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JAMCO オンライン国際シンポジウム

第18回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2009年1月16日~2月28日

アジア諸国の公共放送

[報告(2)] タイにおける公共放送サービス

Supanee Nitsmer
ラムカムヘン大学(バンコク)マスコミ学部 助教授

1.設立

タイでは、社会的問題の多くが不適切なテレビ番組によって影響されたものであることがさまざまな方面から指摘され、公共のテレビ番組サービスの設立に向けた提案が数多くなされていた。こうして浮上してきたのが以下の3つの案である。

  • 1-1. 年間20億バーツの政府予算をもって新しいテレビ局を創設する。
  • 1-2. 総理府の管轄下にあるチャンネル11を改変し(現在の名称はNBT- National Broadcasting Services of Thailand)、公共放送局とする。
  • 1-3. 民間チャンネルであるTITV (Thailand Independent Television)1を政府が取得して公共放送局とする。

タイ政府はTITVをThai PBS (Thai Public Broadcasting Service) という名称の公共放送チャンネルへと改変する決定をした。この再編は2008年に制定されたタイ公共放送組織法(Thai Public Broadcasting Organization Act)に従って行われた。このために内閣は設立委員会を任命した。この委員会は5名からなり、TITVを管理して、その再編を監督する。Thai PBSはTITVの資産と負債、周波数を継承する。

2. タイにおける放送メディアの現状

2.1 無料テレビ
1952年、総理府のもとにThai Television Company Limited (チャンネル4)が設立された。これは東南アジアで最初のテレビ局であった。しかし、その後Thai Television Companyは財政的な危機に陥り、1977年の国王指令によってMCOT (Mass Communication Organization of Thailand) へと再編され、チャネル9となった。さらに2004年、チャンネル9は1999年の国営企業法(State Enterprise Corporatization Act)に基づいて民営化されてMCOT PCL. (Mass Communication Organization of Thailand, Public Company Limited) となり、タイ証券取引所(SET)に上場された。

チャネル9は知識ベースのチャンネルとなるべく、最新のニュース、ドキュメンタリー、娯楽番組を制作している。しかし、チャンネル9は利益を目的とする公共企業であることから、一方で商業的利益を追求しつつ、他方で公共サービスを提供するという立場に置かれている。チャンネル9と(次に説明する)チャンネル3は地上放送局であり、タイ全土に32の中継局を共有している。

チャンネル3は1970年に創設され、チャンネル9によって管理されている。チャネル3はエンターテインメントを目的とする民間の会社であるBangkok Entertainment Company Limitedにレンタルされ、商業的な内容の番組を放映している。

チャンネル5は1957年に創設され、31の中継局を持つ。チャンネル5はタイ国軍によって所有、運営されているが、放映時間はいくつかの営利企業に売却されている。

1967年に創設されたチャンネル7は、タイ国軍に所有され、Bangkok Broadcasting & Television Company Limitedにレンタルされている。さまざまな地方に地上放送局を持つチャンネル7は、近年施設を拡張し、中継局を35に増やしている。

1985年1月15日、タイ政府はチャンネル11のタイ・テレビ(Television of Thailand)の設立を承認した。このチャンネルは教育番組や国の公共キャンペーンを中心とし、コマーシャルは放映しない。こうした明確な目的のもと、このテレビ局は国内外の数多くの組織から支援されている。日本政府からの支援だけでも、建物や設備を中心に20億円になる2。現政府(2008年)のもと、チャンネル11は32の中継局を持ち、NBT(National Broadcasting Services of Thailand) という名称に変更された。放映時間の大部分は民間会社にリースされている。
Thai PBSはタイにおける最初の公共放送局であり、2008年1月14年に正式にスタートした。PBSは40の中継局を持つ。

2.2 加入テレビ
加入テレビの放映にはケーブルや光ファイバだけでなく、必要に応じて衛星やIPTV (Internet Protocol TV) も使用される。大手のTrue Visions (前身はUnited Broadcasting Corporation Public Company Limited: UBC) は、タイ王国の各主要都市で加入者にさまざまなサービスを提供している。加入者はおよそ520,000人になる。True Visionsはタイ・マスコミュニケーション組織(Mass Communication Organization of Thailand)から25年契約で建設・譲渡・運営(build-transfer-operate:BTO)権を譲り受けて運営されている。この契約は2014年9月に期限切れになる。このほか、各地方で加入テレビを運営している会社は約520社になる。タイにおけるこの種のテレビの加入者は150万人から200万人と推定される3。

