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JAMCO オンライン国際シンポジウム

第23回 JAMCOオンライン国際シンポジウム

2015年2月~2015年10月

日本のテレビ番組のアジア・中東での理解の実態

途上国における日本の教育番組の二次利用の可能性と課題:
ヨルダン、ウズベキスタン、フィリピンを対象として

今野 貴之(明星大学)、岸 磨貴子(明治大学)、久保田 賢一(関西大学)

はじめに

 本稿の目的は、日本の視聴者を対象として制作された教育番組が途上国の児童・生徒の教育支援として活用することができるのか、その可能性と課題について検討することである。これまで日本で制作された教育番組を途上国の授業支援として活用することを目指して、その可能性が議論されている(たとえば小平1994、市川1990)。そこで、本稿では日本の教育番組が途上国の授業においてどのように理解(解釈)されるかを調査する。


1. 研究背景

  • 1.1. 教育番組活用の歴史

     日本の学校放送の普及・発展は、これまで文部省、教育委員会の指導のもと、全国的な放送教材の利用や教師たちの自主的な研究組織である全国放送教育研究会連盟(全放連)、各地で教師たち自身が研究会を実施してきたことにある(市川 1990)。日本のように、自国のなかで教育放送の普及発展を目指し、取り組むことができる国もあれば、情報通信インフラや教育放送のノウハウが乏しい国もある。
     各国で幅広く放送されている教育番組のひとつとしてアメリカで制作されたセサミストリートがある。セサミストリートは、就学前の教育の充実をめざして誕生したテレビ番組であり、130カ国以上の国々で様々な形で放送されている。Cole(2007)によれば、セサミストリートの新たな国や地域での放送に当たっては、番組はその国や地域の人たちによって現地で制作されるため、放送される国や地域の児童・生徒の学習ニーズ合わせた番組を制作することが可能であると報告されている。つまり、それぞれの国の教育アプローチや番組背景が異なって制作される。
     その結果として、世界各地で多様な教育目標を達成するための様々なプロジェクトが誕生した。たとえば、初歩的な算数、問題解決、読み書きなどの認知スキルのプロジェクトや、人々との社会的交流、家族や近隣についての学習などの社会性スキルである。
     しかし、留意しなければならないのは、セサミストリートはそれぞれの国の教育アプローチや番組背景に適するように制作されてきたということである。教育や教材、教育方法、教育番組などは、それが生まれた土壌や時代背景に密接にかかわるため、教育を特定の状況から切り離してあてはめると意味合いがかわってしまう可能性が指摘されている(山田 2009)。つまり、ひとつの国で制作された番組を、そのまま他国で活用しようと試みた場合、文化的差異が表出する問題があるということである。


  • 1.2. 途上国における他国で制作された教育番組活用の期待

     先の問題をふまえて、日本が保有する教育番組の活用について考えてみる。
     一般財団法人放送番組国際交流センター(Japan Media Communication Center 以下JAMCO)は日本で制作された教育番組を英語・スペイン語・フランス語へ翻訳し、発信している。その目的は、教育の質的向上や日本の文化を伝えるためである。これは、文部科学省を始めとした政府機関が推進している動向とも一致する(文部科学省 2013)。
     しかし、先述してきたように、ひとつの国で制作された番組、すなわち日本で制作された教育番組を、海外の教育現場へ提供しても文化的差異が表出する可能性がある。そのため、日本の教育番組を提供するとしたら、その国の文化的状況を配慮して教科や単元、番組内容を選定する必要がある。


2. 調査目的

 途上国における日本の教育番組の二次利用の可能性と課題を明らかにするため、JAMCOが翻訳した文化による影響をあまり受けない理科の教育番組を、途上国の教育現場に提供し活用できるかどうかを検討することを目的とする。
 調査対象国はヨルダン(アンマン市)、ウズベキスタン(タシュケント市)、フィリピン(ブラカン市)である。その選定の理由については3.3にて詳述する。


