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JAMCO オンライン国際シンポジウム

第17回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2008年2月1日~2月29日

非英語国のテレビ国際放送

[討議(1)] CCTVチャンネル9の現状と課題

高井 潔司
北海道大学国際広報メディア研究科 教授

曹日(Cao Ri)氏の報告にあるように、中国の英語版国際放送であるCCTV(中国中央電視台=中国中央テレビ局)のチャンネル9は,ここ20年飛躍的な発展を遂げてきたといえよう。中国国内の地上波テレビの一般番組の枠内で、一日1回25分間の英語ニュース放送から出発し、現在では専用のチャンネルを持ち、一日24時間フルに放送を行っている。
さらに衛星放送を通じて世界にも発信され、曹報告では、6つのサテライト局を通じて2500万人もの人が視聴している。NHKが2007年3月の放送記念日特集「情報発信に世界が動く」でCCTV9の現況を紹介した際には、世界46か国、5000万の世帯で聴取可能になっていると伝えていた。どちらの数字が正しいかはあまり問題ではないようだ。というのも、現在ではインターネットによって、同時中継やビデオ収録番組の視聴が可能になっており、視聴者の意思次第で、全世界で視聴が可能になっていると言える。

CCTVの発展は市場経済型ではない

こうした発展には様々な要因が指摘できよう。一つは中国経済の急速の発展が大きな背景になっている。とりわけ1990年代以降の市場経済化によって、高度成長が実現するにつれて広告需要が急増し、CCTV自身の経営も空前の活況を呈した。1990年、中国のテレビ業界全体の広告営業額は5.6億元だったが、97年に114.44億元、2005年には355.3億元に達している。CCTV自体の2005年の広告営業額は中国のテレビ業界全体の3分の1近くを占める104億元にのぼっている。
中国には現在300余りのテレビ局があるが、CCTVの力は圧倒的である。こうした経営基盤の確立によって、アナログ放送だけでも、総合チャンネルから経済やスポーツ、音楽、教育など専門チャンネル、さらに英語、フランス語、スペイン語の外国語チャンネルなど17ものチャンネルの放送が可能になったといえる。

二つには、中国のテレビ政策によるところが大きい。中国のテレビ局は基本的に国営であり、民間や海外の資本参入は厳しく制限されている。中央レベルのCCTVに比肩できるテレビ局は国内になく、いずれも地方テレビ局となっている。このように見ると、市場経済の発展によって、CCTVの経営基盤は築かれたが、決して市場競争の中で勝ち抜いて成長してきたわけではないこともわかる。

最近の中国のテレビ業界は競争が激化し、視聴率を意識した番組制作も増えている。視聴者参加によって、スターを生み出す「超級女声」(湖南衛星放送)が好評を博し、他の地方テレビ局も追随する「超女現象」が起きている。これは番組の広告単価を引き上げ、CCTVを脅かす現象でもあった。ところが、2007年、中国製品や食品の安全性が国際社会で問題化した関連で、北京テレビ製作のいわゆる「段ボール肉まん」事件が発生し、テレビ業界の正常化の方針が管理当局から出された。
この時、「超女」番組も、下品な番組として規制されるようになった。そのキャンペーンの中心になったのが、CCTV関係者だった。したがって、「超女現象」の拡散で、地方テレビ局が活気付き、CCTVが苦境に陥るのを防ぐために、「超女現象」の規制に乗り出したのではないかとの見方も出ている。その真偽は別として、中国政府のテレビ政策が、CCTVの今日を形作っていると言えよう。

以上の二点による発展の結果、CCTVの経営や放送方針は中国政府の方針と一体化しているといって過言ではない。チャンネル9はその典型ともいえよう。そもそも、広告収入はほとんど期待できない、市場性の弱いチャンネルである。計画経済時代の中国のメディア政策を体現した「宣伝機関」と同様のメカニズムで運営されていると言えよう。つまり、国際放送としてのチャンネル9は、中国政府の対外宣伝を担うメディアとして活用されているのだ。

限られる放送の範囲

冒頭紹介したNHKの放送記念日特集番組によると、海外で中継局が置かれ、チャンネル9の視聴可能な地域は、南太平洋の小さな島嶼国とアフリカ諸国に限られている。これには、いくつかの理由がある。こうした地区では、メディアがまだそれほど発展しておらず、放送の施設、設備さらに放送コンテンツも不十分な国々である。また、これらの地区では、台湾当局との間で、中国か台湾かの正統権争い、国連での多数派工作の争いが続いている。

