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JAMCO オンライン国際シンポジウム

第17回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2008年2月1日~2月29日

非英語国のテレビ国際放送

[報告(3)] NHKの国際放送

NHK国際放送局

国際放送開始の背景

NHKの国際放送は、1935年6月1日、短波によるラジオ放送から始まった。開始当初、日本語と英語合わせて1日60分だったものが、戦時中は、24の言語で1日の放送時間が33時間5分にまで拡大した。戦後、GHQは短波放送を禁じたが、52年2月、「ラジオ・ジャパン」として再開し、現在は18の言語、放送時間は一日延べ49時間20分で実施されている。

戦後、再開したNHKの国際放送は、自国に都合の良い情報のみを伝えるプロパガンダとしてではなく、「客観的な報道」を編集の基本方針に掲げ、海外から広く信頼され、かつ日本が国際社会に正しく理解されることを目指してきた。

90年代、湾岸戦争でのCNNの活躍などを機に各国の国際放送も大きく様変わりし、映像による国際放送を開始する放送局が現れた。NHKも91年、在留邦人向けに衛星を通じて欧州、北米の現地法人に番組配信を始め、両社は地域衛星やケーブルテレビを通じ有料放送(日本語)サービスを開始した。

94年の放送法の一部改正によって、テレビ国際放送を行う業務がNHKの必須業務として位置付けられた。これに伴い、95年4月から、無料、ノンスクランブルでヨーロッパ向けに1日3時間、北米向けに1日5時間の放送が始まった。

98年4月には3つの衛星を使用して、アジア・太平洋地域向けに、1日18時間のCバンド・デジタル方式によるテレビ国際放送「NHKワールドTV」とテレビ番組配信「NHKワールド・プレミアム」の2つのチャンネルがスタートした。同年10月、対象地域が南西アジア、中東、アフリカ北部、欧州、南北アメリカに拡大された。99年10月には、この2つのチャンネルの放送と配信は24時間化された。2001年8月、南部アフリカ地域でも見られるようになり、世界のほぼ全域でNHKのテレビ国際放送が視聴できるようになった。

2000年代に入ると、デジタル技術の進展や衛星回線が増えたことにより、テレビ国際放送を開始する国が急増し、世界は、映像による国際放送”競争時代”に突入した。NHKも2006年に始まった三ヵ年計画で新たな国際放送戦略を打ち出し、ラジオについては、短波放送がいまだ有効な地域はサービスを維持するが、衛星を使ったラジオ放送など時代に則した転換をはかり、合わせてドイツ語、イタリア語、スウェーデン語、マレー語の4言語のサービスをやめることにした。その一方で、テレビやインターネットによる情報発信を強化することとした。また、「NHKワールドTV」は2008年度中に英語化率100%を目指し、外国人向けチャンネルとして充実をはかり、「NHKワールド・プレミアム」については邦人向けとして、その内容を特化することとした。

この間、日本政府においても国際放送の充実・強化について検討が行なわれた。2006年6月の政府与党合意を受け、2007年放送法が改正された。この改正により、国際放送を目的としたNHKの子会社を設立し、2008年度中にNHKを中心とした新しい体制で放送が始まる見通しとなった。

国際放送対象地域と放送技術

テレビ国際放送「NHKワールドTV」はインテルサットのCバンド衛星3基でほぼ全世界をカバーしており、約180の国と地域で推定3900万世帯が視聴可能である。また北米と欧州では現地で日本語ペイチャンネルを運営している現地法人に委託し、Kuバンド衛星を使用して約3300万世帯を対象に一日約6時間ノンスクランブル無料放送も実施している。07年6月からは米国ワシントンDC地区周辺で100万世帯以上を対象とした地上デジタルとケーブルテレビによる再送信も開始した。欧米以外の地域ではケーブル局等に無償で再送信を認めており、NHKに申請があったものだけで、07年末現在、13の国と地域の17事業者が15万世帯を対象に放送を実施しているが、実数は把握できない。

今後は、その国の衛星チャンネルを借り上げて、視聴者が受信しやすいような環境を段階的に整備するとともに、IP技術など技術革新の成果を最大限に活用し、衛星と光ファイバー網を効果的に組み合わせた新しいネットワークシステムの構築により、国際放送の充実強化と高画質化に向けた検討を進めていくことにしている。

対象とする視聴者と言語

1998年の開始当時、「NHKワールドTV」は、日本語だけで放送していたが、2000年以降、外国人の視聴者にも理解されるよう、順次、英語の番組を増やし、現在、英語化率は91%(08年4月からは97%の計画)にまで伸びている。改正された放送法では、国際放送を外国人向けと邦人向けに分離実施するように規定されている。これにより「NHKワールドTV」は原則として、2008年10月には100%英語による外国人向けチャンネルとするが、一部には日本語の普及のため日本語の時間を設けるべきだとする要請がある他、英語以外の言語で放送すべきだとの意見もある。