3. 調査概要

  • 3.1. 教育番組の選定

     2014年8月にヨルダン(アンマン市)、ウズベキスタン(タシュケント市)、フィリピン(ブラカン市)へ筆者らが渡航し、現地の教育関係者にJAMCOの協力を得て英語に訳された教育番組を視聴してもらい調査を行った。
     それぞれの国で視聴させる教育番組は小平(1994)を参考に、文化による影響をあまり受けない「理科」を選定し、その中でも自然科学の「実験」をおこなっている教育番組4つを選定した(表1)。

    表1 選定した番組

    表1 選定した番組


  • 3.2. 調査方法

     選定した理科の教育番組を学校教師・児童生徒に視聴してもらい、小平(1994)を参考に次の内容を含む半構造化インタビューを行った。

    ◯教師用質問項目
    • (1)理科番組の内容は授業の内容と適していますか?
    • (2)番組の形式はあなたの授業において活用できるものですか?
    • (3)これまで理科番組を見たことはありますか/授業で活用したことはありますか?
    • (4)自国において、番組が効果的に活用されるにはどうしたらよいとおもいますか?

    ◯児童生徒用質問項目
    • (1)この番組はどのような内容でしたか?(理解)
    • (2)番組はおもしろかったですか?どこがおもしろかったですか?(興味)
    • (3)番組の内容はむずかしくなかったですか?どこが難しかったですか?(理解)
    • (4)実験の内容はわかりましたか?実験をしてみたいとおもいますか?(実験への関心)
    • (5)このような番組はもっと見たいですか?その理由はなにですか?(視聴意欲)


  • 3.3. 調査対象国の概要

     調査対象の選定の理由は、(1)学校教育において、日常的に電気が使え、教育番組を授業で活用できること、(2)英語を第一外国語もしくは第二外国語として学習していることがあげられる(表2)。

    表2 調査対象者

    表2 調査対象者
    ヨルダン

     ヨルダン(アンマン市)ではパレスチナ難民の学校で調査をおこなった。パレスチナ難民の教育は、国連パレスチナ難民救済事業機関(United Nations Relief and Works Agency for Palestine Refugees in the Near East 以下、UNRWA)が支援をしている(UNRWA 2014)。UNRWAでは、国際的な動向に従い、教師が主導して児童・生徒へ一方的に知識を詰め込む暗記・暗唱を中心とした一斉授業ではなく、児童・生徒の興味や関心に応じて実際に体験をさせることによって各分野の理解を促進させたり、児童・生徒自身の既有の体験と関連づけさせたりして、自律的、協働的な問題解決ができるように導くことを目指した教育を行うための授業改善にとりくもうとしていた(UNRWA and UNESCO 2006)。
     8月20日に指導主事・教師7名(教歴30―34年)に、ビデオ教材を集団視聴してもらい、視聴後にインタビューを行った。8月23日には、UNRWAの学校に通う小学3年生、中学2年生に視聴してもらい、インタビューをおこなった。

    ウズベキスタン

     ウズベキスタンの教育制度は9年間の義務教育を1-4の小学校、5-9年生の中学校にわけている。小学校はクラス担任制、中学校は教科担任制である。
     児童・生徒数は1クラス40-50名程度で、教室が足りない学校もある。そのため、午前中の学校と午後の学校という二部制を採用し、2つの学校が同一の校舎を午前、午後に分けて利用する学校もある。
     今回の調査では、8月29日にタシュケント市内の公立小学校・中学校の教師12名(教歴12-33年)、児童9名(小学校3年生、6年生、7年生、9年生)に番組を視聴してもらい、インタビューをおこなった。

