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JAMCO オンライン国際シンポジウム

第22回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2014年3月~12月

アジア太平洋地域のテレビ局とインターネット

読者からのコメント(5)
報告書「タイにおけるテレビ局によるインターネット利用」について

Supanee Nitsmer

Sasiphan Bilmanoch執筆のタイからの報告書「タイにおけるテレビ局によるインターネット利用」についての私の意見を述べたい。報告書でBilmanochはタイにおける現在のテレビ放送(アナログ地上テレビ、デジタル地上テレビ、衛星テレビ、IPテレビ、およびモバイルテレビ)の状況と今後の動向をはっきりと示している。無料テレビ局が利用するインターネットの進化とIPテレビ局の成長について説明し、具体的な例としてModernine TV(チャンネル9)とVoice TVの2つを挙げている。また、テレビ局によるインターネット利用の拡大傾向とIPテレビの成長を予測している。

インターネットは生活様式に大きな変化をもたらす人工物である。ICT(情報通信技術)の統合とその世界的連結により、世界は一つの村のような状態になる。地球上の人々・視聴者はいつでもどこでも情報にアクセスすることが可能になる。

インターネット技術、特に検索エンジンが広く普及して利用されコミュニケーションの一般的な手段になると、視聴者は容易かつ自分の都合に合わせて情報の送り手にも受け手にもなることができ、指先を使って情報を共有、送信、受信、保存、検索し、ある場所から別の場所へ伝送できる。その具体的な好例がYouTubeの広範な普及である。その結果、タイにおけるテレビ局によるインターネット利用は急激に増える傾向にある。

Bilmanochの報告によれば、インターネット利用者の行動様式をみると、2001年には週18時間だった利用時間が2013年には週32時間に増えたという。メディア別の利用頻度をみると、コンピューターが最も高く、続いてテレビ、ラジオ、印刷物の順になっている。しかし、インターネットにアクセスが可能な人の数は、主として情報技術インフラ上の制約とインターネット利用料が高いことから、それほど増大していない。タイの電気通信システムの整備促進と拡大を図るため、政府の国家放送電気通信委員会(National Broadcasting and Telecommunications Commission: NBTC)はこれまでに3つの基本計画を策定している。すなわち、(1)周波数管理基本計画(2012)、(2)ラジオ・テレビ放送基本計画(2012‐2016)、および(3)電気通信事業基本計画(2012‐2016)である。これらの基本計画の主要な目的の一つはアナログ地上テレビシステムを全面的にデジタルシステムに変換することである。その重要な戦略の一つは大都市の世帯の80%以上が5年以内にデジタルの音声放送およびテレビ放送を受信できるようにすることである。これまで、NBTCはデジタル放送信号受信装置(セットトップボックス)の一般家庭への配布に取り組んでいるが、すべての家庭をカバーすることの難しさや受信装置の効率が問題になっている。

さらに、NBTCはこの変革を進めるためデジタルテレビ用周波数の入札を行い、24の全国向けデジタルテレビ放送チャンネルのライセンスを発行した。その内訳は、総合コンテンツ提供チャンネルが14、映画・ニュース・ドキュメンタリー用チャンネルが7、子ども・若者・家庭向けチャンネルが3となっている(第1次ラジオ・テレビ放送基本計画による)。

ここで新たに関心を引くのは倫理の問題である。インターネットを使うと、コンテンツの再放送、再送信、共有が容易にできることになる。倫理の原則はきわめて重要である。コンテンツの利用または再利用が公衆の利益、慈善や学術の活動に役立つものであれば、著作権者の許可を得て無料とすべきである(著作権侵害としない)。商業目的の場合は、利用者は著作権料の支払いを法的に義務付けられる。

“Change is ON THE AIR” をテーマに香港で開催された2013年度アジアケーブル衛星放送協会(CASBAA)会議で、テレビ番組およびインターネットの専門家が興味深い見解を述べている。例えば、以下のようなものである。

Peter Giakoumelos*1(VP, Advertising Sales, Discovery Network Asia Pacific)は、コンテンツ配信を少数のプラットホームに限定しないよう助言し、「今日のメディア状況は多様で、再定義が行われている。これまで私たちはいろいろやってきたが、それは人の好奇心を満たし、人を楽しませ引き込み啓発する最高品質のコンテンツを提供することだった」と述べている。

Brian Lau*2(VP, Content & Communication, FOX International Channels)は、YouTubeによる影響を認めて、「YouTubeなどの大量の違法コンテンツによりオリジナルコンテンツの収益化が困難になっている」と述べるとともに、「視聴者はコンテンツを評価する教育を受ける必要がある…」としている。

Jeremy Carr*3(VP, Digital & Syndication, Turner International Asia)は、従来からある放送局の多くはもはやYouTubeを脅威とはとらえていないとして、「手に入るものは何でも試してみて、視聴者とコンテンツ、そして市場の力学を理解しなければならない」と述べている。

タイのテレビ局によるインターネット利用はすで に始まっている。テレビ局がインターネット技術の活用を進めることは確実である。しかしタイの場合、教育、職業、所得、インターネットへアクセスの水準において一般市民の間に格差があり、過渡期においてはそうした格差の縮小には時間がかかる。

Bilmanochが報告書で結論づけたように、関連業界が拡大する中で、タイのテレビ局によるインターネットメディアの利用がどの程度の規模になるかははっきりしない。現在の視聴者意識の低さ、選択肢の入手可能性の増加、急速なモバイル機器の取り込みを合わせて考えると、タイではインターネットテレビの利用が大幅に拡大する可能性がある。しかし、インフラ面での制約と高い利用コストが中期的な課題となっている。



参考文献

Bilmanoch, S (2014) The Utilization of the Internet by TV Stations in Thailand. The 22nd JAMCO Online International Symposium. (「タイにおけるテレビ局によるインターネット利用」、第22回JAMCOオンライン国際シンポジウム)

*1 *2 *3 CASBAA Convention2013, entitled ‘Change is ON THE AIR’, http://www.casbaa.com/events/eventscalendar/details/370-covention-2013 (2013年CASBAA大会、テーマは“Change is ON THE AIR”)(2014年11月21日にアクセス)

The Announcement issued by NBCT on the 6th January 2014 entitled, the Award of Frequency Tender on TV Digital Broadcasting for National Business Services. (「入札に基づく全国向けデジタルテレビ放送周波数の割当」に関する2014年1月6日のNBCT発表)

The National Broadcasting and Telecommunications Commission, Thailand, The First Radio Frequency Management Master Plan (2012) (タイ国家放送電気通信委員会「第1次周波数管理基本計画(2012)」)

The National Broadcasting and Telecommunications Commission, Thailand, The First Telecommunications Master Plan (2012-2016) (タイ国家放送電気通信委員会「第1次電気通信基本計画(2012-2016)」)

The National Broadcasting and Telecommunications Commission, Thailand, The First Broadcasting Master Plan (2012-2016) (タイ国家放送電気通信委員会「第1次放送基本計画(2012-2016)」)

Supanee Nitsmer

Assistant Professor, Faculty of Mass Communication Ramkhamhaeng University, Bangkok, Thailand
(タイ・バンコック ラムカムヘン大学マスコミュニケーション学部助教授)

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