新しく国際放送を始める放送局の中には”影響力のある世界のオピニオンリーダー2000人に見てもらう”とターゲットをエリートに絞り込む方針を取るところ(フランス24)もあるが、NHKでは特に視聴者層を絞り込むことはしていない。日本には漫画やアニメーションのようなサブカルチャー、ビジネス・経済情報など海外の視聴者に魅力のある情報も多く、広い視聴者層を狙った番組編成を通しNHKワールドの浸透をはかっていく方針である。

番組作りの戦略と制作

英語番組には国内向け番組を英語に吹き替えて英語化するものと、企画段階から英語で制作するものの二種類がある。

英語化番組は元々国内放送向けで、基礎的な情報の説明が省かれているため、一般の外国人には理解が難しいが、日本に関して一定以レベルの知識がある外国人には情報性に富んだ番組ということもできる。制作サイドから言えば、完成度も高く、国内の多様なジャンルの番組を再利用できるという利点もある。ただし、日本人には当たり前な情報でも、その背景を補強しなければ外国人の理解は得られない。このため、多くの視聴者の理解を得るためには丁寧な説明や解説を付加する必要がある。

もう一つの英語独自制作番組は、当初から外国人向けに企画しているため、外国人の視点で日本を切り取った判り易い番組ができる。ただし、外国人の視聴者といってもヨーロッパ、アメリカ、アジア、アフリカと一様ではなく、受け止め方が異なることも多く、制作の現場は、どこに焦点を合わせるか戸惑うこともある。

外国人向けの番組作りのあり方を議論すると必ず出てくるのが「外国人視聴者が何を欲しているか市場調査を行うべき」との意見である。NHKでも世界各地にモニターを置き、日常的に意向を汲む努力を続けているが、完全なモニター制度の確立は技術的にも経費的にも難しい。放送番組とは異なる一般の商品開発では多くの市場調査が行われ、日々、無数の商品が市場に登場しているが、市場調査からヒット作を生む成功の方程式は存在しない。

海外の視聴者に受け入れられる番組の制作には、世界各国からのモニター報告だけでなく、常に時代を読む力に優れた開発担当者(制作者)のインスピレーションが必要なのかも知れない。

日本の場合、世界から注目を集めているユニークな文化や経済ビジネス情報がある。

文化は長い歴史に裏付けられたものと、サブカルチャーと二つの流れがあり、それぞれ英語独自番組「Begin Japanology」と「Tokyo Eye」に結実した。J-Popもアジアを中心に人気があり、「J-Melo」という形で番組化している。世界的に健康への関心が高まっていることを背景に日本食への関心も広がりを見せている。海外で調達できる食材を使って日本食を手軽に作る方法を伝授する「Your Japanese Kitchen」には、海外視聴者からの問い合わせも多い。

ビジネス情報は、「Japan Biz Cast」となって毎回、さまざまな新商品を紹介する番組となった。
番組に登場した新商品に関して海外からその発売元に問い合わせがあり、モノ造り日本への関心はいまだに高い。

来年度は海外からの評価の高い日本のアニメやファッションを扱った”imagine-nation”と “Tokyo Fashion Express”の2つの定時番組化を準備している。

海外向け番組として、なかなか成立しないジャンルも少なくない。日本人は一般的に英語が苦手で自由にディベートをできる人が少ないため、海外の放送局ではよくある討論番組がいまだに定着しない。高額な著作権のためスポーツ番組の編成も難しい。今後、こうした分野の番組をどう開発していくかも大きな課題になる。

日本の情報のみならず、NHK国際放送は「アジア情報はNHK」(Your Window on Asia)を打ち出している。NHKはアジア太平洋地域に十数ケ所の総支局を置き、情報取材に力を入れている。アジア情報を分厚く伝えることができるのはNHKの強みである。NHK国際放送は、こうした取材網を最大限生かしてアジアのニュース・情報を伝えることを大きな柱の一つとしてゆきたい。

外国人向けの英語ニュース・番組制作を始めて7年。今ではニュースで1日18枠各15分のニュース、1日1回の30分のまとめニュース、15分のアジアニュースを揃えている。海外向けの英語独自制作番組も9本になり、来年度は14本にまで拡大する計画である。

