なぜ、テレビドラマを見るのがこんなに楽しいのだろうか、こんなにもエキサイティングなのだろうか。それは、人がテレビドラマの物語の世界の中に入って、旅をすることができるからだと思います。物語によって、人は、空間や時間の旅ばかりでなく、様々な人々の心の中への旅ができるからなのだと私は思っています。ところで、これは、テレビドラマの文化的な、あるいは生活的な側面だと言えます。趣味的側面と言ってもいいでしょう。
　もうひとつの側面は、そうした魅力が、今度は商品価値となって、流通の対象物となったテレビドラマとしての捉え方です。このふたつの側面は、テレビドラマというひとつのコインの表裏をなすものだといってもいいと思います。「ドラマ映像の国際交流」という今回の課題は、このコインのもうひとつの面、そうした、商品価値を持つテレビドラマが、東アジアを中心にコンテンツ・ビジネスの対象として、どのように国際交流しているか、ということについて考える絶好の機会となっているといえます。
　今まで、文化交流的な視野で捉えることが多かった、テレビドラマの国際流通の問題を、ビジネスも含めたより社会的な興味から掘り下げるという、今回のテーマ設定は、現在日本の官民で取り組みつつあるコンテンツの流通の振興という観点からも時宜に適ったものといえると考えます。そして、モデレーターの音教授の見事な整理の元に、日本のテレビ業界の特性や日本のドラマ制作の特性と国際交流の可能性について、地方からの国際発信の経験からの提言、また、韓流のアジアにおける流通と直近の状況についての報告をいただきました。そして、それらに対するコメントとして、中国からのとらえ方や、アメリカのメディア事情についてのインプットや、政府の関わりやインターネットの発達による影響についての整理をしていただきました。また、一般の聴衆の方々からのご意見もいただきました。
　今回の議論が、テレビドラマの国際交流の社会的な、経済的な側面について語ることによって、実はコインのもうひとつの側面である、テレビドラマの文化交流的な価値について、それぞれの固有の文化・社会に相対的な目を向けながら、更に立体的に考え直すよい機会になったのではないか、と思っています。
　ここに、ご参加いただいた報告者や討議者、そして当サイトをご覧いただいた方々に心から感謝いたします。最後になりますが、共催者の国際交流基金、助成をいただいた放送文化基金、後援いただいた総務省、外務省、NHK、日本民間放送連盟の関係各位に対しまして、御礼申し上げます。