したがって、中国政府の援助によって、衛星放送の受信アンテナを建設し、現地でチャンネル9の放送を中継することは、これら発展途上国に対する援助であると同時、中国をより理解し、支持してもらうための一石二鳥の役割を担っている。NHKの番組では、バヌアツ共和国の島民の家庭に入り、チャンネル9に対する感想をインタビューしていた。
それによると、バヌアツではそれまで1日4時間、官製の番組しか放送されてこなかっただけに、チャンネル9の放送は新鮮で、「チャンネル9がなければ世界の動きがわからない」と絶賛を受けていた。さらに「中国がこれほど民主的な国とは知らなかった」という声まで聞かれるほどで、対外宣伝の役割を十分果たしていると言えよう。情報化の遅れている発展途上国においては中国の対外宣伝の意図は十分実現できることを示している。

ついでに、NHKの特集番組の内容をもう少し紹介しておこう。この番組では、チャンネル9を代表する番組として「ダイアローグ」というインタビュー番組に焦点を当てて放送していた。この番組は政治家や知識人をスタジオに招いて、人気キャスターがインタビューを展開するというもので、かつてはクリントン元米大統領なども出演したことがあるという。
しかし、2006年11月の番組として紹介されたのは、ガーナやルワンダ、リベリア、ウガンダといったアフリカ諸国の政治家に対するインタビューで、それは2007年2月の胡錦濤国家主席のアフリカ歴訪ともタイアップする内容だった。つまり中国のアフリカ外交推進の露払いをチャンネル9が担っていたということになる。楊鋭キャスターは、番組が「国家の主張、中国の考え方を世界に伝えるのは当然のことである」と語り、政府の対外宣伝の役割を担っていることを隠すこともなかった。

だが、その成果はまだまだ不十分と言えるのではないだろうか。曹報告では、チャンネル9の発展に対して、NHKも羨んでいるかのような評価が紹介されていた。確かに、24時間の専用チャンネルなどチャンネル9に対するバックアップ体制については、NHKの国際放送を上回るといえようが、視聴される地域やその影響力が限定されているという面を見た時、その充実した放送環境に比べ、十分な力を発揮しているかどうかというとかなり疑問が残る。チャンネル9の関係者がこの程度で満足しているとしたら、政府の最高レベルの要求に十分答えていないことになるのではないか、と言わざるを得ない。

グローバル化に消極的だった90年代

チャンネル9を国際放送として拡充した背景には、中国が2001年世界貿易機関(WTO)に加盟し、貿易や投資といった経済面での海外進出(中国語では「走出去」(歩みだす)という慣用的な用語が用いられている)が求められただけでなく、経済成長に伴って中国の大国化が進行し、その平和的な台頭を実現するため政治、外交、文化面での国際社会への進出(「走出去」)が国策となった点が挙げられる。平和的な台頭とは、中国の平和的な大国化であり、そのためには中国の国際社会でのイメージの改善を図る必要がある。

しかし、こうした中国の積極的な国際化の取り組みは21世紀に入ってのことであり、実は90年代の中国国内の議論は極めて内向きで、グローバル化、国際化について消極的だった。1989年の天安門事件の発生で、中国は民主化運動を武力弾圧したために、西側諸国から経済制裁に遭い、さらにソ連・東欧圏の崩壊によって、国家存亡の危機に立たされた。その中で、経済面においては改革・開放路線を貫き、市場経済へと全面的に転換して、高度成長を実現したが、政治的は依然として一党指導体制を貫き、メディアの国家管理強化を進めてきた。テレビ、新聞という影響力の強いメディアに対して、外国資本や民間資本の参入を許さないのも、外部からの干渉を防止しようという警戒感から出発している。