人材の確保について

全ての事業に必要な「ヒト」「モノ」「カネ」のうち、「ヒト」は、ニュース・番組の制作に直接携わり、最終的にその人物の個性・能力が、コンテンツの良し悪しを左右するだけに、有能な人材の確保は最も重要な要件である。新しい分野であるだけに国際放送の中核となる職員の養成に加え、外国人を含めた質のよい外部スタッフの確保が喫緊の課題である。

「NHKワールドTV」のニュースは、原則として国内放送用の原稿を元に英語で制作している。国内原稿のうち、日本発の情報としてニュースバリューがあると判断したものを、「英語センター」で英語のニュース原稿に翻訳するが、海外の視聴者にも理解できるように、様々な情報を付加する。そして、映像やCGなどを加えて放送することになる。

要員構成はNHKの職員とOB、外部スタッフ。職員は、各部署から英語の能力を持つ人材を集めている。外部スタッフの採用に当たって、選考の基準にしているのが、英語力や情報に対する理解、制作実務の経験・練度といった適性である。キャスターやアナウンサーとして採用する際には、発声や表現力、個性が加わる。

英語力については、一定の基準を設けてはいるが、英語が出来るから採用しているというわけではない。日本では、中学校から英語を必須教科として学習している上、海外との交流も盛んで、英語が母国語の国で生まれ育ったバイリンガルも増えていることから豊富な人材が存在するかといえば、そうとも言えないのが現状である。語学力に加え、放送の世界ではジャーナリスティックなセンスが不可欠だが、双方を備えた人材はふんだんにはいない。

今後、日本からのテレビ国際放送の認識が高まることで有能な人材がNHKの国際放送をめざすようになることを期待している。

事業の資金と予算

2007年度、NHKではテレビ国際放送の内容を充実するため、日本やアジアの最新情報を伝えるニュース番組を強化するとともに、ニュースの中に国内外の経済情報や世界の気象情報のコーナーを設けた。また国際放送局独自制作の英語番組を拡充するとともに、国内放送番組の英語化をさらに進めた。

NHKでは、時代に併せた新しい国際放送サービスのため、ラジオからテレビへの経営資源のシフトを進めている。

テレビ国際放送番組の経費(番組制作費・企画編成費・技術運用費・受信環境整備費など)は2008年度予算68.8億円で、前年度に比べ28億円の大幅増額となった。ラジオ国際放送費は42.3億円で、前年度比で約2.6億円の減額となった。

なお、テレビ・ラジオ・インターネットなど国際放送全般に係るトータルコスト(人件費・減価償却費を含む)は150.9億円で、このうち国からの交付金はテレビ・ラジオ併せて33.2億円である。

オーナーとスポンサー

NHKは、受信料を基本財源として運営されている特殊法人である。日本の公共放送には広告は無く、スポンサー収入は無い。また、オーナーと呼ばれる立場の人も存在しない。

課題

2007年暮れの放送法改正を受け、新しい形のNHKの国際放送が2009年初めに始まる。現在、その実現のため準備を急いでいる。 まず大きな課題は、人材の確保と養成である。非英語国日本で毎正時30分の英語ニュースを放送するため、英語ができるニュースマン、外国向け番組を制作できるディレクターを一人でも多く確保しなければならない。

国際放送強化のために新しい子会社を設立することになるが、それをどう活用して行くか、新会社を通し民間のノウハウをどう取り入れていくか、研究会を設け民間とも情報交換や協議を続けている。国際放送は、採算ベースにのらないと言われている上に、国際的にも競争の激しさが増しているが、日本からの発信をどう効率よくかつ有効に進めるか、新しい発想が求められている。

番組の質の向上だけでは国際放送は広がらない。受信環境の整備が不可欠である。世界各国、各地域の衛星やケーブルを通じて、より簡便に受信できるチャンネルに「NHKワールドTV」をのせる必要がある。

2008年度中に、英語を話す国、地域を中心にヨーロッパ・アメリカ・アジア・大洋州・アフリカなど1億世帯あまりで簡単に「NHKワールドTV」が受信できることを目標とし、09年以降も他の地域での受信環境整備を進めて行く。テレビだけでなく、インターネットの強化や携帯端末への番組配信なども推進したい。

英語以外の言語で放送することも将来、検討することになろう。英語だけの放送で充分とは考えられない。

また、日本を訪れる外国人や日本に暮らす外国人に「NHKワールドTV」を見てもらう必要があると思われる。日本には200万人の外国人が暮らす上、毎年、900万人以上の観光客が訪れている。加速する人の移動と情報の移動が、現在の国際化を生んでおり、日本もその例外ではない。テレビ国際放送は、日本にいる外国人のためにも供されるべきであり、制度の改善が強く望まれる。

NHK国際放送局

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