
本節では、海外の聴取者からの反応をいくつか取りあげて説明する。実際、本研究報告の筆者はインターネットテレビに対する視聴者の意見を聞くため、電話、スカイプ、電子メールでインタビューを行った。筆者はインタビューに基づいて、海外に住む多数のスリランカ人が次のような理由からスリランカのテレビチャンネルをインターネットで視聴しているという結論に達した。第一の理由は言語である。フランス在住のある離散民によると、フランスではほとんどのテレビチャンネルが理解するのが難しいフランス語で放送されており、スリランカのテレビチャンネルはこの視聴者と家族にとってたいへん役立っているという。家族はインターネットでスリランカのテレビチャンネルを視聴するのが好きで、母国語でテレビチャンネルを見るのはいつも楽しい、とこの視聴者はいう。
第二の理由は文化的な違いである。カナダ在住のある離散民によれば、カナダは固有の文化や固有の規範を見出すことが難しい多文化の国であるため、インターネットでスリランカのテレビチャンネルを見たいと思うという。スリランカのテレビチャンネルを見ることで、母国を非常に身近に感じその文化的価値を大切にすることができる、という。第三の理由はテレビ番組の違いである。日本在住のある離散民によれば、日本のテレビ番組はエンターテインメント性が強いが、スリランカのテレビチャンネルは主に家族の問題や宗教的信条、政治の問題を扱っているという。
海外在住のスリランカ人に人気のITNの番組には次のようなものがある。第一は、ITNニュースで、シンハラ語、タミル語、英語の3言語で1日に6回放送される。次はドラマ番組で、実際、ITNは真に有意義で面白いドラマを選んで放送している。その一例がテレビドラマ“Ama”で、多くの海外視聴者がこれを挙げている。第三は子ども番組で、シンハラ語に吹き替えたアニメや子ども向け映画、子ども向けのリアリティー番組などが人気を集めている。最後に、政治討論を見たい人々もいる。実際、ITNは“Hathveni-Peya”という政治討論番組を毎朝7時から放送している。番組では、政治家や政治アナリストを招き、スリランカの現在の政治情勢について話し合う。
海外在住のスリランカ人視聴者から寄せられた上記の反応は、彼らがスリランカのテレビチャンネルを、特にITNをインターネット経由で、見ることに強い関心を持っていることを示している。彼らはITNの番組のいくつかを挙げているが、ITN以外のスリランカのテレビチャンネルの番組にも言及している。これについては、第4節で詳しく説明する。 - 3.3. 将来の計画
本節は、ITNのメディア関係者との話をまとめたものである。ITNは番組を世界各地で出来る限り広く放送することを検討している。ITNは優れたテレビドラマやリアリティー番組をいくつか制作しているが、技術上の制約と経営・管理体制の不備から、インターネットですべての番組を放送できる能力はない。ITNはその放送サービスの充実を図るため、近隣諸国のテレビチャンネルと将来協力を進める計画である。また、オンラインの再送信を推進するための技術支援を日本および韓国から得るため両国との協力を考えている。さらに、このメディア関係者によれば、ITNが使っている放送設備は非常に古い(30年以上経っているものもある)という。実際、ITNはデジタル技術ではなくビデオテープを現在も使っている。ITNは将来、日本と韓国の助けを借りて技術機器をデジタルシステム向けのものに転換したいと考えている。 - 3.4. 他のテレビ局との協力
ITNはスリランカ国内および海外の多くのテレビ局と協力を進めてきた。ITNは海外からいくつかの番組の提供を受け、それをシンハラ語やタミル語に吹き替えている。同様に、ITNはいくつかの番組を無料で外国のテレビチャンネルに貸し出している。こうした協力の主な目的は様々な国のテレビ局の間で異文化間理解を推進することにある。吹き替え番組のほかに、ITNはいくつかの海外テレビ番組にシンハラ語やタミル語の字幕を付けて放送している。海外番組の吹き替えは字幕よりも高いコストがかかる。ITNが海外のテレビ局から提供を受けているそうした番組のいくつかを以下に挙げる。
子ども向け映画については、ITNは毎週末シンハラ語またはタミル語に吹き替えた英語またはヒンズー語の子ども映画を放送している。また、シンハラ語またはタミル語の字幕付き映画を放送することも時にはある。例えば、“ホーム・アローン”や“ベイビーズ・デイアウト/赤ちゃんのおでかけ”といった映画がシンハラ語の吹き替えでITNから数回放送された。同様に、ITNはヒンズー語やイラン語の映画をシンハラ語や英語の字幕付きで放送した。映画のほか、ITNは特に子ども向けのアニメをいくつかシンハラ語と英語で放送している。