WTO加盟を目前に控えた2001年1月、中国大学映画・テレビ学会、北京広播(放送)学院(Beijing Broadcasting Institute 現中国伝媒大学 Communicaton University of China)などが「中国映画・テレビ高層シンポジウム」を開催した。その論文集が『グローバリゼーションと中国映画・テレビの命運』というタイトルで出版されている。(中国語名『全球化与中国影視的命運』、北京広播学院出版社)巻頭論文は、彭吉増(PENG Jizeng)・北京大学教授の「全球化語境下的中華民族影視芸術(グローバリゼーションの言語空間における中華民族の映画・テレビ芸術)であり、グローバル化はポストコロニアル時代の帝国主義による侵略形態という側面を持っていると指摘、文化侵略による「文化帝国主義」であると強い警戒感を示している。もちろんWTO加盟を前に警戒感ばかりではない。警戒心をもちながら、交流も促進する必要があるとも述べている。

「グローバル化のプロセスにおいて、先進諸国と発展途上国との間に矛盾が存在するだけでなく、先進諸国の間、途上国の間に、さらに主権国家と多国籍企業の間にもギャップと矛盾が存在している。とりわけ途上国においてはグローバル化の中で、一方で文化保護主義を防止して、積極的に世界の現代化、経済のグローバル化の中に参入する必要がある。他方、文化帝国主義の侵略を警戒し、現代性を受け入れるとともに民族性も保持してその文化的融合をはかり、世界各国との文化交流を強化し、自国の特色ある文化も維持していかねばならない」

彭教授はまた、中国の映画・テレビが、国際社会の主流市場に参入するには「まだまだ数多くの解決しなければならない問題があり、中国のテレビと広大な国際市場との接続にはかなりの月日が必要である。また多くのテレビ関係者には世界のテレビコンテンツ市場についての理解が欠乏しており、世界の目、国際的な基準でもって、番組制作を行う習慣がまだない」と、他の研究者発言を引用しながら、その難しさを指摘している。

21世紀の課題は国際的な競争力を持つことだ

すでに述べたように、中国のテレビ業界とりわけそのトップの地位にあるCCTVは中国政府のメディア政策の下で、保護され、成長し、チャンネル9のように24時間の英語国際放送を持つに至った。しかし、そのプロセスで、国際的なテレビ放送局との直接の競争を回避してきた。中国のテレビ業界は、海外資本を締め出しているだけでなく、海外のテレビ放送の受信を基本的に認めていない。国際的なテレビ資本との切磋琢磨によって、競争力を鍛えてきたわけではない。したがって、彭教授らが指摘する競争力の欠如は、テレビ関係者の自覚というより、中国のテレビ業界の構造的な問題から生じていると言えよう。

国営新華社通信発行(XINHUA newsagency)の時事問題専門誌「環球」(GLOBAL)の2005年第16期に掲載された「中国テレビドラマの”走出去”(海外進出)の困惑」と題する記事は、文化産品の海外との貿易格差は10対1で、中国の文化産品の貿易赤字はなぜかくも巨大であるかと、疑問を提示しながら、取材、調査を進めている。そこで以下のような文化評論家の意見を紹介している。

「中国のテレビドラマが国際市場でその分け前に預かれない大きな原因は、中国ドラマが自意識過剰で、家に閉じこもって自動車を作り、目は国内市場にしか向けられていない。少し利益を得ると自己満足し、広大な国際市場に対する信念に欠け、進取の精神に乏しい」 「もし、中国のテレビドラマが本当に”走出去”を目指すなら、意識的に民族性、地域的伝統の強調を薄める必要がある。意識的に普遍的な価値を追求しなければならない」

以上のような指摘は中国ドラマに関するものだが、事は中国ドラマに限らないであろう。対外宣伝の任務をより明確に担っているチャンネル9の場合には、曹氏が紹介した番組名を見ても、民族性や地域伝統を強調し、愛国主義的傾向が強いことが想像される。

90年代、中国映画は世界の市場で一定の空間を確保した。それは民族性や地域伝統を踏まえつつも、愛国主義や宣伝色は薄く、人間愛をテーマに共感を生む内容であった。

「宣伝の有効性を高めよ」――温家宝首相の指示

対外宣伝が、民族性や地域性を強調することだけで、効果があるのだろうか。むしろ、その効果を考慮に入れ、改善していかなければならない。中国伝媒大学(英訳は前出)当代国際問題研究センター(定訳不明)の劉明副主任(LIU Ming)は、『当代中国形象定位与伝播(当代中国のイメージ定位とメディア)』(外交出版社)で、「たとえ中国の発展が平和的で、良性であったとしても、中国は別の人間が全てを理解してくれると考えるべきではない」として、人権や貿易、エネルギー、台湾、軍事力、内政干渉、危機管理など国際社会が広く関心を持ち、常に争議を引き起こす一連の問題をめぐって、いかに正しく位置測定(定位)を行うべきかを検討し、海外にむかってより事実の基礎を踏まえた、より受け入れ可能な「中国の答案」を提供する必要がある、と述べている。