2.3 衛星テレビ
衛星経由で放送しているテレビ局はタイにはASTV (Asia Satellite TV)、DMC (Dhamma Media Channel)、TGN (Thai TV Global Network) など数多くある。衛星信号の受信は無料であるが、受信のためには衛星放送受信アンテナを設置する必要がある。アンテナの価格は平均で6,000-30,000バーツとなっている。 タイの平均的世帯の年間収入は180,000バーツだから、衛星チャンネルを直接に受信できる世帯はそう多くない。ケーブルテレビの事業者の中には、衛星放送を受信してユーザーに配信しているケースもある。

2.4 IPTV
IPTV (Internet Protocol Television) は画像、音声、データを1日24時間インタラクティブに伝送するマルチメディアの一形式である。IPTVはオンデマンドのテレビであり、近い将来に広く普及するものと見られる。

2.5 ラジオ局
タイには524のラジオ局がある4。これらのラジオ局は政府機関や国有企業(SOE)によって管理または認可されている。三大ラジオ・ネットワークは(1) NBTが管理するラジオ・タイランド、(2) MCOTラジオ・ネットワーク、 (3) 軍のラジオ・ネットワークである。ほとんどのラジオ局は2年間の認可のもとに商業目的で運営されている。これらのラジオ局のほかに、タイ全土に約3,500のコミュニティ・ラジオ局がある5。タイ電気通信委員会(National Telecommunications Commission)の規則により、コミュニティ・ラジオ局の放送範囲は半径15 キロに限られる。したがって受信可能な地域はそれぞれのラジオ局の周辺に限られ、アンテナが乱立して相互に干渉しあうことはないはずである。しかし、実際には干渉によるノイズが発生している。

カシコン銀行研究所(Kasikornthai Bank Research Institute)6は2005年にラジオ放送事業の規模を73億5000万バーツと推定した。これは前年度比5%のアップである。

この業界は競争が激しいこともあり、ラジオ局の多くは娯楽番組に比重をかけるともに、間接的な(隠された形の)広告を流し、視聴率と収益の上昇に努めている。ラジオ信号/周波数の干渉がひどくなったことを受け、2004年10月1日には、2000年の「ラジオ・テレビ放送および電気通信サービスへの周波数割当と規制のための組織」法(Organization of Allocating Frequency and Regulating Radio and TV Broadcasting and Telecommunications Services Act)に基づいてタイ電気通信委員会(National Telecommunications Commission:NTC)が設立された7。それ以降、電気通信委員会は上述の法律に従ってタイの電気通信規制当局としてその権限をフルに発揮し、電波周波数の割当や音声放送、テレビ放送、電気通信サービスの監督にあたっている。
NTC(タイ電気通信委員会)が設立されてから4年、ラジオ局やテレビ局は従来通り事業を展開している。法律に基づきNTCは電波周波数の割当を変更し、放送業界を適切なやり方で規制する権限を持っている。放送業は利益の大きい事業であり、認可権限は依然として上述の政府機関や国有企業の手に握られているため、既存の事業者はできる限り長く利権を維持しようと努めている。しかし、新しいテクノロジーの到来とともに、多くの新しい事業者が業界に参入し、新しいラジオ局やテレビ局が次々と開設されている。グローバルな動きに対応してタイのラジオ、テレビ、電気通信事業を効果的に改革するうえでNTCに求められるのは、古くからの問題を一掃しつつ、新しい課題に挑戦することである。

2.6 新聞
印刷メディアは主として民間企業によって所有、運営されている。新聞は独立性が高く、ほとんどが民間の手による。バンコクには35紙の新聞があり、さらに55のオンライン紙がある。よく知られた英字新聞としてはBangkok PostとThe Nationがある。タイ語の新聞として人気があるのはThairathとMatichonである。タイのどの地方でも1つないし2つの地方紙がある。