ITNのあるメディア関係者からは、ITNは中国と韓国からテレビドラマの提供を受け、それを将来放送する計画であるという指摘があった。しかしスリランカ政府は2005年、もしテレビ局が海外番組を放送したければ、政府に一定額の金を払わなければならないとする新しいメディア法を制定した。例えば、外国の番組の1回分を放映するためには最低でも10万ルピーの支払いが必要である。これはテレビチャンネルのとってはかなりの出費である。テレビ局のなかには、外国のテレビ番組をもっと放送したいと考えているところもあるが、この新しい法律のため、計画を断念せざるを得ない状況にある。スリランカ政府の見解は、この新メディア法は、スリランカの芸術家に国内テレビ局での仕事を増やす機会を間接的に与えることにより、彼らを保護し育成することを目的としているというものである。しかし、これについては、スリランカ政府と国内テレビ局との間で合意が必要である。
4. 同時再送信:スリランカのテレビ局の場合
本節では、インターネットを使って番組を世界各地に放送または同時再送信しているいくつかのスリランカのテレビ局について検討する。マスメディア情報省によると、スリランカには10の主要テレビチャンネルがある。すなわち、Independent Television Network(ITN)、Sri Lanka Rupavahini Corporation(SLRPC)、Swarnavahini、Sirasa TV、Hiru TV、Derana TV、Siyatha TV、Max TV、Daham Gagana TV、CSN TV、TNL TV、およびVasantham TVである。以下では、上記テレビ局のうちのいくつかと、それらのテレビ局がインターネット経由で同時再送信している番組について説明する。
- Sri Lanka Rupavahini Corporation(SLRPC)
Sri Lanka Rupavahini Corporation(SLRPC)は、スリランカの国営テレビネットワークで、シンハラ語、タミル語、英語の3言語で番組を制作・放送している。SLPRCがインターネットで同時再送信している番組にはニュース、ドラマ、教育番組などがある。特に5~10年生を対象とする同局の教育番組は海外の多くの視聴者に好評であった。カナダのある視聴者が筆者に話したところによると、この教育番組はうまく構成されていて、子どもたちがスリランカとその教育制度を詳しく知ることができるという。 - Swarnavahini
Swarnavahiniは1997年に設立されたスリランカの民間テレビ局で、ニュースとエンターテインメントの分野で有数のテレビチャンネルである。同局が主要なテーマとして掲げているのは“Sri Lankeeya Abhimanaya”で、これは「スリランカの誇り」を意味する。料理番組“Rasasaraniya”、トークショー“Coffee with Lahiru”、地域支援番組“Janasarana”、午前8時と正午の生のニュース番組など多数の人気番組を持っている。Swarnavahiniのニュース放送は海外でも良く知られていと伝えられる。シンガポール在住のある視聴者は筆者に、Swarnavahiniのニュース放送はスリランカの他のテレビチャンネルと比べて内容とテーマにおいてきわめてユニークだと話したが、実際、多様な視聴者にとって理解しやすいものになっている。 - Sirasa TV
Sirasa TVはスリランカの地上アナログテレビネットワークで、そのラジオネットワークであるSirasa FMと同様に、1998年に設立された。Sirasa TVを保有しているのはCapital Maharaja OrganizationとGregson Holdings Ltd.の2社で、シンハラ語のチャンネルである。PAL 方式とアナログピクチャー方式でビデオを放送し、“Sirasa Super Star”(歌唱コンテスト)や “Sattana”(政治討論)、“Punchi Panch”(子ども向け番組)など多くのの人気番組を持っている。特に“Sirasa Super Star”は海外の視聴者の間で高い人気があると伝えられている。日本在住のある視聴者が筆者に話したところによると、この視聴者は毎週末インターネットでこの番組を見ているという。 - Hiru TV