    フィリピン

     フィリピンの中等教育は、4年であった。これが、近年3つの問題を引き起こしてきた。第一に基礎学力が低いため、国際的なテストにおいて低評価を受けてしまう問題である。第二に、16歳で高校を卒業しても、精神的にまだ未成熟のため就業が難しいという問題である。第三に、基礎教育が不足しているとして海外で就業する場合、責任ある役職のポジションで働くことができない問題である(ジェトロ 2014)。
     このような問題を解決するため、フィリピンでは単に教育期間を延ばすだけではなく、教育内容や方法の改善も含めて、全国レベルでの改善に取り組んでいる。そのような中で小学校における従来の教育では教師が一方的に説明をしたり、教科書の内容を丸暗記させたりすることが行われていた。しかし、最近では児童・生徒が積極的に授業で発言したり、彼ら自身に考えさせる授業の重要性を認識したりするようになってきた。
     全国の学校には、コンピュータやプロジェクタの数が十分とはいえないが導入され、ICTを活用する環境が整いつつある。しかし、それらを活用する教師研修が行われておらず、せっかく導入されたコンピュータも使われないまま放置されているケースもある。
     8月30日に、ブラカン州立大学大学院の修士課程を受講している公立小学校教師2名に、番組を視聴してもらい、感想を聞いた。また9月2日には、レイテ島にある私立小学校教師6名に、同様に番組を視聴してもらいインタビューをおこなった。


4. 結果と考察

  • 4.1. ヨルダン(アンマン市:UNRWA学校)の結果

     日本で開発された教育番組のうち、理科の教材については、UNRWAが支援する学校教育の中では有用に活用できることがわかった。その理由として、次の2の意見がある。
     ひとつは、番組で取り上げられる内容がUNRWAの学校に通う児童・生徒にとって身近なことである。たとえば、「たねのふしぎ(小学3年生)」では、草原の植物の種が虫や風を通してどのように移動していくかについて描かれている。ヨルダンは砂漠気候のため日本のような草原を身近に見ることはできないが、地中海側の地域では、緑豊かな場所もあり、同じ虫もいるため、自分たちの経験と結びつけながら理解できる。また、「地球をめぐる空気(小学6年生)」の番組では、様々な実験が行われているが、これらの実験器具は、UNRWAの学校にも設置されているものが多いため、実験が何か、何故その実験器具を使うかを理解しながら視聴することができる。実際に、これらの番組を児童・生徒に視聴してもらったところ、教師らが述べたことと同様に、「身近な内容や方法のため、理解がしやすい」ということだった。
     もうひとつの理由は、教室内の学習活動において見ることが容易ではない内容を拡大して見せたり、ズームアウトをして全体像を見せたりする映像によって、通常のメディア(たとえば、写真や教科書の挿絵など)を用いるだけでは出てこないような問いを児童・生徒が持つことができるからだ。実際に、調査に協力してくれた教師らも映像を見ながら、「これはなに?」「なにをしているところ?」「虫の手足についた花粉はなかなか落ちないものだ」といったように疑問や気づきが多くでた。映像を視聴したあと、教師らは、まさに自らが体験したようなことを児童・生徒が体験することによって、彼ら自身に問いを持たせることができるとその可能性を指摘した。UNRWAがめざす教育は、学習者中心型教育であり、児童・生徒が自ら問いを持つことをめざす。本教育番組は、児童・生徒が「問い」をもつきっかけとなるメディアになることが期待されている。具体的な意見として「日々の授業では教科書とチョークアンドトークのみで展開されるが、映像教材があると理解が深まるだけではなく、児童・生徒の探究心をかき立てる(ヨルダン教師C 教歴30年)」「理科は映像があるとイメージしやすく、日常関連させて疑問を持ちやすい。言語に関しては教師が追加説明をしてくれれば内容をより深く理解できる(ヨルダン教師D 教歴32年)」という意見が出された。
     一方で、このような児童・生徒からの多様な「問い」に対して教師がどのように応えていくのか、またそれを授業につなげていくかについては、教材研究が必要となる。多くの共通点がある理科の教育番組とはいえ、日本の児童・生徒の日常生活を中心とした内容であるため、ヨルダンにいる教師が答えることができない内容もあるだろう。たとえば、てんとう虫は日本ではなじみ深い虫だが、ヨルダンではてんとう虫を見たことがない教師や児童・生徒は少なくない。類似した虫はいるが、てんとう虫について児童・生徒が関心を持ったとき、教師がそれに対してどう対処するのか、その疑問をどう学習内容につなげるかについて、実際の授業をもとに検討していく必要がある。具体的には、教育番組の内容において重要な単語やその説明を資料として同時に学校現場に提示することが提案された。また、番組を利用する学年についても検討する必要がある。「地球はひとつ」「地球をめぐる空気」は日本では6年生のカリキュラムに合わせた番組であるが、ヨルダンでは中学2年生で学習する内容である。
     科目単位の授業ではなく、プロジェクト型学習(日本でいう総合的学習)のような教科横断の授業であれば、英語のリスニングの学習と合わせて利用できる案も出されたが、ヨルダンの現状のカリキュラムでは科目単位の授業のみである。
     児童・生徒に対する調査では、本教育番組が理解、関心の両方において肯定的な意見が出された。ただし、説明が多い高学年向けの番組になると、英語の説明についていくことができなかった。学校での利用の場合は、教師によって補足説明が可能であるが、児童・生徒の自主学習として教育番組を利用する場合は、母国語であるアラビア語への翻訳が求められる。