3.Thai PBSの現状

現在、タイには6つの無料テレビ局が存在する*。有力な4つのテレビ局は商業ベースの放送を提供している。1局は政府の広報番組を流している。最も新しいのはThai PBSである。
*タイのテレビ局は現在のところ次のとおり。
テレビチャンネル 3: Bangkok Entertainment Company Limited
テレビチャンネル 5: Royal Thai Army Television
テレビチャンネル7: Bangkok Broadcasting & Television Company Limited
テレビチャンネル9: Mass Communication Organization of Thailand Public Company Limited
テレビチャンネル 11(NBT): National Broadcasting Services of Thailand
Thai PBS: Thai Public Broadcasting Service Organization

3.1 定義
公共放送サービス(PSB:Public Service Broadcasting)は市民の「民主的」参加を促すうえで最も重要な手段となる。しかし、PSBのコンセプトとアイデアはよく理解されているとはいえず、誤解されているケースさえある。

国際ジャーナリスト連合(International Federation of Journalists)のAidan White8は「公共放送サービスの単一のモデルは存在しないが、その価値は誰もが信じている」と述べている。

-PSBは人々にかかわる。PSBは社会の少数グループを含む全国民に番組を提供する。商業ベースでは制作されないような番組が提供されることも少なくない。PSBは責任ある透明なマネジメントを通じて運営され、公的資金によって支援される。 -PSBはあらゆる形式のメディアを通じて展開され、品質、信頼性、独立性にかかわる。PSBは教育、ニュース、情報、文化、娯楽など分野を問わず広範な意見を報道する。どの番組も倫理的でプロフェッショナルなものでなければならず、市民のニーズや価値を尊重する内容となっていなければならない。
-PSBは職場における公平性、社会正義、ジャーナリスト(およびマスコミで働くすべての人々)の保護に向けた標準の設定にかかわる。 タイはPSBのモデルをBBC (British Broadcasting Corporation)やNHK (Nippon Hoso Kyokai/日本放送協会) に求め、タイ社会に適したPSBモデルを構築した。

Somchai Suwanbun9によれば、BBCは単なる放送組織にとどまらず、ライターやアーチストを養成する文化施設であり、さらには放送による教室、国の博物館、危機の際の信頼拠点でもある。公共の安全が脅かされたときにはBBCは議論のフォーラムとなり、事実を市民に伝える。また知的財産や文化財を輸出するためのプロデューサーともなる。最近ではBBCはデジタル時代に向けて英国社会を引っ張る「機関車」の役割をはたしている。

タイの場合、タイ公共放送サービス組織法(Thai PBS Organization Act)制定の理由となった以下の項目にPSBの意味を求めることができるだろう10 。

  • 全国で享受できる高い品質の放送番組を制作するうえでのリーダーとなる。
  • 中立の立場から事実に基づくニュースを提供する。
  • 世界の変化に対応してタイ社会のあらゆる分野で人々の学習体験を高める。
  • タイの生活の質を高める。
  • 知識、タイの文化、伝統の普及に向けたリーダーとなり、タイのユニークさ、国、言語、文化、地域性に対する誇りを育てる。
  • 高品質でクリエーティブなテレビ番組を制作するために、プロデューサーの独立性を奨励し支援する。


3.2 ステータス
Thai PBSは非商業ベースのチャンネルであり、補助金を受け取る資格がある。現在のところ、毎年の補助金の額は酒とたばこから徴収された税金の1.5%で、20億バーツを超えない範囲となっている。Thai PBSは寄付金やブランドの使用料からも収入を得ているが、政治や企業の影響を受けてはならないことになっている。

3.3 Thai PBSの使命
タイ公共放送サービス組織法(Thai PBS Organization Act)11に従い、Thai PBSは以下を主要な使命とする。
(1) 社会的発展を促進し、タイの生活の質とモラルを高めるためのラジオ番組とテレビ番組を放送する。
(2) 政治的意見や商業的利益にとらわれない高い品質のニュース、教育、娯楽番組をバランスよく適切に制作する。
(3) 情報公開の自由を促進し、人々が情報に平等にアクセスできるような民主的な社会の建設を促す。
(4) Thai PBSの方向性を決定する際に、人々が直接または間接に参加できるよう努める。
(5) 公共の活動を支援する。