つまり、中国のイメージは、欧米のテレビ放送や通信社などのメディアによって、国際社会に広く流布されており、劉副主任が列挙した問題において、中国のマイナスイメージが定着している。これに対して、中国がなすべきことは、単に民族主義や愛国主義の立場から、南太平洋、アフリカといった限られた地域での反論ではなく、現実を直視し、事実に沿った説得力のある情報の発信をするということだ。

21世紀に入って、中国外交はグローバル化に対するそれまでの警戒から、グローバル化のチャンスを生かし、責任大国として国際社会で積極的な役割を担う新思考外交を打ち出している。対外宣伝についても劉副主任のような指摘を踏まえた方針が打ち出されつつある。

例えば、温家宝首相(WEN Jiabao)は来日する約1か月前の2007年2月、「社会主義初級段階の歴史的任務とわが国の対外政策に関するいくつかの問題」した。この論文で、温首相は、中国の発展段階がまだまだ「社会主義初級段階」にあり、国際社会においても、グローバリゼーションという発展のチャンスを生かし、「平和的発展の道」を歩まなければならないと指摘した上で、そのためには、「対外宣伝活動を強化、改善しなければならない」と述べた。そして「全面的に、正確で、タイミング良く、わが国の改革・開放と現代化建設で獲得した成果を海外に紹介し、わが国に存在する問題を回避してはならない。
生き生きとした多様な対外宣伝と交流の方式をうまく活用し、できるだけ国際社会が聞いてわかる、理解しやすい言葉と親しみやすく楽しいやり方で交流し、宣伝の有効性を高める必要がある。努力して、各方面が、中国の発展と国際的な役割について客観的、理性的に見るようにいざない、友好的な国際世論の環境を作り出していく必要がある」と述べている。

改革・開放こそがテーマ

現在の中国は改革・開放路線の推進によって大きな発展を遂げ、その方針、方向は今後も変わらないとされている。伝統的な文化や民族性を訴えることも重要であるが、改革・開放こそが中国の発展するイメージを代表し、伝えるべきものであろう。その場合、改革とはまず改革されるべき問題が存在するということが前提であり、そのことを抜きに成果のみを報道しても、説得力を持たない。まさに温首相が「わが国に存在する問題を回避してはならない」と述べている通りである。

しかし、中国メディアの国際社会向けの発信は、往々にして伝統主義や愛国主義に彩られたものであり、まだまだグローバル化への警戒感に満ち、自国に存在する問題を回避する傾向がある。問題の所在を封じ込める傾向は、国内報道において、報道の自由度にまだまだ制約があること、これまで国際競争にさらされず、閉ざされた空間の中でメディアが発展したことから来ている。

発展する中国の国際社会での役割は大きく変わりつつある。発展の原動力になった改革・開放の中国イメージを強く国際社会に打ち出し、対外宣伝の効果を上げるためには、対外宣伝や国際放送自体の改革・開放も進めている必要があると言えよう。その面で、チャンネル9自身が今後、どのように改革・開放を進めるか、注目されるところであろう。

高井 潔司

北海道大学国際広報メディア研究科 教授

1948年生まれ。1972年東京外国語大学中国語科卒業。 同年、読売新聞社に入社し、その後テヘラン特派員、上海特派員、北京支局長、論説委員を歴任。 1999年から北海道大学大学院、国際広報メディア研究科教授。 主な著書は、「中国ナショナリズムとメディア分析」編著、明石書店(2005年)、「現代中国を知る」編著、明石書店(2003年)、「中国報道の読み方」岩波アクティヴ新書(2002年)、「21世紀中国の読み方」 蒼蒼社(1999年)、「中国情報の読み方」 蒼蒼社(1996年)、「蘇る自由都市 上海」 読売新聞社(1993年)。

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