  • 4.2. ウズベキスタン(タシュケント市:公立小学校)の結果

     ウズベキスタンの小学校における調査では、1年生から6年生までの12名の教師が調査に参加し、100%の教師が授業で活用したいと答えた。その理由として主に次の3点があげられた。
     ひとつは、児童・生徒への理解促進である。ウズベキスタンの公立小学校では、旧ソ連時代のなごりもあり、完全な教師中心型の教育が行われている。しかしながら、教師は児童・生徒の学習意欲を重視した働きかけをしており、授業においても教師と児童の間のインタラクションは多い。視察した授業では先生の質問に対して児童・生徒はよく手をあげて応えていた。教師中心型の教育ではあるが、児童・生徒の理解を確かめながらインタラクションをもつなど、一方的な知識伝達ではなく、児童・生徒の理解を確認しながら授業が展開されていた。児童・生徒の理解を重視する教師らは、本番組が授業で説明できない部分の補足になることを期待していた。番組内容はウズベキスタンのカリキュラムに沿うものであり、このまま授業で活用できるという意見が多かった。たとえば、「ひらけ!ふしぎのとびら」の番組は植物、花粉、花蜜という単元に適する。教師は「普段の授業では教科書を使っていくらうまく説明しても児童たちにとって少し分かり難い点が残っているが、映像を交えながら説明するとより効果的になると思う(ウズ教師G 教歴31年)」と述べていた。また、「地球はひとつ」の番組では、植物学を教える上で植物の二酸化炭素と酸素の関係をあらわしているサイクルがこの番組でとても分かり易く説明されていることから、地球温暖化の番組内容は植物学にも、化学にもとても適する内容であるという意見が得られた。さらにこの番組を見せたあとで、「実際に実験を行うことができれば生徒の関心をさらに引くことができる(ウズ教師H 教歴12年)」という意見もあった。このように既存のカリキュラムの内容を理解させるメディアとして教師の番組教材の期待が高かった。
     2つめの理由は、教師は児童・生徒の「聞く力」「話す力」「表現力」を育てるためのメディアとして教育番組を利用できるからである。映像番組は児童・生徒への間接経験となり、彼らの意見や感情を引き出すことができる。実際に本調査において、番組を視聴した児童・生徒が番組の内容について質問をしたり、感想を述べたり、番組内容を説明する場面がみられた。その様子をみた教師らは、本教育番組のようなメディアは、児童・生徒の思考(疑問)や関心を引き出し、児童・生徒同士のコミュ二ケーションを生み出すと考えたようだ。コミュニケーションが生まれる授業では、「聞く力」「話す力」「表現力」の育成も可能であり、教育番組に対する期待が高いと考えられる。
     3つめの理由は、新しい教育方法への期待である。先述したようにウズベキスタンの公立小学校は、教師中心型の教育である。言い換えれば、教科書を中心とした説明中心の授業である。従来の教育方法は、教師が教えるリソースも児童・生徒が学ぶリソースも教科書に限定されていることから「教科書を教える」形態の授業となっているが、本教育番組の活用により、教科書の枠を超えた授業展開を期待している(ウズベキスタンの公共番組は5局のみで教育番組を扱うものはほとんどない)。実際に、番組視聴後のインタビュー調査では、「今後は教育番組を用いて授業をしたらどうなるのか」「その授業設計はどうなるのか」について、教師同士で積極的に話し合われた。
     一方、ウズベキスタンの公立小学校でこれらの教育番組を活用するためには、設備面と言語の壁、教育番組を活用した授業設計への理解と実践など検討すべき課題がある。
     設備面について、ほとんどの教師が番組を視聴するための設備が十分に整っていないことを述べ、教育番組利用のニーズは高いが、実際に授業で利用することの難しさを指摘した。調査対象校は一般的なウズベキスタンの公立学校であるが、教室には機器設備はほとんどない。iPadなど電源に頼らないポータブルの端末を利用することで解決できる点もあるが、JAMCOが提供する教育番組の視聴方法は、著作権に関連して利用規程があるため、再生方法(再生できる端末やデータのフォーマットなど)を今後検討する必要がある。
     言語については、ウズベキスタンの場合、比較的複雑な現状がある。ウズベキスタンの公立学校では、ロシア語とウズベキスタン語の学校がそれぞれあり、児童・生徒(および保護者)は、学校で使用される言語をもとに進学先を決定する。いずれかの言語を選択するが、中等・高等教育進学のことを考慮すると両言語を習得することが重要となる。そのため、英語よりもロシア語のニーズが高く、英語に翻訳された教材は利用されにくい。学校現場で利用する場合も、自主学習で利用する場合も、ロシア語またはウズベク語に翻訳したものを提供する必要がある。
     最後に、教育番組を活用した授業設計への理解と実践に関する課題である。教師らは、教育番組を活用した授業に関心を示すものの、これまで教科書を中心とした授業を行っているため、実際に授業で使うとなると、従来の方法だけでは対処できないことがある。たとえば、教科書を超えた児童・生徒からの質問にどう答えていくのか、映像の何を説明の補足として見せて何を見せないのか、見せるタイミングはいつか、といった授業設計上考慮すべき点が少なくない。学校の教師になるためには、担当する科目の学科を卒業し、その後、政府が提供する1ヶ月の研修を受ける。研修では授業の教え方を学ぶが、映像を活用した授業設計について学ぶ機会はない。日本でいう授業研究のような場を設け、教師自らが授業開発に取り組める基盤づくりも同時に必要となるだろう。