Hiru TVはスリランカの民間テレビチャンネル。国内最初で唯一のデジタル対応可能なHDテレビチャンネルで、開局初日から国全体をカバーする放送を提供することによってスリランカのテレビの歴史に新たなページを加えた。Hiru TVはHD技術と質の高い番組の組み合わせをテレビ視聴者に提供し、他局の追随を許さない、数多くのエンターテインメント番組の選択肢を提供しており、視聴者は多様な番組が楽しめる。インターネットで、ニュースやドラマ、クイズ番組などを同時再送信している。Hiruのドラマは海外の視聴者に非常に人気があると伝えられており、英国在住のある視聴者は筆者に、毎晩Hiruのドラマを見ていると話した。 - Derana TV
Derana TVはスリランカの民間テレビ局。ドラマ、リアリティー番組、子ども向け番組、音楽、バラエティーショーなど幅広いエンターテインメント番組を放送している。同局のリアリティー番組は海外の視聴者に大変人気があると伝えられている。ドバイ在住のある視聴者は、Deranaのリアリティーショーは決して見逃さない、と筆者に話した。また、Derana TVはいつも素晴らしいリアリティーショーをインターネット経由で放送している、とも述べた。 - TNL TV
TNLはスリランカの民間テレビ局で、ニュース、クイズ番組、政治討論、その他の番組をインターネットで同時再送信している。TNLが毎週火曜日午後10時から同時再送信する政治討論は非常に多くの海外の視聴者に見られていると伝えられる。実際、スリランカのテレビ局で現在の政府を厳しく批判するのはTNLだけである。 - Max TV
Max TVはスリランカのアナログテレビ局。1日24時間番組を放送しており、2007年に開局した。番組は英語、タミル語、シンハラ語で放送。Max TVは音楽番組で非常に人気があると伝えられ、音楽番組を楽しむためMax TVを見る海外の視聴者も非常に多い。カナダ在住のある視聴者は、Max TVは音楽のコレクションが豊富で、毎日新しい歌を放送している、と筆者に話した。 - Buddhist TV
Buddhist TVはスリランカで最初の仏教徒テレビチャンネルで、スリランカDTH(Direct to Home)衛星テレビサービス、Dialog TV、インターネットで視聴できる。このチャンネルの狙いは、宗教的・文化的な事柄に関係する番組を英語、シンハラ語、タミル語の3言語で放送することである。多くの海外在住の視聴者は、仏教に関する知識を高めるためBuddhist TVを見る、と伝えられている。英国在住のある視聴者は、Buddhist TVを見ると、母国が大変身近に感じられると筆者に話している。 - CSN TV
Carlton Sports Network(CSN)は2011年に設立された。このチャンネルの目的はスポーツと文化に関連するニュースを放送することである。CSN TVはDialogue TV、SLT IPTVサービス、インターネットで視聴可能である。視聴者の多くはクリケットの試合を見るためだけにCSNを見ると伝えられている。実際、クリケットはスリランカで最も人気のあるスポーツである。イタリア在住のある視聴者は、2011年以前はクリケットの試合をケーブルテレビで見ていたが、イタリアでは料金が非常に高い。しかし、CSNが見られるようになってからは、クリケットの試合をインターネット経由でCSNの放送で見るようになった、と筆者に話した。
5. スリランカにおける海外テレビ番組
本節では、日本、韓国、中国、インドの4カ国で制作されたテレビドラマのいくつかを選び、これらのテレビドラマがどのようにしてスリランカに提供され、それぞれのテレビチャンネルで放送されるようになったかを説明する。
- 5.1. 日本のテレビ番組
- Suzuran (「すずらん」- 幸福の再来)
Sri Lanka Rupavahini Corporation(SLRPC)は ‘Suzuran’ (「すずらん」- 幸福の再来)という新しい日本のテレビドラマを放送した。この連続ドラマはシンハラ語に吹き替えられ、在スリランカ日本国大使館の協力で放映された。SLRPCでは、「すずらん」をタミル語の字幕付きで同局の “Rupavahini Eye”チャンネルでタミル語視聴者のためにその後間もなく放映する計画であった。「すずらん」は萌という名前の女性の生涯を描いたドラマで、1920~90年の日本社会を背景としている。物語は自分の一生の夢である自己の確立を目指す萌が経験する山あり谷ありの生活を描く。最初はNHKによって1999年に日本で放映され、日本の人々の間で高い人気を集めた。日本のテレビコンテンツの海外普及を図る計画を進めている国際交流基金が、世界中の国際的なテレビ局の多数の提案の中から、Rupavahiniを選び、この人気ドラマの放映が実現した。Rupavahiniのメディア担当者によると、「すずらん」の1回目の放送は世界各地で100万人を超える人が見たという。 - Oshin (「おしん」- 極貧から大金持ちに)