4. Thai PBSの組織とサービス

4.1 委員会
タイ公共放送サービス組織法に基づき12、タイ政府は選別委員会を創設した13。選別委員会の任務はThai PBSポリシー委員会を創設し、そのメンバーを選別することである。ポリシー委員会は9人のメンバーからなる。そのうち4人は公共サービスの専門家であり、民主化促進、コミュニティ(地域)開発、青少年の育成と保護、身体障害者の権利促進の分野の活動家から選別される。メンバーの3人は組織マネジメントの専門家から、残りの2人はマスコミの専門家からそれぞれ選別される。初代のThai PBSポリシー委員会である現在の委員会のメンバーは、各種の組織や機関から推薦された候補者から選別された。任期は4年である。2年ごとにくじ引きによって4人のメンバーの任期が終了する。任期が終了したメンバーも新しいメンバーが決まるまでは従来どおりの任務を遂行する。
ポリシー委員会の任務は以下のとおり。

(1) 組織の一般的なポリシーを策定する。

(2) 執行役員会、各役員、スタッフが外部から干渉されないようにする。

(3) 実行計画と放送スケジュールを討議する。

(4) 組織の予算を討議する。

(5) 番組開発のためのリサーチを促進する。

(6) 組織の責任を明確にする。

(7) 財務、予算、資産、人事などに関する管理規則を制定する。

(8) 執行役員を選別する。

(9) 各役員の任命と解任。

(10) 執行役員の給与と各種手当てを決定する。

(11) 苦情を受け付けるための小委員会を設ける。

(12) 年間レポートを作成して内閣と議会に提出し、公衆に情報を伝える。

ポリシー委員会は執行役員会の行動とパフォーマンスを監督する。執行役員会は会長、副会長、4人の役員から構成される。役員会のメンバーはマスコミ、経営、社会的文化的な問題のエキスパートであるか、司法の分野での経験が深い。各メンバーはポリシー委員会または執行役員会の承認のもとにThai PBSに参加するが、このこと以外にはThai PBSに関連する何らのビジネスも行っていないものとする。執行役員会の任務は以下のとおり14。

(1) 番組制作がThai PBSのポリシーに合致しているかどうかを討議する。

(2) Thai PBSの活動が決められた手順と規則に従うように努める。

(3) Thai PBSの諸活動にたずさわり、ポリシー委員会に提出する番組スケジュールを作成する。

(4) 組織、人事、財務の案件を処理し、発展に向けた計画案をポリシー委員会に提出する。

(5) ネットワークの発展に向けたマスタープランを実施する。

(6) 放送番組を評価する。

4.2 財務管理
Thai PBSは非商業ベースで番組を放映する。Thai PBSがその使命をスムーズかつプロフェッショナルに遂行できるように、タイ政府はスタートアップ資金として3億4000万バーツを提供した。中・長期的には、Thai PBSの収入源は以下のようになる15。

(1) 酒とたばこからの税収の1.5%。ただし、毎年20億バーツを上限とする。これはThai PBSに直接に支給される。金額に不足が生じた場合は、財務省が必要な額を追加する。余った場合には、残額が財務省に返還される。財務省は、経済状況、前年度のインフレ、Thai PBSの業績に応じて3年ごとに予算を調整す

(2) TITVから引き継いだ資産、債務、周波数の権利。

(3) 他のサービスから生じる関税、サービス料金、収入。

(4) 支援団体から得られる金銭や財産。ただし、寄付金がThai PBSの目的

に影響するようなことがあってはならない。

(5) Thai PBSの著作権や知的財産から派生する収入と利益。

(6) 貸付金からの利子、あるいはThai PBSの財産や資金の投資から得られる利益。

(7) 財務報告はすべて金銭価値をベースとして検査、評価されたうえで内部の監査委員会とポリシー委員会に提出され、最後に会計監査院(National Auditing Office)に提出される。

4.3 放送サービス

タイ公共放送サービス法(Thai PBS law)は2008年1月14日に成立した。1月17日の午後3時30分、「Thai PBSのカウントワン 」というライブ番組を通じてThai PBS設立委員会が新しいテレビ局の誕生を広報した。これに続いて多くのドキュメンタリー映画が画面を流れた。通常の番組は2008年2月1日の午後6~12時から開始された。午後8時に放映されたのはライブ番組の「Thai PBSを一緒につくりあげよう」だった。これはタイにふさわしい公共放送とは何か関するさまざまな世論を探る番組だった。2008年2月15日から放送時間は午前5時から午前0時までとなり、2008年8月からは週末には午前1時まで放送されることになった。近い将来には1日24時間放送になる予定である。