  • 4.3. フィリピン(ブラカン市、レイテ島)の結果

     番組視聴中の教師は、どのようなポイントが番組で強調されているか、どのように授業で児童生徒につたえることができるのか話し合っていた。そして全員の教師から、このような教材は生徒にとって有益であり、カリキュラムが内容と適合していれば、学習への動機付けにつながるので使ってみたいという回答を得た。また「ビデオならではの撮影をしていて面白い(フィリピン教師A 教歴5年)」「観察だけではこのような映像を見ることはできない(フィリピン教師B 教歴13年)」という意見もあった。
     特に積極的な教師は、これまでもインターネット上にある理科教材をダウンロードして、授業で使ったりしている。特に理科の映像は、時間の短縮やスローモーションなど観察では見ることのできない現象を見せることができることから、生徒の意欲が高まると述べていた。教師としては、カリキュラムに添ってインターネット上で検索でき、自由に使うことができれば、教育の改善に役立つと利用に関して強い関心があることがわかった。
     最近は、フィリピンの小学校においてもICT機器が導入されてきていることから、ビデオを見せる環境は十分とはいえないが、整いつつある。ただし、ICT機器を使うためには機材を運んだり、準備をしたりすることが求められる。


5. まとめ

 本稿は、途上国における日本の教育番組の二次利用の可能性と課題を明らかにするため、JAMCOが保有する教育番組がどのように理解(解釈)されるかを調査することを目的とした。調査はヨルダン、ウズベキスタン、フィリピンにおいて2014年8月に実施した。
 調査の結果、各国、現地語への翻訳要望はあるが、現状の英語のままでも授業教材として十分に活用できることが分かった。また、これまで教育番組を活用したことのない教師にとって、番組をどのように授業の中にとりいれるか、番組を児童生徒に視聴させながらどのような発問をしていけばよいのか、児童生徒に考えさせる時間をどのタイミングで取り入れれば良いのかという授業設計に関する問題があることが分かった。
 小平(1994)は教師用のテキストを作成することを提案していたが、それに加え、教育番組を授業に取り入れるということは、授業設計それ自体が変わるということである。教育番組を教材として渡しただけでは、その意義や活用方法を理解されない可能性があり、番組提供と同時に、番組を活用した授業設計の講習が必要である。つまり、教育番組を授業にとりいれるための参加型のワークショップ研修や、教師自身がそれを活用した授業を受ける、教師同士で授業の内容を検討し合う授業研究のような仕組みが番組提供と合わせて必要であると考える。



参考文献

  • Cole, Charlotte, Frances(2009)"What Difference Does it Make? : Insights from Research on the Impact of International Co-Productions of Sesame Street", NHK Broadcasting studies No.7 pp.157-177
  • 市川昌(1990)「開発途上国における教育番組改善の条件と制作技術協力の課題」放送教育開発センター研究紀要 第4号 pp.41-68
  • 小平さち子(1994)「タイ国におけるNHKテレビ教育番組の効果―小学生を対象とした調査からー」放送教育研究 第19号 pp.19-44
  • 小平さち子(2009)「子ども向け教育メディアの研究意義」.放送教育と調査.NHK pp.82-101