物語は20世紀初期の日本の貧しい農家に生まれた勇気ある少女(おしん)を中心に展開する。幼いおしんが人生のさまざまな難題に力強く立ち向かう様子や、若い頃のおしんが見せるいちずな決意は子どもにも親にも刺激を与える。「おしん」が最初にスリランカに紹介されたのは1989年で、タミル語に吹き替えられ1年余にわたってSLRPCで放映された。SLRPCはその立ち上げ時から番組を日本と共同使用できる特別な権利を持っていた。このドラマの人気が高かったため、スリランカには自分の子どもに“Oshin”という名前を付ける人もいたと伝えられている。
- Suzuran (「すずらん」- 幸福の再来)
- 5.2. 韓国のテレビ番組
- “Sujatha Diyani”(Daughter Sujatha)は、最近スリランカで大変人気のあるドラマで、月曜日から金曜日までSLPRCで放映されている。韓国ドラマをシンハラ語に吹き替えたもので、主人公の“Changumi”(チャングム)はスリランカの視聴者の間で非常に有名になった。このドラマは孤児の料理人がやがて女性として初めて王の主治医にまで上り詰める物語。女性が社会で影響力をほとんど持たなかった時代に、若い見習い料理人のチャングムは、国王の様々な病気を治療するため、韓国の料理と医学の極意を身につけようと懸命に努力する。朝鮮王朝で最初の女性宮廷医官となったチャングムの実話に基づくドラマで、主題はチャングムの粘り強さと、韓国の宮廷料理と伝統医学を含む伝統的な韓国文化の描写である。実際、“Sujatha Diyani”はスリランカの若い女性の間で大変な人気を呼んだ。
- 5.3. 中国のテレビ番組
- “Gillian Chun Ding Yao”は中国の連続テレビドラマで、シンハラ語に吹き替えられ、“Mayawarunge Lokaya”(The Holy Pearl:「霊珠」)のタイトルで放送された。Gillian Chun (ジリアン・チョン)演じるDing Yaoはふつうの大学生だが、“Nine-Star Wheel”(「九星輪」)を誤って作動させたため過去にタイムスリップする。ChunはXian Yaoの前世と南越国の大巫女の役も演じる。Purba Rygal(プー・バージャー)が人間の血を持ち、半分龍の姿をした悪魔のWen Tianを演じる。Wen Tianは20年にわたって古い墓に監禁・投獄され、Ding Yaoによって自由の身になる。この番組はスリランカの子どもたちに広く知られている。子どもたちの中には、Gillian Chun の演じるDing Yaoのキャラクターが好きで、ニックネームにしているものもいると伝えられている。
- 5.4. インドのテレビ番組
- スリランカのテレビ視聴者は現在、これまで見慣れた伝統的なドラマからインドで制作されたドラマの吹き替え版への転換が進んでいるのを目の当たりにしている。数年前は、一般の人々は夕方家に帰り、スリランカを舞台にした国内制作ドラマを見たものだった。ところが、“Shanti”が紹介されたのをきっかけにスリランカのドラマ産業の変容が始まり、それ以降、インドドラマの吹き替え版が平日に放映されるようになった。ここでは、“Swapna”と“Shanti”の2つのインド製テレビドラマをとり上げる。
- Diya Aur Bathi Hum(Swapna)
“Diya Aur Bathi Hum”はヒンズー語の連続テレビドラマで、シンハラ語に吹き替えられ“Swapna”というタイトルでSirasa TVが放映している。ドラマはインド警察(IPS)の警察官になる夢を抱く女性 Sandhya(Swapna)の苦闘を描いたもので、彼女は中流階級の価値観に閉じ込められた存在である自分を取り巻く障壁を打ち破りたいと思う。物語にはたたき上げの男 Soorajも登場する。彼は自宅の近くで有名な菓子店を営む。SoorajとSandhya(Swapna)は厳しい環境の中で結婚する。SwapnaはSoorajと一緒に住むが、息子の妻が警察官になるのを認めない、厳しい姑とのあつれきに苦しむ。物語は、どうやって夫が妻の力になり、妻が夢をかなえるのを手助けするかを示している。このドラマは、嫁と姑との間の問題を抱える多くのスリランカの人々にとって良い手本となっている。 - Ek Aurat Ki Kahani(Shanti)