番組スケジュールに対する厳しい規制はない。タイ公共放送サービス法は各種の番組の割合について特に指示していないが、次のようないろいろなタイプの番組のバランスをとるように定めている16。

(1) 国民に大きな影響を与えるニュースは迅速かつ公平に、(特にプライムタイムに)適切な割合で伝える。

(2) 国民にとって重要な問題に関する批評やコメントの番組は、事実とバランスのとれた情報をベースとして、人々の参加や議論を促す方向で放送する。

(3) 知識や生活の質の向上を促す番組(青少年向けの番組を含む)を容易に視聴できるようにする。

(4) スポーツ、レクレーション、健康、生活の質に関連する番組を放送し、タイの文化、その多様性、タイ社会のユニークさを育てる。身体障害者の意見やアピールを紹介する番組をここに含まれる。

(5) 社会のよい美点や価値を高め、人々の審美眼を高めるクリエーティブな娯楽番組を放送する。

Thai PBSの平日の放映時間は2008年8月25日から29日までの期間をとると1日当たり19時間30分(1,170分)だった。2008年8月30日と31日の週末については1日当たり20時間(1,200分)の放映時間だった。各種番組の放映時間の配分を下記の表1と表2に示す 17。

表 1: Thai PBSの番組のタイプと放映時間
2008年 25日(月)- 29日(金)

表 1: Thai PBSの番組のタイプと放映時間
表1が示すように、放映時間の40%近くがニュースレポートによって占められている。2番目は生活の質とスポーツ、3番目はドキュメンタリーでそれぞれ18%、14%となる。Thai PBSは放映時間の多くをニュース報道に割り当てており、批評やコメント、子供・青少年向けの放映時間は少ない。これにはThai PBSが誕生したばかりで1つのチャンネルしか所有していないという事情が関係しているかもしれない。将来Thai PBSが十分に成熟して、チャンネルも増えたら、子供向け番組やドキュメンタリーなど番組の幅を広げることが可能になるだろう。

表2: Thai PBSの番組のタイプと放映時間
2008年 30日(土)-31日(日)

表2: Thai PBSの番組のタイプと放映時間

資料: 著者が作成
注: 合計放映時間は1日当たり1,200分 (毎日5:00 a.m.-1:00 a.m. ).

週末の場合、放映時間の約28%がニュースレポートに割り当てられている。2番目は生活の質/スポーツ、3番目はドキュテインメント、4番目はドキュメンタリーで、それぞれ23%、20%、13%を占める。平日に比べると、明らかに週末の番組のほうがバランスよく配分されている。
Thai PBSと他のチャンネルの相違は視聴者の参加にある。Thai PBSは視聴者に番組への参加を呼びかけ、視聴者の意見を求めている。こうした視聴者との対話の姿勢は以下の番組のコンセプトと内容に表れている。

番組名:”ピュープルステーション(People Station)”
放映時間 月~金 (2:05-3:00 p.m.)

この番組はタイ市民のフォーラムとなり、タイ市民を助ける。紛失物、探し人、法律相談、苦情、政府の広報などに関しても誰もが参加できる。

番組名:”タイマング(Thai-mung)”
放映時間 月~金 (5:05- 5:55 p.m.)

Thaiは「タイの人々」、mungは「集まること」を意味する。この番組の目的は、視聴者の間でアイデアや意見を交換するためのフォーラムまたは場となることである。

番組名:“アワーファミリー(Our Family)” 放映時間 土 (5:05-5:55 p.m.)