  • Konno, T., Kishi, M., Kubota, K.(2012)"The Conflict and Intervention in an Educational Development Project -Lesson Study Analysis Using Activity System in Palestinian Refugee Schools-" Educational Technology Research Vol.35 Nos.1,2: pp.43-52.
  • Konno, T., Miyake, K., Kishi, M.(2014)"How to Improve the Effective Uses of the Blackboard Through Lesson Study in India?" 10th Annual International Conference of the World Association of Lesson Studies, Bandung Indonesia.
  • Nu Nu Wai,Kubota, K., and Kishi, M.(2010)"Strengthening Learner-Centered Approach(LCA)in Myanmar Primary School Teacher Training: Can Initial Practices of LCA BE Seen?" International Journal for Educational Media and Technology., 4(1):pp.46-56
  • 文部科学省(2013)国際教育協力. http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/kyouiku/main5_a9.htm(2014.11.30参照)
  • 佐藤学(1997)「教師というアポリア -反省的実践家-」世織書房
  • 山田肖子(2009)「国際協力と学校」創成社
  • UNRWA(2014)http://www.unrwa.org(参照日 2014年11月30日)
  • UNRWA and UNESCO(2006). Quality Assurance Framework for UNRWA Schools 2006. UNRWA/UNESCO Department of Education, UNRWA
  • ジェトロ(2011)「基礎教育を6-4制からK-6-4-2制へ」(海外研究員レポート)
    http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Download/Overseas_report/1106_suzuki.html
    (参照日 2014年11月30日)

※リンク先は掲載時のものです。現在は存在しないか変更されている可能性があります。

今野 貴之(明星大学)、岸 磨貴子(明治大学)、久保田 賢一(関西大学)


今野 貴之

2014.4― 明星大学 教育学部 教育学科 助教
2012.4―2014.3  目白大学 社会学部 メディア表現学科 助教

岸 磨貴子
2013.4― 明治大学国際日本学部 特任講師
2010.4―2013.3  京都外国語大学 国際言語平和研究所 研究員

久保田 賢一
1973.3 中央大学理工学部物理学科 学士号
1986.6 米国インディアナ大学大学院修士課程教育学部教育システム工学科 修士号
1991.9 米国インディアナ大学大学院博士課程教育学部教育システム工学科 博士号
職歴:
1998.4― 関西大学 総合情報学部 教授
2010.2―2010.9  米国ハワイ大学教育学研究科 客員教授

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