“Ek Aurat Ki Kahani”は、ヒンズー語の連続テレビドラマで、1997年に“Shanti”のタイトルでシンハラ語に吹き替えられ、Sirasa TV で放映された。ドラマはインド最大の映画製作会社に勤め、友人関係にあるKamesh MahadevanとRaji Singhの話から始まる。二人はShantiマンションに住む。登場人物はいずれも過去を持ち何かを隠しており、ジャーナリスト志望のShanti がKameshとRajの伝記を執筆する過程で、すべてが明らかになって行く。このドラマの主な狙いは、ある建設工事の間に一人の貧しい女性が二人の金持ちにどのように不当な扱いを受けたかを検証することにあり、インドでもスリランカでも大変な人気を呼んだ。実際、こうした状況に苦しむ人々にとって良い手本となっている。
5. 結論
今回の調査の結論としては、ITNはインターネットを使ってニュース、ドラマ、スポーツ、娯楽など番組の一部をオンラインおよび録画版として放送しているが、技術機器の不足および管理運営システムの不備により、全番組をインターネット経由で放送することは不可能な状態にある。スリランカの他のテレビ局と比較すると、ITNの視聴者数は国内および海外で約300万人と最も多い。実際、視聴者はインターネットでの番組提供を強く求めている。
海外テレビ番組については、Sri Lanka Rupavahini Corporation(SLRPC)、Independent Television Network(ITN)、Sirasa TVなどのテレビ局がドラマ、アニメ、アドベンチャーといった外国で制作された番組を放送しているものの、海外テレビ番組に課金する新しいメディア法の存在により、海外番組の放送に消極的になっている。さらに、海外番組のシンハラ語やタミル語への吹き替えはコストがかかる。簡単に言えば、海外テレビ番組の放送には、国内制作番組と比べて、資金面での制約がある。
参考資料
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http://www.lankawebnet.info/tv/live/vasantham-tv
※リンク先は掲載時のものです。現在は存在しないか変更されている可能性があります。
脚注
- BBCのiPlayerは、BBCがそれまでのRealPlayerベースのコンテンツおよびその他のストリーミング用ビデオクリップ・コンテンツにすべてのテレビ番組を含めることができるように開発したインターネット利用のテレビ・ラジオ配信サービス。*1
- P2Pファイル共有とは、ピアツーピア(Peer to Peer)ネットワーク技術を使ってデジタル文書やコンピューターファイルを通信・共有すること。利用者は、P2Pネットワークに接続されている他のコンピューターを検索して希望するコンテンツを探し出す特別なP2Pソフトウェアプログラムを使って、書籍、音楽、映画、ゲームなどのメディアファイルにアクセスすることができる。*2
- スリランカの場合、Independent Television Network(ITN)、Sri Lanka Rupavahini Corporationなど大部分のテレビ局がニュースをオンラインで放送しているが、内外のドラマや音楽番組は録画版がアップロードされる。大部分のドラマと音楽番組は放送終了後5時間以内に各テレビチャンネルのウェブサイトにアップロードされているとされる。*3
- 2011年および2012年の国勢調査報告によると、スリランカの人口は2,150万人であり、その7分の1にあたる300万人が海外に居住している。*4
Mohamed Shareef ASEES (PhD)
スリランカ、コロンボ大学政治学・公共政策学部(客員)講師
・博士号:紛争研究と平和構築/同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科
・修士号:国際協力研究/名古屋大学大学院国際開発研究科
・学士号:政治学(優等学位)/スリランカ、ペラデニヤ大学教養学部