この番組は、家族の愛、思いやり、生活をテーマとして、家族の中の人間関係や毎日の問題に取り組む様子を紹介する。

4.4 番組のソース
Thai PBSの番組の約半分(50.32%)は局内で制作したものであり、26.77%は外部から購入したものである。スポンサー提供の番組は21.78%であり、外注は1.17%にすぎない18。選択の偏りや不正を防ぎ、独立プロダクションの発展を奨励するために、外注の番組はオンラインで申し込まれた番組プロポーザルからのみ選ばれている。2008年9月3日の時点で、申し込みのあった204の番組プロポーザルのうち、採用されたのは18にとどまる19。
特別番組
4.5 The Personnel
Thai PBSのスタッフの大半は経験豊かである。スタッフの80%以上は、それぞれの分野での経験や公共放送というコンセプトの理解を基準としてTITVから選ばれたメンバーである。

5. Thai PBSとその視聴者

視聴者の考えやニーズを知り、Thai PBSのポリシーに対する視聴者の積極的な参加を促すために、タイ公共放送サービス組織法20は視聴者評議会の創設を定めている。この評議会はタイの各地方から選出された50人のメンバーからなる。評議会は少なくとも年に一度公共フォーラムを開催して、視聴者の意見を集約する。フォーラムの結果は番組の改善に向けた報告書としてまとめられる。このプロセスは現在進行中である。

6. タイにおける公共放送サービスの課題

現在のところ、Thai PBSは自前のオフィスを持っておらず、以前のTITV局のビルを借りている。Thai PBSポリシー委員会は4年以内に自前のビルを取得する計画を立てている。

6.1 放送番組の制作
現在のところThai PBSはテレビ番組だけにかかわっている。しかし、タイ公共放送サービス組織法21によれば、Thai PBSは独自の全国ネットワークを通じてテレビ番組とラジオ番組の両方を放送することになっている。番組は視聴者の感情や生活様式に沿った内容のものでなければならない。これは非常に大きな課題である。

6.2 視聴者の獲得
Thai PBSの番組については商業テレビのような視聴率はまだ集計されていない。視聴者からのフィードバックを得るために、Thai PBSは視聴者評議会を設立しようとしている。近い将来には、視聴者評議会を通じて全国的な規模でのリサーチ、世論調査、番組視聴率の集計、総合的な評価が実施されることになろう。視聴者の要望に応えた高品質の番組はこのようにして生まれる。

Thai PBS ポリシー委員会のメンバーであるJohn Ungpakornは次のように述べている。「Thai PBSはできる限り多くの視聴者を獲得することを目指すが、だからといって数字だけにこだわっていいわけではない。したがって、課題となるのは、ターゲットとする視聴者を引きつける高価値の魅力的なテレビ番組をいかにして制作するかである。」

6.3 市民の参加
Thai PBSの設立以降、執行役員会は関心を持つすべての人々がこのテレビ局に参加できるように努めてきた。番組の試験放送に関する各種市民団体からの公開意見聴取やThai PBSロゴ・コンテストへの視聴者の参加はこうした努力の一環である。Thai PBSが提供する子供番組、芸術番組、音楽番組などについてはブレーンストーミングのためのミーティングも開催している。

6.4 自立と干渉
政府や政治家は多かれ少なかれメディアに干渉しようとする。たとえば、チャンネル11(NBT)は総理府の広報局の管轄下にあり、チャンネル9は政府が株式の大半を所有する株式会社となっている。チャンネル5はタイ国軍に所有されており、他のチャンネルは政府からの認可を受けている。したがって直接的か間接的かを問わずさまざまな干渉が発生する。Thai PBSの場合、政府に所有されてはいるが、その行動とパフォーマンスは特別な規則と法律によって規定され、一定の委員会によってチェックされる。このため政府の干渉はそう容易でない。民間からの干渉はもっと難しい。タイ公共放送サービス組織法(Thai PBS Organization Act)の第11条は「寄贈者やスポンサーから得た金銭によってThai PBSの独立性が損なわれることがあってはならない」と定めている。しかし、Thai PBSを干渉から守るのは、最終的には「Thai PBSは自分たちのもの」と感じているタイの人々である。



1. 総理府から30年の認可を受けているiTV (Independent Television) は 1995年にスタートした。総理府への認可料の未払いを巡る長年の争いのすえ、iTVは2007年に広報局の管理下におかれ、TITV (Thailand Independent Television) と名称変更された。

2. Vipha Utamachant およびSachiko Imaizumi Kodaira (1991年) The Effectiveness of NHK’s Educational TV Series for Children in Thailand.

3. TDRI (2007) The Trend and Method to Establish Children and Family Television Channel (公共保健財団へ提出された研究資料), p.11.

4. http://eng.ntc.or.th/ , 8 Sept. 2008

5. タイ電気通信委員会(National Telecommunication Commission) (2008年) Telecom Digest, Volume 1, No.7, July, p. 8.

6 . http://eng.ntc.or.th/ 2008年9月8日

7 . http://eng.ntc.or.th/ 2008年9月8日

8. UNESCO (2005), Public Service Broadcasting: A Best Practice Sourcebook.. pp.10-11.

9 .Thai PBS委員会のメンバーとBBCの前スタッフ

10. タイ公共放送サービス組織法(Thai PBS Organization Act)2008年, p.25.

11. タイ公共放送サービス組織法(Thai PBS Organization Act)2008年, 第7条,p.3.

12. タイ公共放送サービス組織法(Thai PBS Organization Act)2008年, 第18条, p.7.

13. 選別委員会 は以下の15人のメンバーから構成されている。

  • (1) タイ報道審議会(National Press Council of Thailand)会長
  • (2) タイ放送ジャーナリスト(National Broadcast Journalists of Thailand)会長
  • (3) 放送ジャーナリスト協会(President of the Broadcast Journalists Association)会長
  • (4) タイ・マスコミ関連学部メンバー評議会Council of the Mass Communication Faculty Members of Thailand)会長
  • (5) NGOコーポレーション委員会(NGO Cooperation Committee)会長
  • (6) 消費者団体協会(Consumer Organization Association)会長
  • (7) タイ子供・青少年・身体障害者育成評議会(Children and Youth Development Council)会長
  • (8) タイ身体障害者評議会(Disabled People’s Council of Thailand)会長
  • (9) 法律家協議会(Lawyer Council)会長
  • (10) タイ環境団体(Thai Environment Institute)会長
  • (11) タイ健康促進財団(Thai Health Promotion Foundation)事務局長
  • (12) 総理府事務次官(Permanent Secretary of Office of the Prime Minister)
  • (13) 財務省事務次官(Permanent Secretary of the Ministry of Finance)
  • (14) 文化省事務次官(Permanent Secretary of Ministry of Culture)
  • (15) 教育省事務次官(Permanent Secretary of Ministry of Education)

14. タイ公共放送サービス組織法(Thai PBS Organization Act)2008年, 第29条, p.13.

15. タイ公共放送サービス組織法(Thai PBS Organization Act)2008年, 第11条, p. 5.

16. タイ公共放送サービス組織法(Thai PBS Organization Act)2008年, 第43条, pp.17-18.

17. 著者が編集し分析したデータ

18. http://th.wikipedia.org/wiki/TPBS 2008年9月5日

19. http://www.ThaiPBS.org.th 2008年9月12日

20. タイ公共放送サービス組織法(Thai PBS Organization Act)2008年, 第45条, p.19.

21. タイ公共放送サービス組織法(Thai PBS Organization Act)2008年, 第8条, p. 4.

※リンク先は掲載時のものです。現在は存在しないか変更されている可能性があります。

Supanee Nitsmer

ラムカムヘン大学(バンコク)マスコミ学部 助教授

1991年サマサット大学(タイ、バンコク)M.A. (マスコミュニケーション)。 1978年チュラローンコーン大学(タイ、バンコク)B.A. (教育最高級取得)。 テレビ番組制作資格証明書(カピラーノ・カレッジ、ビクトリア、カナダ)(カナダ財団) - テレビ番組制作資格証明書。 1992年NHK放送研修センター、日本国際協力機構(JICA) 1983年グラフィック制作資格証明書、シンガポール(コロンボ計画) <関連分野での経験> [執筆] - テレビ脚本の執筆 - ジャーナリズム入門(Introduction to Journalism) - フォトジャーナリズム(Photojournalism) [その他] - 共著:The Appropriate Post Rating for Television Program: A Case Study of Thai TV Channel 7, Research Working Paper, 2008. - “Youth Television Program Production” (ラムカムヘン大学マスコミュニケーション学部とチャンネル5の共同プロジェクト)のプロジェクト・リーダー(1995-2005年)(青少年向けテレビ番組を制作してチャンネル5で放映)

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